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第二章
01
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新学期が始まり、一週間は特に問題なく過ごすことができた。
寮から校舎への道は雨が降っても濡れないように屋根がついてる。横振りの強い雨の時は困るだろうけど、晴れた日は太陽の日差しを遮り、自然の風も心地いい。
制服を受け取る時に「明日、職員室に行くんだよ~」と勘解由小路さんに言われていたので行くと、職員室の隅の簡易的な応接室に通された。このソファーに座るのは二回目。
「この一週間どうだった?何も連絡ないからさ、心配してたんだよね」
「あっ、すみません。連絡入れないといけなかったですか?」
「違うよ。そうじゃないけど、今まで転入してきた子はいろいろ大変って聞いてるしね。それに安田くんは秘密もあるしさ。まだ、誰にも見つかってないよね?」
「はい。今のところ」
当然ながら紺野先生にもウィッグ取ってよと言われた。
「鴻志から聞いたけど、ほとんど部屋で食べてるんだって?」
コウシ…こうし…寮父の勘解由小路さんが鴻志って名前だったっけ?
「はい。なんか睨まれて…牧野くんも、大沢くんも誘ってくれるけど、二人と一緒だと一人の時よりみんなの視線が怖いから」
「ああ、まあね。でも、昼は寮まで帰れないよ?」
「そうですね。でも、一人でも大丈夫です」
「そう?人気のないところには絶対一人で行かないでね?」
「?…はい」
はじめの一歩、緊張の瞬間、教室は静まり返っていた。ヒソヒソもなく、睨みもなかった。
「みんな、仲良くしてあげてね~」
高校二年生なんだから仲良くとか恥ずかしいけど、「はーい」とか「紺野っちが言うなら仕方ないな」と声が聞こえホッとした。僕はなんとかクラスに受け入れられたみたいだった。
「安田くん、ちょっといいかな?」
碧空くんが登校してすぐに声を掛けてきた。少しずつクラスに馴染んできていたけど、碧空くんが僕に話しかけてきたことはなかった。周りの空気がピリッとしたような気がした。
「はい」
「あのさ、会長が連れて来いって言ってるんだ。放課後空けといて」
小さな声でそれだけ言って自分の席に戻った。途端に碧空くんに駆け寄り腕に腕を絡めてる子がこちらをギロッと睨む…。
なんだよ…僕、何もしてないからね。
ファンなのだろう。いつも周りにまとわりついてるハイエナのような二、三人のグループ。碧空くんに猫なで声で何か言ってる。きっと何話してたのとか聞いてるんだろう。
このクラスの子じゃない。A組の子は碧空くんにも僕にも普通に接してくれる。どちらかと言うと、碧空くんに絡まるその腕が鬱陶しいもののように感じてるのか「大変だな」とか同情的な視線を向ける。
生徒会長か…。
何なんだろう。始業式を思い出す。
先生と一緒に体育館まで来て、入り口で別れた。相変わらず睨みとヒソヒソと指差すような視線を辛いなと思いながら入る。
体育館はぐるっと二階席があり、今は誰も座っていないけどかなりの収容人数だと思う。前の高校の体育館とはスケールが違いすぎて言葉が出ない。生徒会室や寮で慣れてきていたけれど、まだまだ驚くことが多い。
校長先生の話のあと、生徒会が壇上に姿を見せると「キャッー」とか「八城さま~」「桜ちゃん、こっち向いて~」と様々な声が聞こえる。中には「碧空くん~」なんてのもあって、僕はげんなりした。人気者の碧空くんを見たくなくて下を向いていると急にシンと静まった。会長…たぶん会長だと思う…が静かにするように何か指示したのだろう。
会長が何か言ってるけど、僕にはどうでも良かった。新入生の歓迎行事があるとか、修学旅行のこととか部活動のことなんかは僕には関係ない。この学校は三年生の四月に修学旅行に行くらしい。
生徒会メンバーの人気のせいか僕への関心が和らいだように思った。僕が思ったのはそのくらいだった。
寮から校舎への道は雨が降っても濡れないように屋根がついてる。横振りの強い雨の時は困るだろうけど、晴れた日は太陽の日差しを遮り、自然の風も心地いい。
制服を受け取る時に「明日、職員室に行くんだよ~」と勘解由小路さんに言われていたので行くと、職員室の隅の簡易的な応接室に通された。このソファーに座るのは二回目。
「この一週間どうだった?何も連絡ないからさ、心配してたんだよね」
「あっ、すみません。連絡入れないといけなかったですか?」
「違うよ。そうじゃないけど、今まで転入してきた子はいろいろ大変って聞いてるしね。それに安田くんは秘密もあるしさ。まだ、誰にも見つかってないよね?」
「はい。今のところ」
当然ながら紺野先生にもウィッグ取ってよと言われた。
「鴻志から聞いたけど、ほとんど部屋で食べてるんだって?」
コウシ…こうし…寮父の勘解由小路さんが鴻志って名前だったっけ?
