8 / 98
姫と呼ばれています
03
しおりを挟む
☆★☆ ★☆★ ☆★☆
本日、撫子が屋敷に来る。
政子は渋っていたが、帝直々のお声掛りであれば反対することは憚られるのかわたしには何も言わなかった。
『それならば何故、三の君の時に無理やり入内させなかったのですか?』
と家令にボヤいていたらしいが帝より九つも年上では仕方があるまい。
貰い手が無くなる前に、年相応の公達を通わせることに政子も当時相当乗り気だったはずだ。
『主上の覚えめでたい今をときめく公達が婿だなんて本当にようございました』
と大騒ぎで支度をしていたと覚えている。
帝と年もそう変わらない、末の男の子が姫なら入内も考えたかもしれないけれど…。
撫子は入内が決まっているので、粗末には出来ない。
しかし、あまりにすると政子が怒る。板ばさみな状況でほとほと困ってしまう。それでも、家令が滞りなく支度をしてくれているので、問題はない。
あちらの屋敷にいた頃、撫子はわたしには懐かず会ったのは四つか五つくらいまでだった。
その頃には乳姉妹と遊ぶ方が偶に訪れる父に会うより良かったのだろう。庭でその乳姉妹の妹であろうか、三人で遊んでいる姿を見た事があった。
なので、撫子は恥ずかしいのかわたしの前にも現れなかった。乳姉妹の女房にがっちりガードされて、顔を伺うことも叶わなかった。使者として迎えに行かせた家令が牛車に乗る時にチラリと見えたのは、それはそれは綺麗な姫らしい。
髪も艶やかで長く、
『どこに出しても恥ずかしくない姫さまです』
力強く云ってくれたので、安心である。
幼い頃は十人並みだったように覚えているけれど、成長とともに美しくなったのだろう。あの美しい人の娘なので心配はしていなかったが、万が一帝に見向きもされない容姿では何のために頑張るかわかったものじゃない。
毎日一度は部屋へ足を運ぶが、十日も経ったころようやく撫子と対面した。
気分が優れず、ずっと臥せっていたのだと云う。
「なんどもお見舞いに来て頂いたにも関わらず申し訳ございません」
「急なことで体調を崩してしまったのだろう。あの人のことを思い出すにつれ、そなたが息災に過ごされているか気になってしまい、急がせてしまった。もう体は良いのかい?」
「はい、お陰様で、お父上さまにもお母上さまにも良くして頂きありがとうございます。本来なら、こちらから伺わなくてはならないものを申し訳ございません」
少し低めの声だ。風邪だったのかもしれない。環境の変化に付いて行けなかったのか?
『あの人もどこか儚いところがあったな』
なんて、昔のことを思い出した。
撫子の鈴を転がしたような声を聞きたかったが仕方あるまい。そういえば三人の姫もそこまで高い声ではない。あの人の声は高く、ころころとよく笑っていた。もしかして声はあの人に似なかったのかもしれない。撫子は家令の言う通り、綺麗で皇后になるべくして生まれて来たのではないかと思われるほどだった。
やった。
これで次代の帝のお祖父さまになれる。
わたしは今上帝の大叔父に当たるが、やはり次代の繋がりとしてはもっと強くなりたいと思ってしまったのである。
撫子には『入内』の話はまだしていない。
こちらに来るだけで、臥せってしまうか弱き姫には今一時をこの屋敷で過ごして貰おう。
喜んでくれるだろうか?
きっと喜んでくれるはずだ。
☆★☆ ★☆★ ☆★☆
本日、撫子が屋敷に来る。
政子は渋っていたが、帝直々のお声掛りであれば反対することは憚られるのかわたしには何も言わなかった。
『それならば何故、三の君の時に無理やり入内させなかったのですか?』
と家令にボヤいていたらしいが帝より九つも年上では仕方があるまい。
貰い手が無くなる前に、年相応の公達を通わせることに政子も当時相当乗り気だったはずだ。
『主上の覚えめでたい今をときめく公達が婿だなんて本当にようございました』
と大騒ぎで支度をしていたと覚えている。
帝と年もそう変わらない、末の男の子が姫なら入内も考えたかもしれないけれど…。
撫子は入内が決まっているので、粗末には出来ない。
しかし、あまりにすると政子が怒る。板ばさみな状況でほとほと困ってしまう。それでも、家令が滞りなく支度をしてくれているので、問題はない。
あちらの屋敷にいた頃、撫子はわたしには懐かず会ったのは四つか五つくらいまでだった。
その頃には乳姉妹と遊ぶ方が偶に訪れる父に会うより良かったのだろう。庭でその乳姉妹の妹であろうか、三人で遊んでいる姿を見た事があった。
なので、撫子は恥ずかしいのかわたしの前にも現れなかった。乳姉妹の女房にがっちりガードされて、顔を伺うことも叶わなかった。使者として迎えに行かせた家令が牛車に乗る時にチラリと見えたのは、それはそれは綺麗な姫らしい。
髪も艶やかで長く、
『どこに出しても恥ずかしくない姫さまです』
力強く云ってくれたので、安心である。
幼い頃は十人並みだったように覚えているけれど、成長とともに美しくなったのだろう。あの美しい人の娘なので心配はしていなかったが、万が一帝に見向きもされない容姿では何のために頑張るかわかったものじゃない。
毎日一度は部屋へ足を運ぶが、十日も経ったころようやく撫子と対面した。
気分が優れず、ずっと臥せっていたのだと云う。
「なんどもお見舞いに来て頂いたにも関わらず申し訳ございません」
「急なことで体調を崩してしまったのだろう。あの人のことを思い出すにつれ、そなたが息災に過ごされているか気になってしまい、急がせてしまった。もう体は良いのかい?」
「はい、お陰様で、お父上さまにもお母上さまにも良くして頂きありがとうございます。本来なら、こちらから伺わなくてはならないものを申し訳ございません」
少し低めの声だ。風邪だったのかもしれない。環境の変化に付いて行けなかったのか?
