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第四章
04
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◆◆◆◆◆
失敗した。
あんなことの後に嫉妬で姫を苦しめてしまった。
けど……なんだ、あれ。天然?
姫ってこんなに素直に甘える感じだったかな?素直な姫に、思わず今聞かなくてもいいことまで聞いてしまった。
ずっと気になってた篤人の事。あの時は気になるけど、それだけ。でも、心の片隅であの生徒会室の出来事は色濃く残ってた。
迷惑かけたくなくて話しかけなかったのは、その時の俺の一番は克さんで、何かあった時に守ってやれないと思ったから。
今は違う。申し訳ないけど、克さんには自己防衛してもらおう。篤人に頼んでもいい。克さんの恋人は嫌がるかもだけど、俺から見てると篤人と克さんがくっ付くとは思えない。
美都瑠と智親がいじめるなよと言いながら部屋から出て行った。それは、まあ良かった。せっかくの二人きりを邪魔しないで欲しいから。
空白の五年半を埋めたいんだ。
先ずはあの時のことを謝って、どれだけ後悔したか、いっぱい探したことまで全部知ってもらいたい。…お姉さんに怒られたりもしたっけ。お姉さんには「まあ、頑張りなさいね」と励ましか嫌味かわからない激励を受けた。不思議な人だった。姫の事を溺愛してるのに突き放す。教育方針なのかと疑問に思ったけどお母さんはおおらかな人だった。あの日も怒られなかった。姫を俺から引き剥がしたけれど…。
俺の質問に答え、俺の腕の中で寝息を立てる姫。なんて可愛いんだ。でも、ここは理性で抑えなくては。
さっき、思わずキスしてしまった。腫れた頬が痛そうだから触れるだけのキス。抵抗はされなかった。
これから少しずつキスの回数を増やして…身体触らせてくれるかな?その先も…いやいや、ゆっくりでいい。
高倉さんたちにされたこともまだ少し心に嫌なこととして残ってるみたいだし、今日のはもっと辛かっただろう。
ああ、この部屋で一緒に住みたいよ。
智親と代わってもらおうかな…。
あいつ、代わってくれないだろうな…。
◆◆◆◆◆
碧空くんと手を繋いで食堂まで来た。こんなふうに二人で食堂に来たことはなかった。繋いだ手は歩く速さが違うため少し引っ張られ小走りになってしまう。
「ああ、悪い。速かったか?」
僕を気遣う碧空くんは満面の笑みだ。
「碧空くん…恥ずかしいよ」
「俺と一緒なら恥ずかしくないだろう?」
今、僕は眼鏡もウィッグもコンタクトさえ入れていない。クラスメイトには連絡が回っていて教室ではそれほど驚きの声はなかった。
その代わり何故か一人ずつ握手をしたけれど。碧空くんは僕の隣で不機嫌だったけれど、みんなに押し切られていた。僕は今までクラスの中で親しく話すのは美都瑠と智親くんだけだったからこんなふうに仲良くなれるのは嬉しくて始終笑顔だった。そのことが碧空くんの機嫌が悪くなる原因の一つだと美都瑠に教えてもらい、理由もわからないまま謝った。
二日で腫れは引いたけれど、内出血で紫と赤黒い色が混ざった汚い顔にも関わらず碧空くんは可愛いと言ってくれる。クラスメイトにも可愛いと言ってもらえて複雑な気持ちだけど、僕の事を気遣う「痛くない?」や「大丈夫?」の言葉は嬉しかった。何かあれば助けるからなと口々に言ってくれるから心強い。
あんなことは二度とごめんだ。
ウイッグやコンタクト、眼鏡がないことだけでも落ち着かないのに僕は碧空くんの横にぴったりくっ付いて、手は碧空くんの手の中にある。碧空くんは僕の肩に腕を回し抱きしめてくれてるけど、ここは食堂でみんなの視線が痛い。
「大丈夫だぞ?顔上げて、回り見てみろよ?あっ、心配ならさちょっとだけニコって笑っとけよ。ちょっとだぞ?」
僕の耳に触れるくらい近くで囁く声がこそばゆい。碧空くんの手をぎゅっと握り顔を上げてみる。引きつった顔かもしれないけど少し笑ってみる。睨むような嫌な視線はなかったけれどみんな僕たちを見てるんじゃないかと思うほどの視線を感じる。
「恥ずかし……」
失敗した。
あんなことの後に嫉妬で姫を苦しめてしまった。
けど……なんだ、あれ。天然?
