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恋は苦しいものですか?
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あれはわたしのことを思ってくれているのか?
嘘を付いた贖罪か?
頬にふわりと触れる。
気絶してしまった撫子を見て、慌ててしまった。
歯を食いしばって唇を噛んだのだろうか血が滲んでいた。
そっと口付ける。
撫子が起きることはなかったけれど、自分でも驚いた。
何故口付けたのか?
いつも穏やかに微笑む姿に心が癒された。男だと分かっていたのに。
夜に飛香舎を訪れたのも、「寝所の準備を」と云ったのもちょっとしたいたずら心だった。
どのような対応をするかと思ったのだ。
押し倒すなどと思ってなかった。
飛香舎に着いた時、衛門に呼び止められた。
「ご無礼をお許し下さいませ」
と手を付き、顔を上げて「これを」と手渡されたものを見て衛門が全て知っているのだと思った。
まさか、このようなことになるとは思っていなかったのかもしれないが。
「無理やりなど…
女御さまは抵抗などされなかったでしょうに」と怒っていた。
仕方がないではないか。男を抱いた事などなかったのだから。どこを使うかは知っていたし、衛門に渡された物の使い方も大体は分かっていたのだが…。詳しく知っていた訳ではない。
撫子が苦しむ姿は見たくない。けれど、今となってはもう少し傷が深ければもっと飛香舎へ行く事ができたのにと、相反するわたしの心は苦しむのだ。
あの時、撫子が笛の話をしている時に「本当にお上手でいらして…」
少し頬を染め、うっとりと右近の少将を褒めそやすのに、嫉妬にも似た感情がわたしを包み乱暴に組み敷いてしまった。
わたしはどうしてしまったのだろう…勿論、騙したことは許せなかった。
しかし騙していたその事よりも、他の男の事を熱心に語るのが許せなかったのか?
例えば麗景殿の女御が右近の少将の話をしていたとしたらどう思うだろう?
きっと「そう。演奏を聴けてよかったね」とあっさりしたものかもしれない。
男であると、はきとわかってしまったのに内裏を追い出さなかったのは、三条の大臣に失脚されると貴族の勢力図が崩れてしまうと誰に云うでもないのに言い訳して『離さずに側に置いておきたい』と思った。
今も、勿論初めて対面した時も。
確かめる機会は何度もあった。結婚の儀式の時も結局倒れてしまったけれど、確かめることぐらい直ぐにできた。言うまでもなく、清涼殿に召してしまえばそれで良いのだ。
でも、女御の人となりもわからぬうちに性急に問いただすことは出来なかった。…そんな心遣いをするのもおかしな話だが。
後宮とは御子を生み育てる所だ。そういう意味でも男などあり得ない。そもそも男が女御として入内することなどないので、そんな決め事は論ずることさえない。女御としてふさわしいかどうかは、父兄の身分や勢力が大切なのだ。
ただ、わたしはその役目を果たしてはいない。
もう御子は、特に男皇子は要らないと思っているのだから。
撫子を抱いた時、他の誰にも、中宮にも抱かなかった感情があった。
それは何なのか?
女御たちは言わずもがな周りの牽制に躍起で、わたしのことを見ているのかいないのか。
中宮でさえ、基良を産んだ後は『わたくしは皇太后となる』と言葉の端々に感じられて、些か興ざめしたのを覚えている。
嘘を付いた贖罪か?
頬にふわりと触れる。
気絶してしまった撫子を見て、慌ててしまった。
歯を食いしばって唇を噛んだのだろうか血が滲んでいた。
そっと口付ける。
撫子が起きることはなかったけれど、自分でも驚いた。
何故口付けたのか?
いつも穏やかに微笑む姿に心が癒された。男だと分かっていたのに。
夜に飛香舎を訪れたのも、「寝所の準備を」と云ったのもちょっとしたいたずら心だった。
どのような対応をするかと思ったのだ。
押し倒すなどと思ってなかった。
飛香舎に着いた時、衛門に呼び止められた。
「ご無礼をお許し下さいませ」
と手を付き、顔を上げて「これを」と手渡されたものを見て衛門が全て知っているのだと思った。
まさか、このようなことになるとは思っていなかったのかもしれないが。
「無理やりなど…
女御さまは抵抗などされなかったでしょうに」と怒っていた。
仕方がないではないか。男を抱いた事などなかったのだから。どこを使うかは知っていたし、衛門に渡された物の使い方も大体は分かっていたのだが…。詳しく知っていた訳ではない。
撫子が苦しむ姿は見たくない。けれど、今となってはもう少し傷が深ければもっと飛香舎へ行く事ができたのにと、相反するわたしの心は苦しむのだ。
あの時、撫子が笛の話をしている時に「本当にお上手でいらして…」
少し頬を染め、うっとりと右近の少将を褒めそやすのに、嫉妬にも似た感情がわたしを包み乱暴に組み敷いてしまった。
わたしはどうしてしまったのだろう…勿論、騙したことは許せなかった。
しかし騙していたその事よりも、他の男の事を熱心に語るのが許せなかったのか?
例えば麗景殿の女御が右近の少将の話をしていたとしたらどう思うだろう?
きっと「そう。演奏を聴けてよかったね」とあっさりしたものかもしれない。
男であると、はきとわかってしまったのに内裏を追い出さなかったのは、三条の大臣に失脚されると貴族の勢力図が崩れてしまうと誰に云うでもないのに言い訳して『離さずに側に置いておきたい』と思った。
今も、勿論初めて対面した時も。
確かめる機会は何度もあった。結婚の儀式の時も結局倒れてしまったけれど、確かめることぐらい直ぐにできた。言うまでもなく、清涼殿に召してしまえばそれで良いのだ。
でも、女御の人となりもわからぬうちに性急に問いただすことは出来なかった。…そんな心遣いをするのもおかしな話だが。
後宮とは御子を生み育てる所だ。そういう意味でも男などあり得ない。そもそも男が女御として入内することなどないので、そんな決め事は論ずることさえない。女御としてふさわしいかどうかは、父兄の身分や勢力が大切なのだ。
ただ、わたしはその役目を果たしてはいない。
もう御子は、特に男皇子は要らないと思っているのだから。
撫子を抱いた時、他の誰にも、中宮にも抱かなかった感情があった。
それは何なのか?
女御たちは言わずもがな周りの牽制に躍起で、わたしのことを見ているのかいないのか。
中宮でさえ、基良を産んだ後は『わたくしは皇太后となる』と言葉の端々に感じられて、些か興ざめしたのを覚えている。
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