逢魔刻に氷菓を手折り

茉莉花 香乃

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落暉

03

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未だ、夜に親彬が女の…、何処どこぞの姫さまの屋敷に出掛けているのではないかと気になる。けれど、毎夜とは云えないがそれに近い頻度で、親彬は北の対屋へ夜に来る。昼に一緒に行動して一旦別々の部屋に入っても、夜に来るのだ。そして、来られない日にはあかが尊を見守るように部屋に控えている。勿論それは親彬が命じたからだ。自分の部屋には行かずに尊と一緒に北の対屋にずっといる時もある。

そんなに執着されると嬉しくなる。新しい恋人が珍しいからかなと嬉しがる心にブレーキをかける。

いつになったら飽きる?
いつになったら……親彬は結婚する?
それまでだよね?
もし、そうなったなら…平成へ帰っても許されるだろうか?



「ここは、空気が気持ちいいですね」
「あっ、撫子さま」

上皇の奥さま(男だけど…)が一人で尊の隣に座る。

「ああ、お着物が汚れます!あの、お一人でいらしたのですか?」
「いえ、上皇さまと一緒ですよ。あちらで親彬さまとお話しされています」

今日は上皇が視察に来ると聞いていた。着物がと焦る尊を笑顔で制し、撫子はあっさり尊の隣に落ち着いた。若木の御神木を背に、二人並んで仲良く座る。

「あの…何か、悩まれてはいませんか?」
「えっ?……いえ」
「お役に立てるかはわかりませんが、親彬さまに云えないことでお悩みなら、わたくしに話してみてはいかがですか?何か策があるかもしれませんし。もし、解決できないことでも、吐き出してしまえば気持ちも楽になるでしょう?」

流石、上つ方うえつかたの奥方さま(男だけど…)。物腰柔らかで、お上品。そしてこの気遣い。

「わたくしでは頼りないかもしれませんが、こう見えても若い頃は姫さまの屋敷にお仕えして仕事をしていたのですよ?」

驚いてマジマジと隣の綺麗な人を見る。どこをどうみても貴婦人にしか見えない。撫子はふふっとイタズラが成功した幼子のように無邪気に笑った。

「わたくしの秘密を知っている人は少ないのです。だから、知っていて尚、受け入れてくださる方には仲良くして頂きたいのですよ」

尊もそうだ。時を渡って来たと誰もが知っている訳ではない。宮中でも一部の人を除き、陰陽寮を一歩出ればそのことは伏せられている。尊は思い切って不安に思っていることを話した。

「親彬さまを信じきることができないのですね?」
「まあ、そうですね。僕の住んでいた時代は、一夫一婦制で、普通は恋人って一人なんです。たまに浮気する人もいますが、バレたら大変です。でも、この時代の人は違うでしょ?それに、僕は男だし。親彬はいずれ結婚するでしょうし…」
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