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番外編
08
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トイレの話になったからか本当に尿意を覚え、お願いだからと横田くんを個室から追い出した。仕方ないなと言いながら、それでも手は括られたままだった。
あの時のように直ぐに解ける括り方ではなくガッチリと固い結び目にため息を吐く。なんとか用を足しズボンもきちんと履いてトイレを出ると、横田くんは直ぐそこに立っていた。
誰もいないからか寝室ではなく共用スペースのソファーに座る。身体を密着させ腰を抱かれ身動きが取れない。
身体が強張る。
「そんなに緊張しなくてもいいのに」
「離して…」
「一年生の最初はさ…」
僕の言葉が聞こえてないのか無視されて、先ほどの続きを話し始めた。
「何かあったら、横田くんって僕の事頼ってきたよね。今も可愛いけど、あの頃は天使だったよ。それなのにしばらくすると碧空の事ばかり頼ってさ。碧空なんかいっつも碧の事いじめるのに、碧空くんって呼んで、碧の事を姫って呼ばせてさ。僕がどんなに名前で呼んでってお願いしても恥ずかしいってそれだけで断られたよ」
そんな昔のことを今言われても忘れてしまった。確かに小学校の時は名前で呼ぶのは碧空くんだけで、姫って呼ぶのも碧空くんだけだった。小さな時から碧空くんは特別だったんだ。
その時ドンドンとドアが叩かれた。舌打ちとともに立ち上がると僕の腕を持って立たせた。横田くんの寝室ではないドアを開けるとクローゼットの中に僕を入れてポケットから紐を出してボールと腕を繋げた。
「痛くない?静かにしててね。そうだ!ごめんね…ホントはこんなことしたくないんだけど……これでよし!待っててね」
口に猿轡を噛ませ、頭を撫でると出ていった。その間もドアは乱暴に叩かれ続けている。
その時を待った。ドアの外に誰がいるかはわからない。探してくれているのか、たまたま横田くんを訪ねて来たのか。でも、あの乱暴な音は恐らく探しにきてくれたのだと思う。同室者の寝室のドアを開けたのか、クローゼットの格子の隙間から光が一瞬見えてまた暗くなった。
「んん!っんん!」
何か言い争う声が聞こえる。ザワザワとする声は複数で、何人もの来訪者が大きな声で何かをしゃべっている。そのせいか、僕が発するくぐもった呻き声は隣の部屋には聞こえないようだった。
このままだとまずい。クローゼットの扉を蹴った。ドンドンと蹴り続けると壊れたのか扉は外れた。中谷くんの事は知らないから、申し訳ないと思いながらポールに捕まり棚の上の物を蹴り落とす。
ドスン、ガチャンと音がした。
リビングの喧騒が一瞬なくなり誰かがドアを開ける。リビングからの光が漏れてその誰かの影が飛び込んできた。逆光で顔は見えないけれど誰かは直ぐにわかった。
「姫!」
大好きな人の声に急に力が抜ける。
「碧空、くん…痛っ!」
「酷いことするな…今、外すから…待って…姫、大丈夫?心配したよ。もう、離さないからね」
僕を包む優しい腕は二度と離さないとでも言うように緩まず、宥めるように髪を梳き背中を撫でた。
「碧空くん、碧空くん…」
怖かったとは続けなかった。
少し…そう、少しは怖かった。横田くんが言うように、このまま二学期に同室者が帰ってくるまで二人きりでここにいるのかと思うと。冷静に考えればあり得ないことでも、現実的ではないとはわかっていてもそうなったらどうしようと…少しは怖かった。
横田くんが語る歪んだ感情も怖かった。でも、完全に否定はできない。同情と言われればそうかもしれない。あんなに荒んだ気持ちにさせたのは僕なんだ。なぜ今爆発したのかはわからないけれど、そのスイッチを押したのもおそらく僕なのだ。
こんなに心配してくれている碧空くんは許さないだろう。
でも、僕は…。
許せない…許せないけど……、けど…。
