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初めて恋を知りました
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「はあっ…」
「女御さま、しゃんとなさいませ」
「ああ、衛門か」
「なんだかお疲れのようですね」
「そりゃね…。でも、だいぶ落ち着いてきた。衛門は生き生きしてたね。後宮の華やかな空気が好きなんだねえ?」
「申し訳ございません…」と小さく呟くように云う衛門には、結婚の儀式が何事もなく終わり、後宮での生活が続くと分かった時に男である事を打ち明けた。
勿論驚かれたけれど、女性の肝の据わり方を頼もしく思った。
「まあ、本当のところ、歓迎なんてされていないでしょうしね。それにしても、主上は女御の催しにお出ましになるなんて今までなかったと聞いていましたけれどね」
「そうなんだ。でも、よくいらっしゃったよね。どちらかの女御が気になるのかな?そんなことしなくてももうご存知だろうしね…」
「…女御さま…お気付きになられないなんて…なんて無垢…いや、鈍感?…」
ぼそぼそと何かを云っている。
衛門らしくない。
はきはきとしていて、年を感じさせない溌剌とした物云いや態度は頼もしい。帝の幼い時を知っているようで初めての対面は、『お久しぶりにございます』だった。
貫禄は充分で、どちらの女御も女房も衛門が側に控えていると態度が違うような気がする。
「衛門、何?聞こえないよ」
「いえ、何でもございません。女御さまは主上の事はどの様に思われますか?」
「そうだね…」
「主上の事はお好きですか?」
「えっ?好き?…分からない…」
考えたことはなかった。わたしは男だし、好きとか嫌いとか…。勿論、ただ一人の人として尊敬しているし、お慕いしている。
いつもと変わらない様子で帝がいらっしゃった。
主座を降りて下座に座る。
ふわっと薫る帝独特の香りはわたしの心を落ち着ける。
ゆるりとお座りになって、常にわたしに向けられる優しい笑顔でお声を掛けて下さる。
「今日は顔色が良いね」
「はい、ありがとうございます。主上のお心遣いのお陰様で穏やかに過ごせております」
帝が何故度々こちらにいらっしゃるのかわからないけれど、三人の女御の事があるので少し困ってしまう。
出仕してから『宴』や『絵合せ』などと誘われて、それに返礼の宴を催したりで緊張の連続に気の休まる時がない。
それぞれの女御の言葉は幾分棘があり、特に麗景殿の女御は悪意のようなものを感じた。衛門が上手くあしらってくれて助かったけれど。
それもこれも、帝が飛香舎にいらっしゃるからだろう。
とは云え、帝の何気ない仕草や穏やかなお声、優雅な立ち振る舞いに憧れの様なものは感じている。
三条邸でお会いした撫子姫の兄君に負けず劣らずの格好良さである。
涼しげな目元、きりりと結ばれた口元からわたしに向けられる笑みは見惚れてしまう。
衛門に『主上が好きですか?』と聞かれて考えたけれど、答えはまだ分からない。
「女御さま、しゃんとなさいませ」
「ああ、衛門か」
「なんだかお疲れのようですね」
「そりゃね…。でも、だいぶ落ち着いてきた。衛門は生き生きしてたね。後宮の華やかな空気が好きなんだねえ?」
「申し訳ございません…」と小さく呟くように云う衛門には、結婚の儀式が何事もなく終わり、後宮での生活が続くと分かった時に男である事を打ち明けた。
勿論驚かれたけれど、女性の肝の据わり方を頼もしく思った。
「まあ、本当のところ、歓迎なんてされていないでしょうしね。それにしても、主上は女御の催しにお出ましになるなんて今までなかったと聞いていましたけれどね」
「そうなんだ。でも、よくいらっしゃったよね。どちらかの女御が気になるのかな?そんなことしなくてももうご存知だろうしね…」
「…女御さま…お気付きになられないなんて…なんて無垢…いや、鈍感?…」
ぼそぼそと何かを云っている。
衛門らしくない。
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「衛門、何?聞こえないよ」
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「そうだね…」
「主上の事はお好きですか?」
「えっ?好き?…分からない…」
考えたことはなかった。わたしは男だし、好きとか嫌いとか…。勿論、ただ一人の人として尊敬しているし、お慕いしている。
いつもと変わらない様子で帝がいらっしゃった。
主座を降りて下座に座る。
ふわっと薫る帝独特の香りはわたしの心を落ち着ける。
ゆるりとお座りになって、常にわたしに向けられる優しい笑顔でお声を掛けて下さる。
「今日は顔色が良いね」
「はい、ありがとうございます。主上のお心遣いのお陰様で穏やかに過ごせております」
帝が何故度々こちらにいらっしゃるのかわからないけれど、三人の女御の事があるので少し困ってしまう。
出仕してから『宴』や『絵合せ』などと誘われて、それに返礼の宴を催したりで緊張の連続に気の休まる時がない。
それぞれの女御の言葉は幾分棘があり、特に麗景殿の女御は悪意のようなものを感じた。衛門が上手くあしらってくれて助かったけれど。
それもこれも、帝が飛香舎にいらっしゃるからだろう。
とは云え、帝の何気ない仕草や穏やかなお声、優雅な立ち振る舞いに憧れの様なものは感じている。
三条邸でお会いした撫子姫の兄君に負けず劣らずの格好良さである。
涼しげな目元、きりりと結ばれた口元からわたしに向けられる笑みは見惚れてしまう。
衛門に『主上が好きですか?』と聞かれて考えたけれど、答えはまだ分からない。
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