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番外編
02
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何人にも『俺の事覚えてる?』と聞かれた時には、覚えていない申し訳なさに泣きそうになった。でも仕方ないじゃない?小学生から高校生へ成長してるのに。身体もだけど顔も子どもから大人へ…くらいの変化だと思うんだ。
辛うじて同級生は名前を聞けばなんとなく覚えているもので、そうすると碧空くんの機嫌が悪くなった。
「俺だけ覚えてたら良いんだよ」
膨れっ面でそんなことを言うのが可愛い。だから、正直に答えておいた。
「ここに来て、小学校の知り合いだと直ぐにわかったのは碧空くんだけだよ?」
途端に笑顔になる碧空くんに僕も思わず笑顔になる。そんな僕たちを見て、美都瑠と智親くんはバカップル…と呆れてた。
バカップルって失礼な。
仲良しって言って欲しいよね。
「英、何しに来たんだ?」
僕を抱きしめたまま横田くんを睨んでいる。
「何って、お昼をご馳走になろうかなって思って。筑紫くんもそのために来たんだろ?」
「お前は呼んでない」
土曜日の夕方から日曜日の夜まで碧空くんの部屋で過ごすことが多いけど、土曜日の昼はここでお昼を食べる。美都瑠も智親くんも楽しみにしてくれてる。今日はオムライスとスープとグリーンサラダ。美味しそうな生ハムがあったからサラダの上にクルトンと一緒に少し乗っけて。
「碧空くん、大丈夫だよ?」
「姫、無理しなくてもいいから」
いつも少し多めに作ってる。残っても日曜日の夜にこの部屋に帰って来た時には、綺麗に無くなってる。食器は洗って棚に納まっている。智親くんが食べてくれるのだ。残りモノを食べてもらうのが申し訳なくて碧空くんの部屋に持っていこうとしたら、智親くんは置いていって良いと言ってくれたから、甘えてる。
「おお、姫宮は優しいな」
僕の頭を…多分、撫でようとしたのだろう。その手は碧空くんに掴まれて頭上には届かなかったけれど、そんなことはお構いなしに笑顔でお礼を言われた。
何や彼やと言いながら、小学校からの付き合いである横田くんと碧空くんは仲良しだ。
ある時横田くんは碧空くんのいない時にこそっと告白してくれた。
「俺、碧空が好きだったんだ」
驚きと申し訳なさで顔が歪む。
「そんな顔するなって。碧空に好きな子がいるのは知ってた。桜庭さんと付き合ってるかもと思ったこともあったし…。良いんだ。たださ、こんなふうに思ってる奴がいるんだって知ってて欲しかった。ごめん。俺って嫌な奴だよな。でも、でも、別に邪魔しようなんて思ってないからさ」
「うん……ごめんね」
「謝るなよ」
「うん…そうだね…ごめんね」
「なんで姫宮が泣くんだよ」
「うん…ごめん」
「ほらほら…」
ハンカチを出して涙を拭いてくれた。恋敵の僕をこんなふうに優しくしてくれるなんて、なんて心が広いんだ。
だから、碧空くんと横田くんが仲良くしてると嬉しいけれど、複雑な気分になる。
碧空くんは僕から遠ざけるために横田くんに触れるけれど、その手を逆に掴みたくなる。
違うのに…。
きっと、横田くんは狙ってやってる。
……嫌だ。
こんなふうに友だちを嫌な感情で見るのが嫌だ。でも、碧空くんは僕の隣に居てくれる。それは間違い無いんだ。
絶対……。
歪んだ顔のまま昼食の準備をする。
「碧、どうしたの?顔色悪いよ?」
僕の顔を覗き込み、美都瑠が心配そうな顔をする。
「ん?大丈夫だよ。手伝ってくれる?」
「それは手伝うけど…。本当に大丈夫?なんか真っ青…」
「ほら、これ切って!」
玉ねぎを渡してこの醜い気持ちを悟られないように話を逸らした。碧空くんは横田くんと智親くんと三人で夏休みにどこへ遊びに行くかと相談している。
もともと横田くんはクラスが違うから智親くんとはしゃべったことがなかったそうだけど、僕に話しかけるうちにだんだんと仲良くなって、今ではこんなふうにこの部屋までやってくる。僕が居ない時にここに来てるかは知らないけれど、複雑な気分。