僕の名を呼び、もう大丈夫だと繰り返す碧空くんは、まるで自分に言い聞かせるように何度も言葉にする。僕も緊張から解き放たれ安心したからか、その腕を掴んで離せなかった。
あの時のように直ぐに解ける括り方ではなくガッチリと固い結び目にため息を吐く。なんとか用を足しズボンもきちんと履いてトイレを出ると、横田くんは直ぐそこに立っていた。
誰もいないからか寝室ではなく共用スペースのソファーに座る。身体を密着させ腰を抱かれ身動きが取れない。
身体が強張る。
「そんなに緊張しなくてもいいのに」
「離して…」
「一年生の最初はさ…」
僕の言葉が聞こえてないのか無視されて、先ほどの続きを話し始めた。
「何かあったら、横田くんって僕の事頼ってきたよね。今も可愛いけど、あの頃は天使だったよ。それなのにしばらくすると碧空の事ばかり頼ってさ。碧空なんかいっつも碧の事いじめるのに、碧空くんって呼んで、碧の事を姫って呼ばせてさ。僕がどんなに名前で呼んでってお願いしても恥ずかしいってそれだけで断られたよ」
そんな昔のことを今言われても忘れてしまった。確かに小学校の時は名前で呼ぶのは碧空くんだけで、姫って呼ぶのも碧空くんだけだった。小さな時から碧空くんは特別だったんだ。
その時ドンドンとドアが叩かれた。舌打ちとともに立ち上がると僕の腕を持って立たせた。横田くんの寝室ではないドアを開けるとクローゼットの中に僕を入れてポケットから紐を出してボールと腕を繋げた。
「痛くない?静かにしててね。そうだ!ごめんね…ホントはこんなことしたくないんだけど……これでよし!待っててね」
口に猿轡を噛ませ、頭を撫でると出ていった。その間もドアは乱暴に叩かれ続けている。
その時を待った。ドアの外に誰がいるかはわからない。探してくれているのか、たまたま横田くんを訪ねて来たのか。でも、あの乱暴な音は恐らく探しにきてくれたのだと思う。同室者の寝室のドアを開けたのか、クローゼットの格子の隙間から光が一瞬見えてまた暗くなった。
「んん!っんん!」
何か言い争う声が聞こえる。ザワザワとする声は複数で、何人もの来訪者が大きな声で何かをしゃべっている。そのせいか、僕が発するくぐもった呻き声は隣の部屋には聞こえないようだった。
このままだとまずい。クローゼットの扉を蹴った。ドンドンと蹴り続けると壊れたのか扉は外れた。中谷くんの事は知らないから、申し訳ないと思いながらポールに捕まり棚の上の物を蹴り落とす。
ドスン、ガチャンと音がした。
リビングの喧騒が一瞬なくなり誰かがドアを開ける。リビングからの光が漏れてその誰かの影が飛び込んできた。逆光で顔は見えないけれど誰かは直ぐにわかった。
「姫!」
大好きな人の声に急に力が抜ける。
「碧空、くん…痛っ!」
「酷いことするな…今、外すから…待って…姫、大丈夫?心配したよ。もう、離さないからね」
僕を包む優しい腕は二度と離さないとでも言うように緩まず、宥めるように髪を梳き背中を撫でた。
「碧空くん、碧空くん…」
怖かったとは続けなかった。
少し…そう、少しは怖かった。横田くんが言うように、このまま二学期に同室者が帰ってくるまで二人きりでここにいるのかと思うと。冷静に考えればあり得ないことでも、現実的ではないとはわかっていてもそうなったらどうしようと…少しは怖かった。
横田くんが語る歪んだ感情も怖かった。でも、完全に否定はできない。同情と言われればそうかもしれない。あんなに荒んだ気持ちにさせたのは僕なんだ。なぜ今爆発したのかはわからないけれど、そのスイッチを押したのもおそらく僕なのだ。
こんなに心配してくれている碧空くんは許さないだろう。
でも、僕は…。
許せない…許せないけど……、けど…。
僕の名を呼び、もう大丈夫だと繰り返す碧空くんは、まるで自分に言い聞かせるように何度も言葉にする。僕も緊張から解き放たれ安心したからか、その腕を掴んで離せなかった。
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