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第三章
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晩御飯も美都瑠と二人で食べている。勿論、自分の部屋で。春休みに智親くんが、学校が始まれば…と言うのは案外当たってた。寮でもそこまで注目されることはなくなった。
最初、みんなの視線が辛くて始めた自炊だったけど、今は智親くんや美都瑠のリクエストに応じて作ってる。
「碧って…恭さまと付き合ってるの?」
唐突にされた質問に困ってしまう。
「そんな怖いこと言わないでよ。ファンの子に恨まれる」
「そうかな?かなり親しげな感じに見えるよ?」
「違うよ」
ホントにやめてよ。そんな噂だって、穏やかな生活を乱してしまう。噂だって怖い。
「じゃあさ、碧って、碧空の事好きでしょ?」
続けてされた質問に、今度は慌てた。
「えっ?そんな訳ない!」
「そう?そんなムキにならなくても…。余計に怪しいよ?」
「だって、おかしなこと言うから」
「おかしなこと?」
「そうだよ…」
あり得ない。碧空くんの隣は桜庭さん。そして心の中は初恋の女の子……。
「じゃあ、誰が好きなの?」
「えっ…」
言えないよ、碧空くんだなんて…。返事の代わりに答えを知ってる質問で誤魔化した。
「美都瑠は尾崎さんが好きなんでしょ?」
「えっ、あっ、…えっ?」
真っ赤な顔で俯いてしまった。なんて可愛い反応なのか。
「碧…ずるいよ」
「そうかな?で?好きなんでしょ?」
こくりと頷き手をもじもじさせている。
「いつからなの?」
「中学の時からかっこいいなって思ってたんだ。でも、お近づきになれるような方じゃないから…。碧のお陰で一緒にお昼食べたりできるようになって、ますます好きになって…。でも、見てるだけで良かったんだ。今は、見てるだけじゃなくて少しお話もさせてもらって、凄く贅沢だなって思ってる。い、言わないでよ?」
「うん」
でも、尾崎さんも美都瑠の事を気にかけてるし、まんざらでもないんじゃないかなと思うけど。それでも、自分の事も上手くできないのに人の恋路のことなんて無理。僕が関わってこんがらがったりしたら申し訳ない。でも、こっそり高倉さんに聞いてみても良いかもしれないな。
◇
どうしてこんなことになってしまったのだろう…?
今日は放課後、紺野先生に頼まれて資料作成のお手伝いをしていたから、夕食を作ることができなかった。仕方なく食堂で食べるため、美都瑠と約束をしていたのになかなか来ない。
「これ、預かってきたから」
隣のクラスで美都瑠と同室の岩佐が僕の前まで来て手紙を渡してくれた。手紙は美都瑠からで、母親が面会に来て、今から出かけるから一緒に夕飯を食べられないことと謝罪の言葉が書かれていた。今日は 金曜日だから泊まってくるのだろう。
土日に実家に帰る人は少ない。申請すれば許可されるため珍しくはないけれど、毎週帰る人はいないと聞いた。美都瑠も二年生になってからは初めてだ。母親が来ることを忘れていたのか、突然の訪問だったのか?何れにせよ、美都瑠も大慌てでこの手紙を書いたのは、乱れた字からもわかる。いつも綺麗な字を書くのに、このメモはノートの切れ端に殴り書きしてある。
一人で食堂に入るのは勇気がいる。ジロジロ見られることは少なくなってもまだ慣れない。一人なら売店でパンでも買えば良かった。そう思ったのは注文をしてからで、一人ということにかなり動揺している。
目の前のハンバーグ定食にため息をつきながら手を合わす。こんながっつりの定食を頼むつもりはなかった。何を頼もうかとタッチパネルを睨んでいると高倉さんが同じテーブルに座ったから焦ってしまった。そして、サンドイッチかドリアかオムライス…どれにしようかな……と思っていたのにハンバーグ定食だ。
周りからの視線が痛い。寮に入って直ぐのあの時よりもヒソヒソと囁く声と睨む目が怖い。
「どうした?食べないのか?不味い?」
「いえ、そんなことは…」
「体調、悪い?」
「いえ…」
「おかしな奴だな。俺が食べてやろうか?」
