見ぃつけた。

茉莉花 香乃

文字の大きさ
上 下
19 / 45
第三章

02

しおりを挟む
晩御飯も美都瑠と二人で食べている。勿論、自分の部屋で。春休みに智親くんが、学校が始まれば…と言うのは案外当たってた。寮でもそこまで注目されることはなくなった。

最初、みんなの視線が辛くて始めた自炊だったけど、今は智親くんや美都瑠のリクエストに応じて作ってる。

「碧って…恭さまと付き合ってるの?」

唐突にされた質問に困ってしまう。

「そんな怖いこと言わないでよ。ファンの子に恨まれる」
「そうかな?かなり親しげな感じに見えるよ?」
「違うよ」

ホントにやめてよ。そんな噂だって、穏やかな生活を乱してしまう。噂だって怖い。

「じゃあさ、碧って、碧空の事好きでしょ?」

続けてされた質問に、今度は慌てた。

「えっ?そんな訳ない!」
「そう?そんなムキにならなくても…。余計に怪しいよ?」
「だって、おかしなこと言うから」
「おかしなこと?」
「そうだよ…」

あり得ない。碧空くんの隣は桜庭さん。そして心の中は初恋の女の子……。

「じゃあ、誰が好きなの?」
「えっ…」

言えないよ、碧空くんだなんて…。返事の代わりに答えを知ってる質問で誤魔化した。

「美都瑠は尾崎さんが好きなんでしょ?」
「えっ、あっ、…えっ?」

真っ赤な顔で俯いてしまった。なんて可愛い反応なのか。

「碧…ずるいよ」
「そうかな?で?好きなんでしょ?」

こくりと頷き手をもじもじさせている。

「いつからなの?」
「中学の時からかっこいいなって思ってたんだ。でも、お近づきになれるような方じゃないから…。碧のお陰で一緒にお昼食べたりできるようになって、ますます好きになって…。でも、見てるだけで良かったんだ。今は、見てるだけじゃなくて少しお話もさせてもらって、凄く贅沢だなって思ってる。い、言わないでよ?」
「うん」

でも、尾崎さんも美都瑠の事を気にかけてるし、まんざらでもないんじゃないかなと思うけど。それでも、自分の事も上手くできないのに人の恋路のことなんて無理。僕が関わってこんがらがったりしたら申し訳ない。でも、こっそり高倉さんに聞いてみても良いかもしれないな。







どうしてこんなことになってしまったのだろう…?

今日は放課後、紺野先生に頼まれて資料作成のお手伝いをしていたから、夕食を作ることができなかった。仕方なく食堂で食べるため、美都瑠と約束をしていたのになかなか来ない。

「これ、預かってきたから」

隣のクラスで美都瑠と同室の岩佐が僕の前まで来て手紙を渡してくれた。手紙は美都瑠からで、母親が面会に来て、今から出かけるから一緒に夕飯を食べられないことと謝罪の言葉が書かれていた。今日は 金曜日だから泊まってくるのだろう。

土日に実家に帰る人は少ない。申請すれば許可されるため珍しくはないけれど、毎週帰る人はいないと聞いた。美都瑠も二年生になってからは初めてだ。母親が来ることを忘れていたのか、突然の訪問だったのか?いずれにせよ、美都瑠も大慌てでこの手紙を書いたのは、乱れた字からもわかる。いつも綺麗な字を書くのに、このメモはノートの切れ端に殴り書きしてある。

一人で食堂に入るのは勇気がいる。ジロジロ見られることは少なくなってもまだ慣れない。一人なら売店でパンでも買えば良かった。そう思ったのは注文をしてからで、一人ということにかなり動揺している。

目の前のハンバーグ定食にため息をつきながら手を合わす。こんながっつりの定食を頼むつもりはなかった。何を頼もうかとタッチパネルを睨んでいると高倉さんが同じテーブルに座ったから焦ってしまった。そして、サンドイッチかドリアかオムライス…どれにしようかな……と思っていたのにハンバーグ定食だ。

周りからの視線が痛い。寮に入って直ぐのあの時よりもヒソヒソと囁く声と睨む目が怖い。

「どうした?食べないのか?不味い?」
「いえ、そんなことは…」
「体調、悪い?」
「いえ…」
「おかしな奴だな。俺が食べてやろうか?」

そう言って、僕のフォークでハンバーグを切り分け取っていく。そして、パクリと頬張ると美味いじゃんと笑顔を見せる。途端に悲鳴のような声とバタンと誰かが倒れたのかすごい音が響く。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

泣くなといい聞かせて

mahiro
BL
付き合っている人と今日別れようと思っている。 それがきっとお前のためだと信じて。 ※完結いたしました。 閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

【幼馴染DK】至って、普通。

りつ
BL
天才型×平凡くん。「別れよっか、僕達」――才能溢れる幼馴染みに、平凡な自分では釣り合わない。そう思って別れを切り出したのだけれど……?ハッピーバカップルラブコメ短編です。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

いじめっこ令息に転生したけど、いじめなかったのに義弟が酷い。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
オレはデニス=アッカー伯爵令息(18才)。成績が悪くて跡継ぎから外された一人息子だ。跡継ぎに養子に来た義弟アルフ(15才)を、グレていじめる令息…の予定だったが、ここが物語の中で、義弟いじめの途中に事故で亡くなる事を思いだした。死にたくないので、優しい兄を目指してるのに、義弟はなかなか義兄上大好き!と言ってくれません。反抗期?思春期かな? そして今日も何故かオレの服が脱げそうです? そんなある日、義弟の親友と出会って…。

処理中です...