見ぃつけた。

茉莉花 香乃

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番外編

04

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買い物を済ませ碧空くんの部屋に戻るとだいぶ落ち着いてきた。感情の起伏が激しくて心配をかけているのはわかっているけどどうしようもない。ただ、二人きりでこの部屋にいる時までウジウジ悩みたくない。かと言って横田くんにもう碧空くんに近寄らないでとは言えない。それは優しさなんかじゃなく、もっと醜い感情が僕の中にあるから。横田くんがこの部屋に来たことはない。こんなふうに仲良くなる前のことは知らないけれど、今までもなかったと思う。

碧空くんにとって僕は特別。そう思うことでなんとか均衡を保ってる。

僕がいる時は余程のことがない限り誰もこの部屋に入れない。あの事件の後、八城さんたちが来たことがあるけれどそれだけ。

課題を済ませてしまおうと教科書と問題集とノートを広げる。同じクラスでも取ってる教科の違いで、必ず同じ勉強をしているわけじゃない。

それぞれ違うことをしていても時々視線を合わせる。

碧空くんは僕の髪を撫でて、指を絡ませる。眩しい物でも見るように目を細め、優しい眼差しが僕を包む。チュッとキスをする碧空くんは満面の笑みで、その笑顔を見ているだけで幸せになる。そして、思い出したかのように勉強をする。

課題を済ませて、まったりとした時間を過ごしている。二人でソファーに座り何をするでもなく過ぎて行く時間は大切なもの。

一つずつ離れていた時の話をする。僕が護身術だなと言われながら習っていた空手の話は何回も聞かれた。どんな人と一緒だったとしつこく聞かれ、形や技の話は僕がこんなのだよと言わない限りは聞いてこなかった。これは…嫉妬してくれてるのかな?そんな気持ちで習ってたわけじゃないし、男の人を好きになったのは碧空くんだけなのでそんな心配いらないのに。

僕は碧空くんがどんなふうに僕の事を探してくれたかの話を聞きたがり、困らせた。その話は、そのつもりはなくても僕に意地悪していたと思われていた時の話だから。でも、意地悪されていたと思いながらも嫌じゃなかったとはっきりと思いを伝えた。

グラタンを作りながら明日のブランチの準備もする。日曜日の朝はいつもゆっくりと起きて、穏やかな時間を過ごす。グラタンの具はたっぷりの玉ねぎとベーコン、ほうれん草とマカロニ。ベシャメルソースを作りチーズをのせてオーブンへ。トマトのスープとグリーンサラダ、少しだけお肉を焼いて添えておく。最後にスコーンを焼いて出来上がり。

「姫、夏休みだけど…」

二人で食事をしながらおしゃべり。不自然に途切れたその先は、僕にとってはあまり聞きたくない話だ。

「実家にはどのくらい帰るの?」
「一週間くらいだよ」
「毎年さ…」

言いにくそうに言葉を繋ぐ。

「中学の頃から、夏休み始まったら直ぐに泊まりで遊びに行ってたんだ」
「うん」

…知ってる。
美都瑠に聞いてるから。
碧空くんは僕が実家に帰ると聞いて項垂れていたのも知ってる。

まだ、付き合う前のこと。だから、何に失望しているかはわからなかった。きっと、僕が姫宮碧だと知る前から一緒に行くことを楽しみにしていてくれてたんだと思うと嬉しかった。

「仕方ないよ。僕も行きたいけど姉さんが怖いからさ」
「ああ、あの人…迫力あるよな」
「うん」
「じゃあ、帰ってくる時に迎えに行くよ。挨拶もしたいしさ」
「えっ?」
「だって、篤人あつひとが俺の事、報告してるって言ってたから」
「でも、いいの?」

あの時の子だって知ったら碧空くんが怒られそう。
……そもそも、男の子と付き合ってるってところを反対されそう。

「行くから。ねっ?」

僕を安心させるように抱きしめて、早く会いたいからと耳元で囁いた。

僕もと抱きつく腕の力を強めると、顎を持たれ顔が近づく。

優しいキスが僕を癒した。

それから期末考査があり、慌ただしくも幸せな時間が過ぎていく。

山沿いにあるこの学校にも夏は容赦なくやってくる。しかし、冷房の効いた校舎は快適な温度で外の暑さが嘘のようだ。
直ぐそこまで夏休みが迫っている。
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