7 / 41
第二章
03
しおりを挟む
抱きついたままだった郁己の腕は緩まない。
顔を俺の胸に押し付る。
「…貴方だけだった」
「何が?」
「俺が公園にいる時、貴方だけが俺を見てくれた」
ずっと見てたの知ってたのか?
下ばっか見てたじゃねぇか。
「俊一だよ」
抱きしめ返した。
顎を持って顔をこちらに向けさせると、そのままキスをした。温かな唇に触れるだけのキス。背中に回る腕が心地いい。
「俊一さん」
「郁己」
舌で唇をなぞる。
「んっ…はぁ…」
少し開いた隙間から舌を入れた。
舌が歯に当たり、我に返った。
「…続きは?」
瞳を潤ませ見つめてくる。
「ここまでだ」
「こんなの俺でもできるよ」
またキスしようとする郁己から離れた。
「今日は帰れ」
「誰も心配しないって言ってるだろ?」
「いつも帰ってないのか?」
「…帰ってるよ」
「じゃあ、帰れ」
「父さんが死んだんだ。だから誰も心配しない」
「一人で住んでるのか?」
「…ばあさんとおじいちゃんと」
「ほら、今頃心配してるぞ?」
「だから…」
「また、来たらいいから」
「えっ?」
「ここに、いつでも来たらいいから」
何故そんなことを言ったのかわからない。
でも、思わず口から出た言葉を訂正する気はなかった。
郁己の家は古びた一軒家だった。
それぞれ独立した家だけどその隙間は狭く、長屋を連想させる。
俺が住んでるマンションからそんなに離れてない。住宅街の奥に昔ながらの家が並んでいた。小さな頃に住んでたアパートに比べればずっといいだろ。
「挨拶しとこうか?」
「なんて言うんだよ?エロの師匠ですなんて言う?」
それもそうか?
郁己と俺の接点は公園とコンビニだけだった。
家の電気は全て消えている。日付も変わってる。もう寝てしまってるのか?本当に心配してないのか?孫が可愛くないのか?…親でもあんな態度だったんだ。あり得るかもしれないな。
そう言えば…母親はいないのか?離婚、死別…郁己が言うまで聞かない方がいいだろう。
「本当に、行ってもいいの…?」
今まで強気な態度だったのに、急にしおらしく聞いてくる。
「ああ、来いよ。バイトはするんだろ?」
「うん」
急に不安になる。
「バイトはコンビニだけなのか?」
「そうだけど?」
「客、取ったりしてないだろうな?」
「あんなキスで取れないのわかってるだろ?」
「そうだな」
良かった。
「ちゃんと学校行くんだぞ?」
「何それ?心配してくれてんの?」
「そうだ」
途端に笑顔になる。
静まってた俺の心にまた花びらが落ちる。
ひとひらの花びらは沈まず漂ってた花びらと重なり小さな花になった。
連絡先を交換してマンションに戻った。
酔いが醒め、身体は冷えてしまった。でも心はほっこりしてる。
郁己の寝ていた布団に潜り込み眠りに就いた。
朝起きると、携帯が震えてる。プライベートのスマホはいつもマナーモードだ。サイドテーブルでブルブル音を立てる。
この携帯に電話がかかってくることはこの一年なかったような気がする。
「なんだよ?」
『良かった。おはよう』
「ああ、おはよう。で?何が良かったんだ?」
『ちゃんと出てくれた。シカトされるかと思ったんだ』
何可愛いこと言ってるんだ。
花びらが落ちる。
顔を俺の胸に押し付る。
「…貴方だけだった」
「何が?」
「俺が公園にいる時、貴方だけが俺を見てくれた」
ずっと見てたの知ってたのか?
下ばっか見てたじゃねぇか。
「俊一だよ」
抱きしめ返した。
顎を持って顔をこちらに向けさせると、そのままキスをした。温かな唇に触れるだけのキス。背中に回る腕が心地いい。
「俊一さん」
「郁己」
舌で唇をなぞる。
「んっ…はぁ…」
少し開いた隙間から舌を入れた。
舌が歯に当たり、我に返った。
「…続きは?」
瞳を潤ませ見つめてくる。
「ここまでだ」
「こんなの俺でもできるよ」
またキスしようとする郁己から離れた。
「今日は帰れ」
「誰も心配しないって言ってるだろ?」
「いつも帰ってないのか?」
「…帰ってるよ」
「じゃあ、帰れ」
「父さんが死んだんだ。だから誰も心配しない」
「一人で住んでるのか?」
「…ばあさんとおじいちゃんと」
「ほら、今頃心配してるぞ?」
「だから…」
「また、来たらいいから」
「えっ?」
「ここに、いつでも来たらいいから」
何故そんなことを言ったのかわからない。
でも、思わず口から出た言葉を訂正する気はなかった。
郁己の家は古びた一軒家だった。
それぞれ独立した家だけどその隙間は狭く、長屋を連想させる。
俺が住んでるマンションからそんなに離れてない。住宅街の奥に昔ながらの家が並んでいた。小さな頃に住んでたアパートに比べればずっといいだろ。
「挨拶しとこうか?」
「なんて言うんだよ?エロの師匠ですなんて言う?」
それもそうか?
郁己と俺の接点は公園とコンビニだけだった。
家の電気は全て消えている。日付も変わってる。もう寝てしまってるのか?本当に心配してないのか?孫が可愛くないのか?…親でもあんな態度だったんだ。あり得るかもしれないな。
そう言えば…母親はいないのか?離婚、死別…郁己が言うまで聞かない方がいいだろう。
「本当に、行ってもいいの…?」
今まで強気な態度だったのに、急にしおらしく聞いてくる。
「ああ、来いよ。バイトはするんだろ?」
「うん」
急に不安になる。
「バイトはコンビニだけなのか?」
「そうだけど?」
「客、取ったりしてないだろうな?」
「あんなキスで取れないのわかってるだろ?」
「そうだな」
良かった。
「ちゃんと学校行くんだぞ?」
「何それ?心配してくれてんの?」
「そうだ」
途端に笑顔になる。
静まってた俺の心にまた花びらが落ちる。
ひとひらの花びらは沈まず漂ってた花びらと重なり小さな花になった。
連絡先を交換してマンションに戻った。
酔いが醒め、身体は冷えてしまった。でも心はほっこりしてる。
郁己の寝ていた布団に潜り込み眠りに就いた。
朝起きると、携帯が震えてる。プライベートのスマホはいつもマナーモードだ。サイドテーブルでブルブル音を立てる。
この携帯に電話がかかってくることはこの一年なかったような気がする。
「なんだよ?」
『良かった。おはよう』
「ああ、おはよう。で?何が良かったんだ?」
『ちゃんと出てくれた。シカトされるかと思ったんだ』
何可愛いこと言ってるんだ。
花びらが落ちる。
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
俺のストーカーくん
あたか
BL
隣のクラスの根倉でいつもおどおどしている深見 渉(ふかみわたる)に気に入られてしまった中村 典人(なかむらのりと)は、彼からのストーカー行為に悩まされていた。
拗らせ根倉男×男前イケメン
フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
アダルトショップでオナホになった俺
ミヒロ
BL
初めて同士の長年の交際をしていた彼氏と喧嘩別れした弘樹。
覚えてしまった快楽に負け、彼女へのプレゼントというていで、と自分を慰める為にアダルトショップに行ったものの。
バイブやローションの品定めしていた弘樹自身が客や後には店員にオナホになる話し。
※表紙イラスト as-AIart- 様(素敵なイラストありがとうございます!)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる