12 / 45
第二章
01
しおりを挟む
新学期が始まり、一週間は特に問題なく過ごすことができた。
寮から校舎への道は雨が降っても濡れないように屋根がついてる。横振りの強い雨の時は困るだろうけど、晴れた日は太陽の日差しを遮り、自然の風も心地いい。
制服を受け取る時に「明日、職員室に行くんだよ~」と勘解由小路さんに言われていたので行くと、職員室の隅の簡易的な応接室に通された。このソファーに座るのは二回目。
「この一週間どうだった?何も連絡ないからさ、心配してたんだよね」
「あっ、すみません。連絡入れないといけなかったですか?」
「違うよ。そうじゃないけど、今まで転入してきた子はいろいろ大変って聞いてるしね。それに安田くんは秘密もあるしさ。まだ、誰にも見つかってないよね?」
「はい。今のところ」
当然ながら紺野先生にもウィッグ取ってよと言われた。
「鴻志から聞いたけど、ほとんど部屋で食べてるんだって?」
コウシ…こうし…寮父の勘解由小路さんが鴻志って名前だったっけ?
「はい。なんか睨まれて…牧野くんも、大沢くんも誘ってくれるけど、二人と一緒だと一人の時よりみんなの視線が怖いから」
「ああ、まあね。でも、昼は寮まで帰れないよ?」
「そうですね。でも、一人でも大丈夫です」
「そう?人気のないところには絶対一人で行かないでね?」
「?…はい」
はじめの一歩、緊張の瞬間、教室は静まり返っていた。ヒソヒソもなく、睨みもなかった。
「みんな、仲良くしてあげてね~」
高校二年生なんだから仲良くとか恥ずかしいけど、「はーい」とか「紺野っちが言うなら仕方ないな」と声が聞こえホッとした。僕はなんとかクラスに受け入れられたみたいだった。
「安田くん、ちょっといいかな?」
碧空くんが登校してすぐに声を掛けてきた。少しずつクラスに馴染んできていたけど、碧空くんが僕に話しかけてきたことはなかった。周りの空気がピリッとしたような気がした。
「はい」
「あのさ、会長が連れて来いって言ってるんだ。放課後空けといて」
小さな声でそれだけ言って自分の席に戻った。途端に碧空くんに駆け寄り腕に腕を絡めてる子がこちらをギロッと睨む…。
なんだよ…僕、何もしてないからね。
ファンなのだろう。いつも周りにまとわりついてるハイエナのような二、三人のグループ。碧空くんに猫なで声で何か言ってる。きっと何話してたのとか聞いてるんだろう。
このクラスの子じゃない。A組の子は碧空くんにも僕にも普通に接してくれる。どちらかと言うと、碧空くんに絡まるその腕が鬱陶しいもののように感じてるのか「大変だな」とか同情的な視線を向ける。
生徒会長か…。
何なんだろう。始業式を思い出す。
先生と一緒に体育館まで来て、入り口で別れた。相変わらず睨みとヒソヒソと指差すような視線を辛いなと思いながら入る。
体育館はぐるっと二階席があり、今は誰も座っていないけどかなりの収容人数だと思う。前の高校の体育館とはスケールが違いすぎて言葉が出ない。生徒会室や寮で慣れてきていたけれど、まだまだ驚くことが多い。
校長先生の話のあと、生徒会が壇上に姿を見せると「キャッー」とか「八城さま~」「桜ちゃん、こっち向いて~」と様々な声が聞こえる。中には「碧空くん~」なんてのもあって、僕はげんなりした。人気者の碧空くんを見たくなくて下を向いていると急にシンと静まった。会長…たぶん会長だと思う…が静かにするように何か指示したのだろう。
会長が何か言ってるけど、僕にはどうでも良かった。新入生の歓迎行事があるとか、修学旅行のこととか部活動のことなんかは僕には関係ない。この学校は三年生の四月に修学旅行に行くらしい。
生徒会メンバーの人気のせいか僕への関心が和らいだように思った。僕が思ったのはそのくらいだった。
寮から校舎への道は雨が降っても濡れないように屋根がついてる。横振りの強い雨の時は困るだろうけど、晴れた日は太陽の日差しを遮り、自然の風も心地いい。
制服を受け取る時に「明日、職員室に行くんだよ~」と勘解由小路さんに言われていたので行くと、職員室の隅の簡易的な応接室に通された。このソファーに座るのは二回目。
「この一週間どうだった?何も連絡ないからさ、心配してたんだよね」
「あっ、すみません。連絡入れないといけなかったですか?」
「違うよ。そうじゃないけど、今まで転入してきた子はいろいろ大変って聞いてるしね。それに安田くんは秘密もあるしさ。まだ、誰にも見つかってないよね?」
「はい。今のところ」
当然ながら紺野先生にもウィッグ取ってよと言われた。
「鴻志から聞いたけど、ほとんど部屋で食べてるんだって?」
コウシ…こうし…寮父の勘解由小路さんが鴻志って名前だったっけ?
「はい。なんか睨まれて…牧野くんも、大沢くんも誘ってくれるけど、二人と一緒だと一人の時よりみんなの視線が怖いから」
「ああ、まあね。でも、昼は寮まで帰れないよ?」
「そうですね。でも、一人でも大丈夫です」
「そう?人気のないところには絶対一人で行かないでね?」
「?…はい」
はじめの一歩、緊張の瞬間、教室は静まり返っていた。ヒソヒソもなく、睨みもなかった。
「みんな、仲良くしてあげてね~」
高校二年生なんだから仲良くとか恥ずかしいけど、「はーい」とか「紺野っちが言うなら仕方ないな」と声が聞こえホッとした。僕はなんとかクラスに受け入れられたみたいだった。
「安田くん、ちょっといいかな?」
碧空くんが登校してすぐに声を掛けてきた。少しずつクラスに馴染んできていたけど、碧空くんが僕に話しかけてきたことはなかった。周りの空気がピリッとしたような気がした。
「はい」
「あのさ、会長が連れて来いって言ってるんだ。放課後空けといて」
小さな声でそれだけ言って自分の席に戻った。途端に碧空くんに駆け寄り腕に腕を絡めてる子がこちらをギロッと睨む…。
なんだよ…僕、何もしてないからね。
ファンなのだろう。いつも周りにまとわりついてるハイエナのような二、三人のグループ。碧空くんに猫なで声で何か言ってる。きっと何話してたのとか聞いてるんだろう。
このクラスの子じゃない。A組の子は碧空くんにも僕にも普通に接してくれる。どちらかと言うと、碧空くんに絡まるその腕が鬱陶しいもののように感じてるのか「大変だな」とか同情的な視線を向ける。
生徒会長か…。
何なんだろう。始業式を思い出す。
先生と一緒に体育館まで来て、入り口で別れた。相変わらず睨みとヒソヒソと指差すような視線を辛いなと思いながら入る。
体育館はぐるっと二階席があり、今は誰も座っていないけどかなりの収容人数だと思う。前の高校の体育館とはスケールが違いすぎて言葉が出ない。生徒会室や寮で慣れてきていたけれど、まだまだ驚くことが多い。
校長先生の話のあと、生徒会が壇上に姿を見せると「キャッー」とか「八城さま~」「桜ちゃん、こっち向いて~」と様々な声が聞こえる。中には「碧空くん~」なんてのもあって、僕はげんなりした。人気者の碧空くんを見たくなくて下を向いていると急にシンと静まった。会長…たぶん会長だと思う…が静かにするように何か指示したのだろう。
会長が何か言ってるけど、僕にはどうでも良かった。新入生の歓迎行事があるとか、修学旅行のこととか部活動のことなんかは僕には関係ない。この学校は三年生の四月に修学旅行に行くらしい。
生徒会メンバーの人気のせいか僕への関心が和らいだように思った。僕が思ったのはそのくらいだった。
103
お気に入りに追加
886
あなたにおすすめの小説

