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第一章
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牧野くんに残したパイとサラダとスープにラップして、冷蔵庫に入れた。
冷蔵庫も大きなものだ。この一週間で常備菜なんかも作って、今この冷蔵庫は正しく冷蔵庫だ。きっと、料理をしない他の寮生の冷蔵庫は飲み物とお菓子くらいしか入ってないと思う。
「あいつ、食べてくるんだし、そんなに残さなくって良かったんじゃない?貰ってやろうか?」
まだ、足りないのかな?結構食べたと思うけど。
「足りなかった?もし今度作る時はもっといっぱい作るね。大沢くんって見た目と違って結構食べるんだね」
「いや、もうお腹いっぱい。美味しかったし、食べ過ぎたくらい」
「そう?良かった。牧野くんの分は、今日食べなくても明日でもいいしね。あんなに残しといてって言ってたし。いつも美味しそうに食べてくれるから、僕も作り甲斐があるんだよね」
「何?やっぱり智親の事好きなの?」
「そんなんじゃない!…です」
「でもさ、俺じゃなくて智親と食べたかった?」
「違う!…あっ…」
振り向いた時にラグの端にスリッパを引っ掛けて転けてしまった。
ポスっと碧空くんの腕の中に落っこちる。僕を軽々と抱きとめる逞しい腕。眼鏡がズレかけて慌てた。
「ご、ごめん」
「大丈夫か?」
「うん。ありがとう」
俯いて顔を隠し、眼鏡を直そうとすると手を取られた。
顎を持たれて上を向かされ、隠せなくなる。碧空くんの手が眼鏡にかかる。顔が少しでも隠れるようにと母が選んだ、縁の太い黒のダサダサ眼鏡を碧空くんの手が外そうとする。
「見せて?いいだろ?」
「いゃ…」
「どうして?」
見られたくない。
こんな近くなら、眼鏡なんか関係ないような気がするけどそれでも見られたくない。どうして、こんなことをするのかな?
カチャと音がして鍵が開いた。
牧野くんが食堂から帰ってきたみたい。早くない?ゆっくり食べなかったのかな?それにしても、この状況はいただけない。
二人きりの食事はとても嬉しかった。
短い時間が終わりを告げる。
鍵の開く音を聞いて一瞬、僕を抱く碧空くんの力が弱まったから、固まった身体をギギッと動かし眼鏡を直した。すると、離さないって言うように弱まった力に再び力がこもる。でも、少しでも碧空くんの腕から離れようとした。
だって…恥ずかしい。
「ただいま…!何してんの?」
間に合わなかった。
「あの…いえ…これは…」
あわあわしている僕とは反対に落ち着いた様子の碧空くんは僕を離してくれない。
「よお、美味かったか?」
「ああ、まあいつもの味だけど…それより、これは?」
「んっ?安田くんと仲良くなりたいなって」
「ち、違います!躓いて、転けちゃって…助けてもらっただけで…」
「なんだよ…」
牧野くんが溜息を吐く。
「なんだよ…」
碧空くんも同じ言葉を言って僕を支える腕が強くなった。
「あの…んっ?」
顔を見るとじっと僕を見つめる真剣な瞳が目の前にありドキッとした。
「何見つめあってるのさ!」
牧野くんが僕の腕を掴み、碧空くんの腕から引っ張り上げてくれた。
「あ、ありがとう」
牧野くんにお礼を言って碧空くんを見ると少し不機嫌そうな顔で、牧野くんを睨んだ。
「コーヒー淹れよっか?」
落ち着かない雰囲気を誤魔化すようにキッチンに戻った。生徒会室にあるような有名ブランドの食器が揃ってる。ここには白を基調にした物が用意されていて、マグカップを三つ出した。
冷蔵庫も大きなものだ。この一週間で常備菜なんかも作って、今この冷蔵庫は正しく冷蔵庫だ。きっと、料理をしない他の寮生の冷蔵庫は飲み物とお菓子くらいしか入ってないと思う。
「あいつ、食べてくるんだし、そんなに残さなくって良かったんじゃない?貰ってやろうか?」
まだ、足りないのかな?結構食べたと思うけど。
「足りなかった?もし今度作る時はもっといっぱい作るね。大沢くんって見た目と違って結構食べるんだね」
「いや、もうお腹いっぱい。美味しかったし、食べ過ぎたくらい」
「そう?良かった。牧野くんの分は、今日食べなくても明日でもいいしね。あんなに残しといてって言ってたし。いつも美味しそうに食べてくれるから、僕も作り甲斐があるんだよね」
「何?やっぱり智親の事好きなの?」
「そんなんじゃない!…です」
「でもさ、俺じゃなくて智親と食べたかった?」
「違う!…あっ…」
振り向いた時にラグの端にスリッパを引っ掛けて転けてしまった。
ポスっと碧空くんの腕の中に落っこちる。僕を軽々と抱きとめる逞しい腕。眼鏡がズレかけて慌てた。
「ご、ごめん」
「大丈夫か?」
「うん。ありがとう」
俯いて顔を隠し、眼鏡を直そうとすると手を取られた。
顎を持たれて上を向かされ、隠せなくなる。碧空くんの手が眼鏡にかかる。顔が少しでも隠れるようにと母が選んだ、縁の太い黒のダサダサ眼鏡を碧空くんの手が外そうとする。
「見せて?いいだろ?」
「いゃ…」
「どうして?」
見られたくない。
こんな近くなら、眼鏡なんか関係ないような気がするけどそれでも見られたくない。どうして、こんなことをするのかな?
カチャと音がして鍵が開いた。
牧野くんが食堂から帰ってきたみたい。早くない?ゆっくり食べなかったのかな?それにしても、この状況はいただけない。
二人きりの食事はとても嬉しかった。
短い時間が終わりを告げる。
鍵の開く音を聞いて一瞬、僕を抱く碧空くんの力が弱まったから、固まった身体をギギッと動かし眼鏡を直した。すると、離さないって言うように弱まった力に再び力がこもる。でも、少しでも碧空くんの腕から離れようとした。
だって…恥ずかしい。
「ただいま…!何してんの?」
間に合わなかった。
「あの…いえ…これは…」
あわあわしている僕とは反対に落ち着いた様子の碧空くんは僕を離してくれない。
「よお、美味かったか?」
「ああ、まあいつもの味だけど…それより、これは?」
「んっ?安田くんと仲良くなりたいなって」
「ち、違います!躓いて、転けちゃって…助けてもらっただけで…」
「なんだよ…」
牧野くんが溜息を吐く。
「なんだよ…」
碧空くんも同じ言葉を言って僕を支える腕が強くなった。
「あの…んっ?」
顔を見るとじっと僕を見つめる真剣な瞳が目の前にありドキッとした。
「何見つめあってるのさ!」
牧野くんが僕の腕を掴み、碧空くんの腕から引っ張り上げてくれた。
「あ、ありがとう」
牧野くんにお礼を言って碧空くんを見ると少し不機嫌そうな顔で、牧野くんを睨んだ。
「コーヒー淹れよっか?」
落ち着かない雰囲気を誤魔化すようにキッチンに戻った。生徒会室にあるような有名ブランドの食器が揃ってる。ここには白を基調にした物が用意されていて、マグカップを三つ出した。
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