79 / 89
朝朗
11
しおりを挟む
冷たい手が尻を撫でる。
「ひゃ…」
思わず声を出してしまい、慌てて手で口を押さえた。手が来ることはわかっていたが、何せ冷た過ぎるのだ。
「ねえ?」
『………』
「聞こえてるでしょ?」
『………』
意を決して話しかけるも、やはり応えてはくれない。このまま何もしなければ襲われる。果たして噂が本当かどうかを確かめる気はない。親彬に抱かれている尊をこの妖怪が諦めないなら、身の危険がそこにある。懐から勝一の髪の毛入りの御札を取り出し、身体から外した。途端に、妖怪の纏う雰囲気が変わる。
「びっくりした?」
『………』
「僕は、賀茂尊と云います。はじめまして、陽毬さん…とお呼びしても構いませんか?」
『………』
返事はないが、うつ伏せに押さえつけていた手はいつのまにか離れていた。物理的な重さは感じなかったが、霊気と冷気が混ざった圧がふっと身体から抜けるのがわかった。
「少し、話しませんか?」
『お前は、誰だ?何故わたしの昔の名を知っている?』
「やっと、返事してくれましたね、陽毬さん」
『その名は捨てた。わたしを捨てた男が呼んでいた名など、わたしには必要ない』
「あなたは、捨てられてなどいなかったのですよ?」
『嘘だ!』
取り乱した〈氷の君〉が五芒星の外に倒れそうになる。だが、外に出ることはなかった。不自然に壁のようなもので押し戻され、暴れ始める。懐から紐を取り出し、紐にお願いする。
「この人を縛って」
尊は〈氷の君〉にも術をかけた。意思を持ってするすると紐が動き、するりと塀でもどこでもすり抜けるこの妖怪の身体をしっかり動けないように縛る。
「はぁ…親、縛ったよ」
「ああ…そのようだな」
(良かった……。一先ず、成功だ)
「でも、触らす前に縛れただろ?」
「えっ?そ、そうかな…」
親彬は何故か不機嫌に眉間に皺を寄せる。
「座りませんか?」
〈氷の君〉に向き直り話しかけると、今まであやふやだった顔がはっきりと見えた。その顔を見て、やはりと思った。
「な、何を…した?」
「さあ、どうなんでしょうね…」
「ひゃ…」
思わず声を出してしまい、慌てて手で口を押さえた。手が来ることはわかっていたが、何せ冷た過ぎるのだ。
「ねえ?」
『………』
「聞こえてるでしょ?」
『………』
意を決して話しかけるも、やはり応えてはくれない。このまま何もしなければ襲われる。果たして噂が本当かどうかを確かめる気はない。親彬に抱かれている尊をこの妖怪が諦めないなら、身の危険がそこにある。懐から勝一の髪の毛入りの御札を取り出し、身体から外した。途端に、妖怪の纏う雰囲気が変わる。
「びっくりした?」
『………』
「僕は、賀茂尊と云います。はじめまして、陽毬さん…とお呼びしても構いませんか?」
『………』
返事はないが、うつ伏せに押さえつけていた手はいつのまにか離れていた。物理的な重さは感じなかったが、霊気と冷気が混ざった圧がふっと身体から抜けるのがわかった。
「少し、話しませんか?」
『お前は、誰だ?何故わたしの昔の名を知っている?』
「やっと、返事してくれましたね、陽毬さん」
『その名は捨てた。わたしを捨てた男が呼んでいた名など、わたしには必要ない』
「あなたは、捨てられてなどいなかったのですよ?」
『嘘だ!』
取り乱した〈氷の君〉が五芒星の外に倒れそうになる。だが、外に出ることはなかった。不自然に壁のようなもので押し戻され、暴れ始める。懐から紐を取り出し、紐にお願いする。
「この人を縛って」
尊は〈氷の君〉にも術をかけた。意思を持ってするすると紐が動き、するりと塀でもどこでもすり抜けるこの妖怪の身体をしっかり動けないように縛る。
「はぁ…親、縛ったよ」
「ああ…そのようだな」
(良かった……。一先ず、成功だ)
「でも、触らす前に縛れただろ?」
「えっ?そ、そうかな…」
親彬は何故か不機嫌に眉間に皺を寄せる。
「座りませんか?」
〈氷の君〉に向き直り話しかけると、今まであやふやだった顔がはっきりと見えた。その顔を見て、やはりと思った。
「な、何を…した?」
「さあ、どうなんでしょうね…」
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
素直じゃない人
うりぼう
BL
平社員×会長の孫
社会人同士
年下攻め
ある日突然異動を命じられた昭仁。
異動先は社内でも特に厳しいと言われている会長の孫である千草の補佐。
厳しいだけならまだしも、千草には『男が好き』という噂があり、次の犠牲者の昭仁も好奇の目で見られるようになる。
しかし一緒に働いてみると噂とは違う千草に昭仁は戸惑うばかり。
そんなある日、うっかりあられもない姿を千草に見られてしまった事から二人の関係が始まり……
というMLものです。
えろは少なめ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる