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落暉
05
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「二人で何の話をしてるの?」
「あら、内緒です」
上皇と撫子が見つめ合う。
差し伸べられた逞しい手を、白魚のような華奢な手が掴む。難なく抱き寄せ、腕の中にすっぽりと隠してしまった。
(もしかして…、僕に対しても警戒されているのだろうか?)
「尊、どうした?」
「やっ、えっと…相談?にのってもらってた、感じ?」
何ともあやふやな返事に、親彬からも漏れる独占欲に、隣から撫子がくふっと可愛らしい笑い声を漏らす。
尊より十歳以上年上の撫子を、失礼ながら可愛いと思ってしまう。美人さん(男だけど…)だが愛嬌ある仕草に威圧感はなく、親しみやすい。照れ笑いで視線を彷徨わせた。
そんな二人を見て親彬は、撫子に対するあからさまな威圧はないけれど微かに不機嫌なオーラが漂っていた。
「尊さま、頑張って」
「えっ?今ですか?」
「わたくしたちが見届けて差し上げます。大丈夫」
(何が大丈夫だよ!全然大丈夫じゃない!えー、うそ、嘘!?)
心の中で叫びながら怪訝な顔の親彬を仰ぎ見る。今聞くことは勇気が要る。だけど、ズルズルと先に伸ばしても結果は同じ。それで振られるならそれまで。きっぱり、はっきり振ってくれれば…泣くかもしれないけれど、気持ちを切り替えて対処できる。もし、親彬がこのあやふやな関係を望んだら、その時にまた考えれば良いじゃないかと腹を括った。
「あの…親に聞きたいことがあって…」
「俺に?」
「うん…」
チラリと撫子を見れば、真剣な表情で、両手を握りしめ、ファイト!と励まされているかのような仕草に思わず肩の力が抜けた。可愛らしく無邪気な貴婦人に後押しされ、覚悟を決めた。手を差し伸べると、親彬の手に包まれる。親彬はしばしの逡巡の後、引っ張って尊を立たせるのではなく、先ほど撫子が座っていた反対側の隣に座り、伺うような視線を尊に向けた。
「親は…」
(うわ…、何て聞けば良い?)
尊は口を開けては閉じ、また開けては続きの言葉を探した。しばらくじっと言葉を待っていた親彬だったけれど、尊の落ち着きのなさや言い淀む様子を見て何かを察したようだ。
「尊…何が不安だ?」
「………」
「尊を愛してる。それだけでは不満か?何度も伝えているだろ?」
「……っ…」
「俺を信じられない?」
「やっ、そんなこと……」
真剣な目で真っ直ぐに尊を見つめ、親彬は尊の欲しい言葉を紡ぐ。
「一生、尊だけを愛する」
「…ひっ…ぅっ…親…」
尊の頬を涙が伝う。
親彬は尊の手をしっかりと握り、正面から真っ直ぐに見る。二人の間には両手しか繋がりはないのに、身体を温かいものが包む。それが親彬の気だと気付き、また、涙が溢れた。
「わたくしたちが証人ですね」
撫子が上皇を見上げると「ああ、そうだな」と二人見つめあっていた。
屋敷に戻り、親彬は迷いなく尊の部屋に一緒に入る。
「尊、不安だったのか?」
「うん…ごめん…」
「謝らなくていい」
「うん」
「あの神社ができれば、尊の住んでいた時代へも楽に行けるようになる。一緒に連れて行ってくれるか?」
「親も?」
「嫌か?」
「ううん、違うよ。……嬉しい」
尊はまさか一緒に行けるとは思っていなかった。親彬にしてみれば、確実に尊を平安へ連れ戻すことができる手立てを考えただけだったのだが、そんな腹黒い考えを尊が見抜けるわけもない。
護尊神社はひっそりと都を護るようにそこに建つ。
尊の奏でる笛の音が厳かに響き渡った。
おわり
「あら、内緒です」
上皇と撫子が見つめ合う。
差し伸べられた逞しい手を、白魚のような華奢な手が掴む。難なく抱き寄せ、腕の中にすっぽりと隠してしまった。
(もしかして…、僕に対しても警戒されているのだろうか?)
「尊、どうした?」
「やっ、えっと…相談?にのってもらってた、感じ?」
何ともあやふやな返事に、親彬からも漏れる独占欲に、隣から撫子がくふっと可愛らしい笑い声を漏らす。
尊より十歳以上年上の撫子を、失礼ながら可愛いと思ってしまう。美人さん(男だけど…)だが愛嬌ある仕草に威圧感はなく、親しみやすい。照れ笑いで視線を彷徨わせた。
そんな二人を見て親彬は、撫子に対するあからさまな威圧はないけれど微かに不機嫌なオーラが漂っていた。
「尊さま、頑張って」
「えっ?今ですか?」
「わたくしたちが見届けて差し上げます。大丈夫」
(何が大丈夫だよ!全然大丈夫じゃない!えー、うそ、嘘!?)
心の中で叫びながら怪訝な顔の親彬を仰ぎ見る。今聞くことは勇気が要る。だけど、ズルズルと先に伸ばしても結果は同じ。それで振られるならそれまで。きっぱり、はっきり振ってくれれば…泣くかもしれないけれど、気持ちを切り替えて対処できる。もし、親彬がこのあやふやな関係を望んだら、その時にまた考えれば良いじゃないかと腹を括った。
「あの…親に聞きたいことがあって…」
「俺に?」
「うん…」
チラリと撫子を見れば、真剣な表情で、両手を握りしめ、ファイト!と励まされているかのような仕草に思わず肩の力が抜けた。可愛らしく無邪気な貴婦人に後押しされ、覚悟を決めた。手を差し伸べると、親彬の手に包まれる。親彬はしばしの逡巡の後、引っ張って尊を立たせるのではなく、先ほど撫子が座っていた反対側の隣に座り、伺うような視線を尊に向けた。
「親は…」
(うわ…、何て聞けば良い?)
尊は口を開けては閉じ、また開けては続きの言葉を探した。しばらくじっと言葉を待っていた親彬だったけれど、尊の落ち着きのなさや言い淀む様子を見て何かを察したようだ。
「尊…何が不安だ?」
「………」
「尊を愛してる。それだけでは不満か?何度も伝えているだろ?」
「……っ…」
「俺を信じられない?」
「やっ、そんなこと……」
真剣な目で真っ直ぐに尊を見つめ、親彬は尊の欲しい言葉を紡ぐ。
「一生、尊だけを愛する」
「…ひっ…ぅっ…親…」
尊の頬を涙が伝う。
親彬は尊の手をしっかりと握り、正面から真っ直ぐに見る。二人の間には両手しか繋がりはないのに、身体を温かいものが包む。それが親彬の気だと気付き、また、涙が溢れた。
「わたくしたちが証人ですね」
撫子が上皇を見上げると「ああ、そうだな」と二人見つめあっていた。
屋敷に戻り、親彬は迷いなく尊の部屋に一緒に入る。
「尊、不安だったのか?」
「うん…ごめん…」
「謝らなくていい」
「うん」
「あの神社ができれば、尊の住んでいた時代へも楽に行けるようになる。一緒に連れて行ってくれるか?」
「親も?」
「嫌か?」
「ううん、違うよ。……嬉しい」
尊はまさか一緒に行けるとは思っていなかった。親彬にしてみれば、確実に尊を平安へ連れ戻すことができる手立てを考えただけだったのだが、そんな腹黒い考えを尊が見抜けるわけもない。
護尊神社はひっそりと都を護るようにそこに建つ。
尊の奏でる笛の音が厳かに響き渡った。
おわり
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