撫子の華が咲く

茉莉花 香乃

文字の大きさ
上 下
54 / 98
華綻ぶは撫子

07

しおりを挟む
「実は…」
と始まった話は嘘のような話でにわかには信じられない。
話している間に先ほどの震えは治まったのか、少しずついつもの撫子に戻った。でもまだ少し頬を染めて恥ずかしそうにしているさまは庇護欲を掻き立てられる。

「お二人して、わたくしをからかっておられるんじゃないですよね?…まあ、主上がよろしいなら、わたくしは…でも御子さまは生まれないですね…」

それは残念だ。
勿論、姫だからと云って必ず御子を授かるとは限らない。現に後宮に今いる女御さまたちは、あんなに清涼殿にお渡りになっていたのに御子はいない。

「ありがとうございます。それで…お願いと云うのは今から申し上げることなのです」

何やら嫌な予感がする。

「右大臣さまに東宮さまを後見してもらいたいのです。本物のお祖父様にはなれませんが、東宮さまの一番の信頼を得て、お祖父様同様の地位になれますわ」

兄上は曾孫の東宮には見向きもしないし…わたしが後見しても何も云わないだろうか?

撫子が生まれたのは随分遅かった。
女御さまが本当の娘で、今、皇子が生まれても帝に即位されるまでわたしが生きているかはわからない。

今東宮は御歳七歳くらいだったか。他に皇子が生まれなければ、今東宮が何の問題もなく次代の帝だ。

帝を見れば、
「もう皇子は生まれないよ。わたしは撫子がいればいい」
「はい、わかりました。誠心誠意、東宮さまを後見致します」
「良かった。もし、駄目だって云われたら、右大臣さまの恋人のことを持ち出してお願いしなければならないかなって思ってたんです」
「えっ…」
「あっ…」

何か聞いてはいけないことを聞いたような…。嫌な予感はこれのことか?

「…えっと…わたくしは幼い頃から右大臣さまを見知っていました。姫さまのお屋敷の近くでよくお姿を拝見していて…。そのお屋敷に姫は…あの…」

あの綺麗な人の屋敷の近くにわたしの恋人が住んでいた。いや、違う。恋人の屋敷の近くにあの人が住んでいた。恋人の屋敷に行ったのに不在の時があった。その時に訪れたのがあの人の屋敷だった。
琴の音が綺麗だったのだ。

「申し訳ございません。…何かあった時に持ち出して…その…」

まあ、恋人のことを政子に云われたらたまらないし…。

「では、政子には内密にお願いしますよ」
「勿論です。脅す様な物云いをお許し下さい」

そう云えば…恋人の屋敷の近くに可愛らしい子がいたな…もう何年かすれば…と思ったものだ。

あの時の子が撫子…よく見れば似ている。

『娘だ』と思い込んでいたので気づかなかった。

…けれど、このことは帝には絶対に云ってはいけない。

それこそ身の破滅だ。


☆★☆  ★☆★  ☆★☆
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

少年ペット契約

眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。 ↑上記作品を知らなくても読めます。  小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。  趣味は布団でゴロゴロする事。  ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。  文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。  文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。  文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。  三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。  文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。 ※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。 ※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。

サンドリヨンは眠れない

花波橘果(はななみきっか)
BL
お立ち寄りいただきありがとうございます。本編完結しました。どうぞよろしくお願いいたします。 【あらすじ】 宝石店に勤務する崎谷玲(さきやれい)は、突然のトラブルから女装をしてホテル主催のパーティーに行くはめになる。社運をかけたダイヤモンドのネックレス『サンドリヨンの微笑』を宣伝するためだった。 パーティーを主催するのは日本を代表するホテルグループの若き役員、周防智之(すおうともゆき)。世間では周防の花嫁探しに注目していた。 パーティーの途中で一休みしようと屋上庭園に出た玲は、そこで周防と対面する。なぜか「探した」と言われてキスをされ、身体を触られる。女装がバレることを恐れて逃げ出すが、酔っていたこともありネックレスをなくしてしまう。 気付いて顔面蒼白になる玲。そこに周防がネックレスの持ち主を探しているというニュースが流れてくる。もう一度、持ち主に会いたいからと。 消えたシンデレラを探せと盛り上がる世間。花嫁候補だと騒がれ、本当は男だと言えなくなる玲。本人にしか返さないという周防から、玲はどうやってネックレスを取り返すのか……。から始まる再開ミステリー(?) 外側から見える姿と内面の真実。出会うのが早すぎたりすれ違ったり……それでも、何度出会っても好きになる。年の差再会ラブ!なお話です。 まわりのことも大事だけれど、本当に大事なものは誰かを好きだと思う自分の気持ち……。 ※ 作中で蝶の数え方を「頭」としています(じつは「頭」と「匹」でだいぶ迷いました)。 学術的には「頭」、日常の中では「匹」と数えるのが一般的だそうです。今回のお話ではバタフライサンクチュアリが出てきますので「頭」でいくことにしました。 森の上をゆく勇壮な姿も表現できたら、という願いもこめています。 多少違和感があるかもしれませんが、どうかご了承くださいませ。

僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした

なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。 「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」 高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。 そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに… その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。 ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。 かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで… ハッピーエンドです。 R18の場面には※をつけます。

何故か正妻になった男の僕。

selen
BL
『側妻になった男の僕。』の続きです(⌒▽⌒) blさいこう✩.*˚主従らぶさいこう✩.*˚✩.*˚

僕の宿命の人は黒耳のもふもふ尻尾の狛犬でした!【完結】

華周夏
BL
かつての恋を彼は忘れている。運命は、あるのか。繋がった赤い糸。ほどけてしまった赤い糸。繋ぎ直した赤い糸。切れてしまった赤い糸──。その先は?糸ごと君を抱きしめればいい。宿命に翻弄される神の子と、眷属の恋物語【*マークはちょっとHです】

お前らの相手は俺じゃない!

くろさき
BL
 大学2年生の鳳 京谷(おおとり きょうや)は、母・父・妹・自分の4人家族の長男。 しかし…ある日子供を庇ってトラック事故で死んでしまう……  暫くして目が覚めると、どうやら自分は赤ん坊で…妹が愛してやまない乙女ゲーム(🌹永遠の愛をキスで誓う)の世界に転生していた!? ※R18展開は『お前らの相手は俺じゃない!』と言う章からになっております。

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

渇望の檻

凪玖海くみ
BL
カフェの店員として静かに働いていた早坂優希の前に、かつての先輩兼友人だった五十嵐零が突然現れる。 しかし、彼は優希を「今度こそ失いたくない」と告げ、強引に自宅に連れ去り監禁してしまう。 支配される日々の中で、優希は必死に逃げ出そうとするが、いつしか零の孤独に触れ、彼への感情が少しずつ変わり始める。 一方、優希を探し出そうとする探偵の夏目は、救いと恋心の間で揺れながら、彼を取り戻そうと奔走する。 外の世界への自由か、孤独を分かち合う愛か――。 ふたつの好意に触れた優希が最後に選ぶのは……?

処理中です...