波紋

茉莉花 香乃

文字の大きさ
上 下
37 / 41
第七章

01

しおりを挟む
「俊一さん、起きて!遅刻するよ」
「んっ?郁己、おはよう」

郁己だ!と頭の中で繰り返す。

帰ってきてくれた。
俺のとこに。

「郁己、愛してるよ」

起こそうと頑張ってる郁己の腰をがっちりホールドして、ベッドへ倒す。

「ちょ、俊…寝ぼけてるの?月曜日ですよー」
「もうちょっと…」

もうちょっと…寝たいわけじゃない。もうちょっと…郁己を抱きしめてたいんだ。

俺がこんなに何かに依存?執着?したことはなかった。郁己だけ。俺がおかしくなるのは郁己の事だけなんだ。

あの衝撃の手紙を受け取り一年。俺は頑張った。まあ、実際に何をした訳じゃない。郁己と食べる前は朝食を食べてなかったけど、一人になってもちゃんと食べた。食べない日もあったけど、郁己を思い出してサラダは食べた。あたふたしながら水切りするのを思い出し、人が見てたら気持ち悪いと思われるだろうけど、知らずと笑ってしまう。でも、そこに郁己がいないのを実感して寂しくなるんだ。

何度探しに行こうと思ったか。大野くんに、もし連絡があったら些細なことでもいいから教えて欲しいとお願いしておいた。大野くんは二、三ヶ月に一度連絡をくれた。

元気にしてるみたい。
勉強頑張ってるみたい。

…みたい、とは大野くんもメッセージが送られてくるだけで、電話はなかった。

きっと、俺が学校に行ったかとか聞きたくなかったんだ。『来てないから、手紙渡してない』と聞きたくなかったんだ。きっと…。

郁己がいない間に拓真に会いに行った。

手紙の中の『拓真の代わり』という言葉は衝撃だった。拓真と言う名の義理の弟が居ると言ったことはあったけど、郁己は違う捉え方をしていた。

俺の気持ちがかつて拓真を恋しいと思っていたことに気付いてたのか?

俺は何か失敗していたのか?

それを問いただすこともなく、受け入れてくれていた。きっと傷付けてしまった。

久しぶりに会うと、今までとは違い弟としてみていることに驚いた。郁己を愛して、郁己には感じた愛しい気持ちが拓真には違うものだとはっきりした。

拓真は結婚を考えてる恋人がいるんだと嬉しそうに話す。結婚式には絶対来てねと写真を見せてくれた。可愛らしい笑顔で写ってる。

親父と義母さんは、俺が家を出てから直ぐにギクシャクし出したらしい。義母さんはやはり俺の事を結婚直前まで聞かされてなく、親父を信用できないと喧嘩ばかりし出したらしい。
…知らなかった。
拓真はそんな二人を見て、怒ったそうだ。兄さんが寂しい思いをしていたのは喧嘩別れするためなのか?と。兄さんが可哀想だ。こんなことで喧嘩したことも許せない。こんな喧嘩をしていたことも兄さんには黙っていた方が良い…と。

話し合って今は仲良く二人で暮らしている。今度一緒に行こうと誘われた。義母さんが会いたがっていると言う。親父は素直じゃない。子どものようなところがある。だから、俺を…小さい頃の俺を持て余してたんだ。

きっと会いたがってるよ、と拓真は言った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

あなたの隣で初めての恋を知る

ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

可哀想は可愛い

ぽぽ
BL
 平民、ビビり、陰キャなセシリオは王立魔術学園へ入学を機に高校デビューを目指したが敢え無く失敗し不良のパシリをさせられる毎日。  同室者の男にも呆れられ絶望するセシリオに天使のような男が現れるが、彼もかなりイカれた野郎のようで……?セシリオは理想の平和な学園生活を送る事が出来るだろうか。また激重感情を抱えた男から逃げられるだろうか。 「むむむ無理無理!助けて!」 ━━━━━━━━━━━ ろくな男はいません。 世界観がごちゃごちゃです。余り深く考えずに暖かい目で読んで頂けたら、と思います。 表紙はくま様からお借りしました。

離したくない、離して欲しくない

mahiro
BL
自宅と家の往復を繰り返していた所に飲み会の誘いが入った。 久しぶりに友達や学生の頃の先輩方とも会いたかったが、その日も仕事が夜中まで入っていたため断った。 そんなある日、社内で女性社員が芸能人が来ると話しているのを耳にした。 テレビなんて観ていないからどうせ名前を聞いたところで誰か分からないだろ、と思いあまり気にしなかった。 翌日の夜、外での仕事を終えて社内に戻って来るといつものように誰もいなかった。 そんな所に『すみません』と言う声が聞こえた。

家族になろうか

わこ
BL
金持ち若社長に可愛がられる少年の話。 かつて自サイトに載せていたお話です。 表紙画像はぱくたそ様(www.pakutaso.com)よりお借りしています。

処理中です...