姫ってこんなに素直に甘える感じだったかな?素直な姫に、思わず今聞かなくてもいいことまで聞いてしまった。
ずっと気になってた篤人の事。あの時は気になるけど、それだけ。でも、心の片隅であの生徒会室の出来事は色濃く残ってた。
迷惑かけたくなくて話しかけなかったのは、その時の俺の一番は克さんで、何かあった時に守ってやれないと思ったから。
今は違う。申し訳ないけど、克さんには自己防衛してもらおう。篤人に頼んでもいい。克さんの恋人は嫌がるかもだけど、俺から見てると篤人と克さんがくっ付くとは思えない。
美都瑠と智親がいじめるなよと言いながら部屋から出て行った。それは、まあ良かった。せっかくの二人きりを邪魔しないで欲しいから。
空白の五年半を埋めたいんだ。
先ずはあの時のことを謝って、どれだけ後悔したか、いっぱい探したことまで全部知ってもらいたい。…お姉さんに怒られたりもしたっけ。お姉さんには「まあ、頑張りなさいね」と励ましか嫌味かわからない激励を受けた。不思議な人だった。姫の事を溺愛してるのに突き放す。教育方針なのかと疑問に思ったけどお母さんはおおらかな人だった。あの日も怒られなかった。姫を俺から引き剥がしたけれど…。
俺の質問に答え、俺の腕の中で寝息を立てる姫。なんて可愛いんだ。でも、ここは理性で抑えなくては。
さっき、思わずキスしてしまった。腫れた頬が痛そうだから触れるだけのキス。抵抗はされなかった。
これから少しずつキスの回数を増やして…身体触らせてくれるかな?その先も…いやいや、ゆっくりでいい。
高倉さんたちにされたこともまだ少し心に嫌なこととして残ってるみたいだし、今日のはもっと辛かっただろう。
ああ、この部屋で一緒に住みたいよ。
智親と代わってもらおうかな…。
あいつ、代わってくれないだろうな…。
◆◆◆◆◆
碧空くんと手を繋いで食堂まで来た。こんなふうに二人で食堂に来たことはなかった。繋いだ手は歩く速さが違うため少し引っ張られ小走りになってしまう。
「ああ、悪い。速かったか?」
僕を気遣う碧空くんは満面の笑みだ。
「碧空くん…恥ずかしいよ」
「俺と一緒なら恥ずかしくないだろう?」
今、僕は眼鏡もウィッグもコンタクトさえ入れていない。クラスメイトには連絡が回っていて教室ではそれほど驚きの声はなかった。
その代わり何故か一人ずつ握手をしたけれど。碧空くんは僕の隣で不機嫌だったけれど、みんなに押し切られていた。僕は今までクラスの中で親しく話すのは美都瑠と智親くんだけだったからこんなふうに仲良くなれるのは嬉しくて始終笑顔だった。そのことが碧空くんの機嫌が悪くなる原因の一つだと美都瑠に教えてもらい、理由もわからないまま謝った。
二日で腫れは引いたけれど、内出血で紫と赤黒い色が混ざった汚い顔にも関わらず碧空くんは可愛いと言ってくれる。クラスメイトにも可愛いと言ってもらえて複雑な気持ちだけど、僕の事を気遣う「痛くない?」や「大丈夫?」の言葉は嬉しかった。何かあれば助けるからなと口々に言ってくれるから心強い。
あんなことは二度とごめんだ。
ウイッグやコンタクト、眼鏡がないことだけでも落ち着かないのに僕は碧空くんの横にぴったりくっ付いて、手は碧空くんの手の中にある。碧空くんは僕の肩に腕を回し抱きしめてくれてるけど、ここは食堂でみんなの視線が痛い。
「大丈夫だぞ?顔上げて、回り見てみろよ?あっ、心配ならさちょっとだけニコって笑っとけよ。ちょっとだぞ?」
僕の耳に触れるくらい近くで囁く声がこそばゆい。碧空くんの手をぎゅっと握り顔を上げてみる。引きつった顔かもしれないけど少し笑ってみる。睨むような嫌な視線はなかったけれどみんな僕たちを見てるんじゃないかと思うほどの視線を感じる。
「恥ずかし……」
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