そう言って、僕のフォークでハンバーグを切り分け取っていく。そして、パクリと頬張ると美味いじゃんと笑顔を見せる。途端に悲鳴のような声とバタンと誰かが倒れたのかすごい音が響く。
最初、みんなの視線が辛くて始めた自炊だったけど、今は智親くんや美都瑠のリクエストに応じて作ってる。
「碧って…恭さまと付き合ってるの?」
唐突にされた質問に困ってしまう。
「そんな怖いこと言わないでよ。ファンの子に恨まれる」
「そうかな?かなり親しげな感じに見えるよ?」
「違うよ」
ホントにやめてよ。そんな噂だって、穏やかな生活を乱してしまう。噂だって怖い。
「じゃあさ、碧って、碧空の事好きでしょ?」
続けてされた質問に、今度は慌てた。
「えっ?そんな訳ない!」
「そう?そんなムキにならなくても…。余計に怪しいよ?」
「だって、おかしなこと言うから」
「おかしなこと?」
「そうだよ…」
あり得ない。碧空くんの隣は桜庭さん。そして心の中は初恋の女の子……。
「じゃあ、誰が好きなの?」
「えっ…」
言えないよ、碧空くんだなんて…。返事の代わりに答えを知ってる質問で誤魔化した。
「美都瑠は尾崎さんが好きなんでしょ?」
「えっ、あっ、…えっ?」
真っ赤な顔で俯いてしまった。なんて可愛い反応なのか。
「碧…ずるいよ」
「そうかな?で?好きなんでしょ?」
こくりと頷き手をもじもじさせている。
「いつからなの?」
「中学の時からかっこいいなって思ってたんだ。でも、お近づきになれるような方じゃないから…。碧のお陰で一緒にお昼食べたりできるようになって、ますます好きになって…。でも、見てるだけで良かったんだ。今は、見てるだけじゃなくて少しお話もさせてもらって、凄く贅沢だなって思ってる。い、言わないでよ?」
「うん」
でも、尾崎さんも美都瑠の事を気にかけてるし、まんざらでもないんじゃないかなと思うけど。それでも、自分の事も上手くできないのに人の恋路のことなんて無理。僕が関わってこんがらがったりしたら申し訳ない。でも、こっそり高倉さんに聞いてみても良いかもしれないな。
◇
どうしてこんなことになってしまったのだろう…?
今日は放課後、紺野先生に頼まれて資料作成のお手伝いをしていたから、夕食を作ることができなかった。仕方なく食堂で食べるため、美都瑠と約束をしていたのになかなか来ない。
「これ、預かってきたから」
隣のクラスで美都瑠と同室の岩佐が僕の前まで来て手紙を渡してくれた。手紙は美都瑠からで、母親が面会に来て、今から出かけるから一緒に夕飯を食べられないことと謝罪の言葉が書かれていた。今日は 金曜日だから泊まってくるのだろう。
土日に実家に帰る人は少ない。申請すれば許可されるため珍しくはないけれど、毎週帰る人はいないと聞いた。美都瑠も二年生になってからは初めてだ。母親が来ることを忘れていたのか、突然の訪問だったのか?何れにせよ、美都瑠も大慌てでこの手紙を書いたのは、乱れた字からもわかる。いつも綺麗な字を書くのに、このメモはノートの切れ端に殴り書きしてある。
一人で食堂に入るのは勇気がいる。ジロジロ見られることは少なくなってもまだ慣れない。一人なら売店でパンでも買えば良かった。そう思ったのは注文をしてからで、一人ということにかなり動揺している。
目の前のハンバーグ定食にため息をつきながら手を合わす。こんながっつりの定食を頼むつもりはなかった。何を頼もうかとタッチパネルを睨んでいると高倉さんが同じテーブルに座ったから焦ってしまった。そして、サンドイッチかドリアかオムライス…どれにしようかな……と思っていたのにハンバーグ定食だ。
周りからの視線が痛い。寮に入って直ぐのあの時よりもヒソヒソと囁く声と睨む目が怖い。
「どうした?食べないのか?不味い?」
「いえ、そんなことは…」
「体調、悪い?」
「いえ…」
「おかしな奴だな。俺が食べてやろうか?」
そう言って、僕のフォークでハンバーグを切り分け取っていく。そして、パクリと頬張ると美味いじゃんと笑顔を見せる。途端に悲鳴のような声とバタンと誰かが倒れたのかすごい音が響く。
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