『あの人もどこか儚いところがあったな』
なんて、昔のことを思い出した。
撫子の鈴を転がしたような声を聞きたかったが仕方あるまい。そういえば三人の姫もそこまで高い声ではない。あの人の声は高く、ころころとよく笑っていた。もしかして声はあの人に似なかったのかもしれない。撫子は家令の言う通り、綺麗で皇后になるべくして生まれて来たのではないかと思われるほどだった。
やった。
これで次代の帝のお祖父さまになれる。
わたしは今上帝の大叔父に当たるが、やはり次代の繋がりとしてはもっと強くなりたいと思ってしまったのである。
撫子には『入内』の話はまだしていない。
こちらに来るだけで、臥せってしまうか弱き姫には今一時をこの屋敷で過ごして貰おう。
喜んでくれるだろうか?
きっと喜んでくれるはずだ。
☆★☆ ★☆★ ☆★☆
0
お気に入りに追加
155
あなたにおすすめの小説
少年ペット契約
眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。
↑上記作品を知らなくても読めます。
小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。
趣味は布団でゴロゴロする事。
ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。
文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。
文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。
文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。
三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。
文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。
※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。
※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。
サンドリヨンは眠れない
花波橘果(はななみきっか)
BL
お立ち寄りいただきありがとうございます。本編完結しました。どうぞよろしくお願いいたします。
【あらすじ】
宝石店に勤務する崎谷玲(さきやれい)は、突然のトラブルから女装をしてホテル主催のパーティーに行くはめになる。社運をかけたダイヤモンドのネックレス『サンドリヨンの微笑』を宣伝するためだった。
パーティーを主催するのは日本を代表するホテルグループの若き役員、周防智之(すおうともゆき)。世間では周防の花嫁探しに注目していた。
パーティーの途中で一休みしようと屋上庭園に出た玲は、そこで周防と対面する。なぜか「探した」と言われてキスをされ、身体を触られる。女装がバレることを恐れて逃げ出すが、酔っていたこともありネックレスをなくしてしまう。
気付いて顔面蒼白になる玲。そこに周防がネックレスの持ち主を探しているというニュースが流れてくる。もう一度、持ち主に会いたいからと。
消えたシンデレラを探せと盛り上がる世間。花嫁候補だと騒がれ、本当は男だと言えなくなる玲。本人にしか返さないという周防から、玲はどうやってネックレスを取り返すのか……。から始まる再開ミステリー(?)
外側から見える姿と内面の真実。出会うのが早すぎたりすれ違ったり……それでも、何度出会っても好きになる。年の差再会ラブ!なお話です。
まわりのことも大事だけれど、本当に大事なものは誰かを好きだと思う自分の気持ち……。
※ 作中で蝶の数え方を「頭」としています(じつは「頭」と「匹」でだいぶ迷いました)。
学術的には「頭」、日常の中では「匹」と数えるのが一般的だそうです。今回のお話ではバタフライサンクチュアリが出てきますので「頭」でいくことにしました。
森の上をゆく勇壮な姿も表現できたら、という願いもこめています。
多少違和感があるかもしれませんが、どうかご了承くださいませ。
姫を拐ったはずが勇者を拐ってしまった魔王
ミクリ21
BL
姫が拐われた!
……と思って慌てた皆は、姫が無事なのをみて安心する。
しかし、魔王は確かに誰かを拐っていった。
誰が拐われたのかを調べる皆。
一方魔王は?
「姫じゃなくて勇者なんだが」
「え?」
姫を拐ったはずが、勇者を拐ったのだった!?
僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした
なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。
「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」
高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。
そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに…
その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。
ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。
かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで…
ハッピーエンドです。
R18の場面には※をつけます。
僕の宿命の人は黒耳のもふもふ尻尾の狛犬でした!【完結】
華周夏
BL
かつての恋を彼は忘れている。運命は、あるのか。繋がった赤い糸。ほどけてしまった赤い糸。繋ぎ直した赤い糸。切れてしまった赤い糸──。その先は?糸ごと君を抱きしめればいい。宿命に翻弄される神の子と、眷属の恋物語【*マークはちょっとHです】
つぎはぎのよる
伊達きよ
BL
同窓会の次の日、俺が目覚めたのはラブホテルだった。なんで、まさか、誰と、どうして。焦って部屋から脱出しようと試みた俺の目の前に現れたのは、思いがけない人物だった……。
同窓会の夜と次の日の朝に起こった、アレやソレやコレなお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる