77 / 89
朝朗
09
しおりを挟む
普段あまり話さない陰陽頭との会話は緊張するものの嬉しくて、その後しばらく話し込んだ後、それではと暇を告げて帰った。
勝一の容姿は幼さが残るものの、身体つきは尊よりはるかにガッチリとしていた。陰陽師としての腕はそこそこで、これから将来を期待されている若手である。
そして、その翌日。
弓削勝一は今日もお使いをしていた。
普通なら嫌がるところだが、今日のこれは、実は嬉しかったりする。
東山にある寂れた屋敷。陰陽頭や先輩陰陽師の加茂親彬に留まらず、帝や上皇からも一目置かれる大先輩の陰陽師が住んでいる。そのお方に『これ』を届けて欲しいと頼まれたのだ。
頼んだのは賀茂親彬。これから行かなければならない所が出来た。今日『これ』を持って行くと約束していたので、代わりに持って行って欲しいと。『これ』は風呂敷に包まれた少し重さのある物だった。
大事に抱え、緊張しながら屋敷に入る。連絡が入っていたようで、笑顔で迎えられようやく緊張を少しだけ解いた。
「ようおいでなさった。ほら、上がりなさい。ああ、良い良い。そんなに畏まらずとも、取って食いやしないからのぉ、ふぉっふぉっ」
「は、はぁ…、あ、ありがとうございます」
ますます畏る勝一は『これ』を渡した。すると、一緒に食べようと云われて白湯を勧められた。そこでようやく、『これ』がこの翁の好物であるらしい菓子であることがわかった。菓子か…と思ったが、ダメにするのはもったいない。作ったのなら今日のうちに届けなければならなかったのも頷ける、と一人納得した勝一であった。
例え何であっても文句はない。同じ陰陽生の友が羨ましそうにしていたのは知っている。明日、どんなだったかと質問攻めにあうだろう。
勝一が屋敷に入った途端、翁はこの屋敷全体に結界を張った。何物も寄せ付けない結界を。
それから、面白おかしい翁の話に勝一が相槌を打ち、勝一の笛と翁の琵琶の合奏を楽しんだ。何や彼やと楽しい時間は過ぎて行く。いくらなんでも、もうそろそろ帰らなければと勝一が思ったのは亥一つであった。慌てていると、もう帰るのか?とのんびり云われ、恐縮しながら家路に着いた。
勝一の容姿は幼さが残るものの、身体つきは尊よりはるかにガッチリとしていた。陰陽師としての腕はそこそこで、これから将来を期待されている若手である。
そして、その翌日。
弓削勝一は今日もお使いをしていた。
普通なら嫌がるところだが、今日のこれは、実は嬉しかったりする。
東山にある寂れた屋敷。陰陽頭や先輩陰陽師の加茂親彬に留まらず、帝や上皇からも一目置かれる大先輩の陰陽師が住んでいる。そのお方に『これ』を届けて欲しいと頼まれたのだ。
頼んだのは賀茂親彬。これから行かなければならない所が出来た。今日『これ』を持って行くと約束していたので、代わりに持って行って欲しいと。『これ』は風呂敷に包まれた少し重さのある物だった。
大事に抱え、緊張しながら屋敷に入る。連絡が入っていたようで、笑顔で迎えられようやく緊張を少しだけ解いた。
「ようおいでなさった。ほら、上がりなさい。ああ、良い良い。そんなに畏まらずとも、取って食いやしないからのぉ、ふぉっふぉっ」
「は、はぁ…、あ、ありがとうございます」
ますます畏る勝一は『これ』を渡した。すると、一緒に食べようと云われて白湯を勧められた。そこでようやく、『これ』がこの翁の好物であるらしい菓子であることがわかった。菓子か…と思ったが、ダメにするのはもったいない。作ったのなら今日のうちに届けなければならなかったのも頷ける、と一人納得した勝一であった。
例え何であっても文句はない。同じ陰陽生の友が羨ましそうにしていたのは知っている。明日、どんなだったかと質問攻めにあうだろう。
勝一が屋敷に入った途端、翁はこの屋敷全体に結界を張った。何物も寄せ付けない結界を。
それから、面白おかしい翁の話に勝一が相槌を打ち、勝一の笛と翁の琵琶の合奏を楽しんだ。何や彼やと楽しい時間は過ぎて行く。いくらなんでも、もうそろそろ帰らなければと勝一が思ったのは亥一つであった。慌てていると、もう帰るのか?とのんびり云われ、恐縮しながら家路に着いた。
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
【完結】嘘はBLの始まり
紫紺
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。
突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった!
衝撃のBLドラマと現実が同時進行!
俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡
※番外編を追加しました!(1/3)
4話追加しますのでよろしくお願いします。

俺の好きな男は、幸せを運ぶ天使でした
たっこ
BL
【加筆修正済】
7話完結の短編です。
中学からの親友で、半年だけ恋人だった琢磨。
二度と合わないつもりで別れたのに、突然六年ぶりに会いに来た。
「優、迎えに来たぞ」
でも俺は、お前の手を取ることは出来ないんだ。絶対に。
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)
僕たち、結婚することになりました
リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった!
後輩はモテモテな25歳。
俺は37歳。
笑えるBL。ラブコメディ💛
fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。
思い出して欲しい二人
春色悠
BL
喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。
そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。
一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。
そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる