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落暉
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尊が何も云わなくても、来るたびに住んでいた通りの社殿ができあがっていく。
この神社が創建された暁には、安倍雅季がここを護ることになる。ゆくゆくは賀茂家の者にその任を引き継ぐけれど、それまではここで…陽毬と共に過ごすのだ。この神社の周りにはしっかりと結界を張る。余所者が入らぬように、〈氷の君〉が暴れぬように。それは尊の役目だ。そして…雅季の寿命が尽きた時、〈氷の君〉は尊の手によって雅季と一緒に送ることになっている。
藤原顕行の屋敷での対決の後、尊はどうしてもそのまま〈氷の君〉を滅することができなかった。あんなに悲しい交わりは心が痛い。尊は自分の住んでいた護尊神社の創建された理由は知らないけれど、どうせ建てるのだったらいいのではないかと思ったのだ。実際、全く同じに造られていくのを見ると、これで正しかったのだと自分に言い聞かせた。何故なら親彬に反対されたのだ。何を考えているのかと。親彬は〈氷の君〉の退治を命じられた。例えそれが上司の大切な人だったとしても、許されるものではない。
陽毬は顕行の厚意によりそのまま屋敷に留まっている。もう悪さをする意味は無い。顕行は、まさか屋敷に置かれているのが都を騒がせた〈氷の君〉だとは思っていない。翁の知り合いなら多少の怪しさは許してくれるだろうが、真実を知る必要はない。夜な夜な雅季が陽毬に会いに行けば、都を徘徊したいとも思わないだろう。それに尊の力により縛られている。もし、暴走しても屋敷から出ることは叶わない。
尊は翁や親彬の力を借りて、帝と上皇の許可を得るために奔走した。親彬は渋々付き従ってくれたけれど本音は反対のようだ。どうしてと聞くと、どうやら尊を心配してのことだと云う。まさか〈氷の君〉に嫉妬してくれているのだろうかと考え、思わず苦笑いが漏れた。土御門の宮や他の者に対する独占欲と嫉妬は全然別のものだ。お気に入りが自分以外の者と仲良くするのが気に入らないのだろう。だが、嫉妬はない。それが〈氷の君〉でなくとも。親彬の気持ち全てが自分に向くことはないのだと、尊は己に言い聞かせた。
常に心にブレーキを掛けておかないと、前のめりになり親彬に嫌われて恋人の一人と云うあやふやな立場も失ってしまうかもしれない。
この神社が創建された暁には、安倍雅季がここを護ることになる。ゆくゆくは賀茂家の者にその任を引き継ぐけれど、それまではここで…陽毬と共に過ごすのだ。この神社の周りにはしっかりと結界を張る。余所者が入らぬように、〈氷の君〉が暴れぬように。それは尊の役目だ。そして…雅季の寿命が尽きた時、〈氷の君〉は尊の手によって雅季と一緒に送ることになっている。
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尊は翁や親彬の力を借りて、帝と上皇の許可を得るために奔走した。親彬は渋々付き従ってくれたけれど本音は反対のようだ。どうしてと聞くと、どうやら尊を心配してのことだと云う。まさか〈氷の君〉に嫉妬してくれているのだろうかと考え、思わず苦笑いが漏れた。土御門の宮や他の者に対する独占欲と嫉妬は全然別のものだ。お気に入りが自分以外の者と仲良くするのが気に入らないのだろう。だが、嫉妬はない。それが〈氷の君〉でなくとも。親彬の気持ち全てが自分に向くことはないのだと、尊は己に言い聞かせた。
常に心にブレーキを掛けておかないと、前のめりになり親彬に嫌われて恋人の一人と云うあやふやな立場も失ってしまうかもしれない。
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