逢魔刻に氷菓を手折り

茉莉花 香乃

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朝朗

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「嘘じゃない。だから、何で恨んでるんだよ?自分で消えたんだろ?」
「そんなわけない!俺はあの人に売られたんだ!」
「それは違うぞ?安倍さまは、今だってお前の事を想ってるよ」
「そんな…俺は…」
「随分探したと聞きました。しばらく何も手に付かず、死んでしまおうと思ったこともあったと聞きましたよ」
「俺は……だって……あいつら、…お前は捨てられたんだって、高い金ふっかけてきたぞってせせら嗤って…、俺…信じてたのに…」

さらわれた方は他者の思惑に騙されやすい。二人は引き裂かれた。陽毬は美少年だったのだ。人買いに連れ去られた。捨てられたと嘆いているなら、絶望で、逃げ出したいとは思わなかったかもしれない。それほど、信頼し、大切に思っていた。当然同じように思われていると信じて疑わなかった。そこを逃げても、売られたと思っているなら、帰る場所がない。一緒に住んでいたのなら、
他に行く所などないのだから…。

「表の牛車に、お前に会いたいと願う人がいる」
「えっ?…俺は、あ、いたく、ない…」
「ねえ、陽毬さん…このまま、消えて良いの?本当に会いたくない?あなたが会いたくないと思っていても、あなたに会いたいと思う人がいるんだよ?」
「嘘だ!」
「どうして嘘だと思うの?」
「だって…俺は…」
「屋敷の前で会ってたのは本当にただの偶然だよ。挨拶だったり、お使いだったり。そりゃ、安倍さまだってお一人で寂しい夜もあっただろうから、ずっとお一人じゃなかったかもしれないけど…それは許してあげなよ。陽毬さんが居ない寂しさや悲しさを、どうすることもできなかったんだと思うよ」
「連れくるぞ?」
「待って…」
「じゃあ、仕方ないね。陽毬さん、僕がこの世の未練も恨みも綺麗にしてあげる」
「ちょっ!尊、良いのかよ?!あの人、ここんとこ寝られてなくて、会わずにこいつが綺麗さっぱり居なくなれば…余計に自分のせいだって…」
「だって、陽毬さんが会いたくないなら仕方ないよ。ね?陽毬さん?」
「えっ?俺は……」
「どうしたい?安倍さまに二度目の絶望を与えるの?」
「二度目?」
「そうだよ。一度目は陽毬さんが消えた時だよ。かどわかしにあった時。二度目は今だよ」
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