「はい。なんか睨まれて…牧野くんも、大沢くんも誘ってくれるけど、二人と一緒だと一人の時よりみんなの視線が怖いから」
「ああ、まあね。でも、昼は寮まで帰れないよ?」
「そうですね。でも、一人でも大丈夫です」
「そう?人気のないところには絶対一人で行かないでね?」
「?…はい」
はじめの一歩、緊張の瞬間、教室は静まり返っていた。ヒソヒソもなく、睨みもなかった。
「みんな、仲良くしてあげてね~」
高校二年生なんだから仲良くとか恥ずかしいけど、「はーい」とか「紺野っちが言うなら仕方ないな」と声が聞こえホッとした。僕はなんとかクラスに受け入れられたみたいだった。
「安田くん、ちょっといいかな?」
碧空くんが登校してすぐに声を掛けてきた。少しずつクラスに馴染んできていたけど、碧空くんが僕に話しかけてきたことはなかった。周りの空気がピリッとしたような気がした。
「はい」
「あのさ、会長が連れて来いって言ってるんだ。放課後空けといて」
小さな声でそれだけ言って自分の席に戻った。途端に碧空くんに駆け寄り腕に腕を絡めてる子がこちらをギロッと睨む…。
なんだよ…僕、何もしてないからね。
ファンなのだろう。いつも周りにまとわりついてるハイエナのような二、三人のグループ。碧空くんに猫なで声で何か言ってる。きっと何話してたのとか聞いてるんだろう。
このクラスの子じゃない。A組の子は碧空くんにも僕にも普通に接してくれる。どちらかと言うと、碧空くんに絡まるその腕が鬱陶しいもののように感じてるのか「大変だな」とか同情的な視線を向ける。
生徒会長か…。
何なんだろう。始業式を思い出す。
先生と一緒に体育館まで来て、入り口で別れた。相変わらず睨みとヒソヒソと指差すような視線を辛いなと思いながら入る。
体育館はぐるっと二階席があり、今は誰も座っていないけどかなりの収容人数だと思う。前の高校の体育館とはスケールが違いすぎて言葉が出ない。生徒会室や寮で慣れてきていたけれど、まだまだ驚くことが多い。
校長先生の話のあと、生徒会が壇上に姿を見せると「キャッー」とか「八城さま~」「桜ちゃん、こっち向いて~」と様々な声が聞こえる。中には「碧空くん~」なんてのもあって、僕はげんなりした。人気者の碧空くんを見たくなくて下を向いていると急にシンと静まった。会長…たぶん会長だと思う…が静かにするように何か指示したのだろう。
会長が何か言ってるけど、僕にはどうでも良かった。新入生の歓迎行事があるとか、修学旅行のこととか部活動のことなんかは僕には関係ない。この学校は三年生の四月に修学旅行に行くらしい。
生徒会メンバーの人気のせいか僕への関心が和らいだように思った。僕が思ったのはそのくらいだった。
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