撫子の華が咲く

茉莉花 香乃

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それは突然のことでした

03

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「それならば、わたしが最高級のかもじ(カツラ・結髪用の入れ毛)を用意しますよ。入内じゅだいも出来るような立派な物を」

保憲さまも必死だ。
こんなに必死になってわたしが三条邸に行くのを嫌がってくれるなんて、不謹慎だけど、とっても幸せを感じる。そんなことは無いだろうけど、入内じゅだいして帝に仕えるよりもやはり、今は保憲さまと一緒にいたい。
とうさまも、入内させるなら三条邸の娘にと思うはずだ。帝が今、御年お幾つであらせられるかは知らないけれど…

ーーー入内じゅだい(皇后・中宮ちゅうぐう女御にょうごなどに決まった女性が、儀礼を整えて正式に宮中に入ること)

「やはり惟忠、行くしかないな。姫さまのためだよ。こんなに嫌がっていらっしゃるじゃない。髪は保憲さまがなんとかして下さるなら問題無いでしょう」

桔梗は自分のことではないのでかなり乗り気だ。

「いや…それでも、もし右大臣殿がどなたかと結婚をと考えていらっしゃったら…わたしは…男なので、やはり問題です。誰ぞが夜這いでもして来ようものなら、一発で男だと判ってしまいますよ。自慢ではありませんが、わたしは男にしては小柄ですし、力では到底敵わない」

惟忠も必死だ。
「それでも保憲さまが直ぐに求婚して下さるから、右大臣さまが他の公達きんだち(貴族の若さま)と結婚などと考えますまい」

桔梗は何故か惟忠を身代わりにしたいらしい。

「それならば、ねえさまがダメでも違う女房を代わりに行かせた方がよっぽど自然ではないですか?」
「姫さまのことをよく知る女房はいないだろう?皆、最近こちらへ来た人たちなのに。秘密が漏れてはいけないからね」

それはそうだ。
もともと若い女房は桔梗だけで、前からこの屋敷にいるのは古参の女房だ。
若い女房はまだ顔も覚えていないくらい、こちらに仕えて日は浅い。

惟忠は何か他にこの話に反対できるものははないかと考えているが、桔梗には逆らえないらしい。

何か弱みでも握られているのか?

くして、惟忠の身代わりが決定した。


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