逢魔刻に氷菓を手折り

茉莉花 香乃

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朝朗

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「ねえ、安倍さまの式神の名前、知ってる?」
「そんなの、知らないってさっき云っただろ?!」
「あのね、すごく大切な、恋人の名前なんだって」
「へ、へぇ…。そんなの俺には関係ない…」

急に落ち込み、声にも力がなくなった。歯を食いしばり、何かに耐えるように下を向く。

「親も云ったけど、安倍さまはもしかしたら、陽毬さん、あなたが妖怪になってしまったのだとしたら、自分のせいだと責任を感じてる。ここのところ寝られてないんだよ」
「えっ…」
「あなたを大切に思ってたんだ。安倍さまの式神の名前は『陽毬』だよ」
「!……嘘…」
「嘘じゃない。十四、五歳のあどけなさの残る綺麗な式神だよ。あなたによく似ている。陽毬さん。きっと、今も、あなたの事が…」
「あ、いたい…」

囁くような、小さな声で〈氷の君〉はやっと願いを口にした。

「親、お願い」
「わかった」

いつもは年の割に元気で若々しい雰囲気のある  陰陽頭おんようのかみ安倍あべの雅季まさきは、憔悴しきっていた。もとどりは乱れ、頬もこけて見える。

「陽毬…」
「まぁ兄さま…」

雅季に五芒星の中に入ってもらい、尊は抜けた。

「僕たちは隣にいます。念のためこの部屋には結界を張らせて頂きます。よろしいですか?」
「ああ、構わない。よろしく頼む」



「大丈夫なのか?」
「何が?」
「二人…この場合、二人かはわからないけど、二人にしてってことだよ」
「安倍さまだって陽毬さんが〈氷の君〉だってことはわかってるよ。ただ、僕たちが隣にいても良いのかなって思うけど」
「それは…」
「だって、二人の気持ちが離れ離れになった時から変わっていないなら、それは恋人ってことでしょ?」
「そんなこと!許して良いのか?」
「親、声大きいよ。良いでしょ?もしこれで、被害者のように安倍さまも女はもう良いってなっても困らないだろうし、男もってなっても、きっと受け入れるよ」
「う、うん」

きっとこれが最後だ。次はない。いくらもう被害を出さないからと云って、そのままにしておくわけにはいかない。今は、大丈夫でも、時間が経ったら、〈氷の君〉の意思に関係なく悪さしてしまうかもしれないだろう。他の悪い妖怪に取り憑かれたらそれこそ、問題だ。
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