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)


キミと2回目の恋をしよう
なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。
彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。
彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。
「どこかに旅行だったの?」
傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。
彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。
彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが…
彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?
出戻り聖女はもう泣かない
たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。
男だけど元聖女。
一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。
「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」
出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。
ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。
表紙絵:CK2さま


闇を照らす愛
モカ
BL
いつも満たされていなかった。僕の中身は空っぽだ。
与えられていないから、与えることもできなくて。結局いつまで経っても満たされないまま。
どれほど渇望しても手に入らないから、手に入れることを諦めた。
抜け殻のままでも生きていけてしまう。…こんな意味のない人生は、早く終わらないかなぁ。

俺の親友のことが好きだったんじゃなかったのかよ
雨宮里玖
BL
《あらすじ》放課後、三倉は浅宮に呼び出された。浅宮は三倉の親友・有栖のことを訊ねてくる。三倉はまたこのパターンかとすぐに合点がいく。きっと浅宮も有栖のことが好きで、三倉から有栖の情報を聞き出そうとしているんだなと思い、浅宮の恋を応援すべく協力を申し出る。
浅宮は三倉に「協力して欲しい。だからデートの練習に付き合ってくれ」と言い——。
攻め:浅宮(16)
高校二年生。ビジュアル最強男。
どんな口実でもいいから三倉と一緒にいたいと思っている。
受け:三倉(16)
高校二年生。平凡。
自分じゃなくて俺の親友のことが好きなんだと勘違いしている。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる