逢魔刻に氷菓を手折り

茉莉花 香乃

文字の大きさ
上 下
86 / 89
落暉

02

しおりを挟む
尊が何も云わなくても、来るたびに住んでいた通りの社殿ができあがっていく。

この神社が創建された暁には、安倍雅季がここを護ることになる。ゆくゆくは賀茂家の者にその任を引き継ぐけれど、それまではここで…陽毬と共に過ごすのだ。この神社の周りにはしっかりと結界を張る。余所者が入らぬように、〈氷の君〉が暴れぬように。それは尊の役目だ。そして…雅季の寿命が尽きた時、〈氷の君〉は尊の手によって雅季と一緒に送ることになっている。

藤原ふじわらの顕行あきゆきの屋敷での対決の後、尊はどうしてもそのまま〈氷の君〉を滅することができなかった。あんなに悲しい交わりは心が痛い。尊は自分の住んでいた護尊神社の創建された理由は知らないけれど、どうせ建てるのだったらいいのではないかと思ったのだ。実際、全く同じに造られていくのを見ると、これで正しかったのだと自分に言い聞かせた。何故なら親彬に反対されたのだ。何を考えているのかと。親彬は〈氷の君〉の退治を命じられた。例えそれが上司の大切な人だったとしても、許されるものではない。

陽毬は顕行の厚意によりそのまま屋敷に留まっている。もう悪さをする意味は無い。顕行は、まさか屋敷に置かれているのが都を騒がせた〈氷の君〉だとは思っていない。翁の知り合いなら多少の怪しさは許してくれるだろうが、真実を知る必要はない。夜な夜な雅季が陽毬に会いに行けば、都を徘徊したいとも思わないだろう。それに尊の力により縛られている。もし、暴走しても屋敷から出ることは叶わない。

尊は翁や親彬の力を借りて、帝と上皇の許可を得るために奔走した。親彬は渋々付き従ってくれたけれど本音は反対のようだ。どうしてと聞くと、どうやら尊を心配してのことだと云う。まさか〈氷の君〉に嫉妬してくれているのだろうかと考え、思わず苦笑いが漏れた。土御門の宮や他の者に対する独占欲と嫉妬は全然別のものだ。お気に入りが自分以外の者と仲良くするのが気に入らないのだろう。だが、嫉妬はない。それが〈氷の君〉でなくとも。親彬の気持ち全てが自分に向くことはないのだと、尊は己に言い聞かせた。

常に心にブレーキを掛けておかないと、前のめりになり親彬に嫌われて恋人の一人と云うあやふやな立場も失ってしまうかもしれない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

年越しチン玉蕎麦!!

ミクリ21
BL
チン玉……もちろん、ナニのことです。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

営業活動

むちむちボディ
BL
取引先の社長と秘密の関係になる話です。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

僕の穴があるから入りましょう!!

ミクリ21
BL
穴があったら入りたいって言葉から始まる。

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

素直じゃない人

うりぼう
BL
平社員×会長の孫 社会人同士 年下攻め ある日突然異動を命じられた昭仁。 異動先は社内でも特に厳しいと言われている会長の孫である千草の補佐。 厳しいだけならまだしも、千草には『男が好き』という噂があり、次の犠牲者の昭仁も好奇の目で見られるようになる。 しかし一緒に働いてみると噂とは違う千草に昭仁は戸惑うばかり。 そんなある日、うっかりあられもない姿を千草に見られてしまった事から二人の関係が始まり…… というMLものです。 えろは少なめ。

処理中です...