自分にこんなに暗い感情があるんだと初めて知った。僕を襲わせたあのサラサラヘヤーの人の気持ちが少しだけわかる。碧空くんに振り向いてもらえてる僕がこんなことを言ったら怒られるかもしれないけれど、仄暗い感情に支配されてしまいそう。
辛うじて同級生は名前を聞けばなんとなく覚えているもので、そうすると碧空くんの機嫌が悪くなった。
「俺だけ覚えてたら良いんだよ」
膨れっ面でそんなことを言うのが可愛い。だから、正直に答えておいた。
「ここに来て、小学校の知り合いだと直ぐにわかったのは碧空くんだけだよ?」
途端に笑顔になる碧空くんに僕も思わず笑顔になる。そんな僕たちを見て、美都瑠と智親くんはバカップル…と呆れてた。
バカップルって失礼な。
仲良しって言って欲しいよね。
「英、何しに来たんだ?」
僕を抱きしめたまま横田くんを睨んでいる。
「何って、お昼をご馳走になろうかなって思って。筑紫くんもそのために来たんだろ?」
「お前は呼んでない」
土曜日の夕方から日曜日の夜まで碧空くんの部屋で過ごすことが多いけど、土曜日の昼はここでお昼を食べる。美都瑠も智親くんも楽しみにしてくれてる。今日はオムライスとスープとグリーンサラダ。美味しそうな生ハムがあったからサラダの上にクルトンと一緒に少し乗っけて。
「碧空くん、大丈夫だよ?」
「姫、無理しなくてもいいから」
いつも少し多めに作ってる。残っても日曜日の夜にこの部屋に帰って来た時には、綺麗に無くなってる。食器は洗って棚に納まっている。智親くんが食べてくれるのだ。残りモノを食べてもらうのが申し訳なくて碧空くんの部屋に持っていこうとしたら、智親くんは置いていって良いと言ってくれたから、甘えてる。
「おお、姫宮は優しいな」
僕の頭を…多分、撫でようとしたのだろう。その手は碧空くんに掴まれて頭上には届かなかったけれど、そんなことはお構いなしに笑顔でお礼を言われた。
何や彼やと言いながら、小学校からの付き合いである横田くんと碧空くんは仲良しだ。
ある時横田くんは碧空くんのいない時にこそっと告白してくれた。
「俺、碧空が好きだったんだ」
驚きと申し訳なさで顔が歪む。
「そんな顔するなって。碧空に好きな子がいるのは知ってた。桜庭さんと付き合ってるかもと思ったこともあったし…。良いんだ。たださ、こんなふうに思ってる奴がいるんだって知ってて欲しかった。ごめん。俺って嫌な奴だよな。でも、でも、別に邪魔しようなんて思ってないからさ」
「うん……ごめんね」
「謝るなよ」
「うん…そうだね…ごめんね」
「なんで姫宮が泣くんだよ」
「うん…ごめん」
「ほらほら…」
ハンカチを出して涙を拭いてくれた。恋敵の僕をこんなふうに優しくしてくれるなんて、なんて心が広いんだ。
だから、碧空くんと横田くんが仲良くしてると嬉しいけれど、複雑な気分になる。
碧空くんは僕から遠ざけるために横田くんに触れるけれど、その手を逆に掴みたくなる。
違うのに…。
きっと、横田くんは狙ってやってる。
……嫌だ。
こんなふうに友だちを嫌な感情で見るのが嫌だ。でも、碧空くんは僕の隣に居てくれる。それは間違い無いんだ。
絶対……。
歪んだ顔のまま昼食の準備をする。
「碧、どうしたの?顔色悪いよ?」
僕の顔を覗き込み、美都瑠が心配そうな顔をする。
「ん?大丈夫だよ。手伝ってくれる?」
「それは手伝うけど…。本当に大丈夫?なんか真っ青…」
「ほら、これ切って!」
玉ねぎを渡してこの醜い気持ちを悟られないように話を逸らした。碧空くんは横田くんと智親くんと三人で夏休みにどこへ遊びに行くかと相談している。
もともと横田くんはクラスが違うから智親くんとはしゃべったことがなかったそうだけど、僕に話しかけるうちにだんだんと仲良くなって、今ではこんなふうにこの部屋までやってくる。僕が居ない時にここに来てるかは知らないけれど、複雑な気分。
自分にこんなに暗い感情があるんだと初めて知った。僕を襲わせたあのサラサラヘヤーの人の気持ちが少しだけわかる。碧空くんに振り向いてもらえてる僕がこんなことを言ったら怒られるかもしれないけれど、仄暗い感情に支配されてしまいそう。
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