逢魔刻に氷菓を手折り

茉莉花 香乃

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朝朗

03

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「親が囮になったって、一緒でしょ?それなら僕が…」
「一緒じゃないだろ?尊が襲われたら!」
「僕が襲われる?」
「そうだよ!」
「僕は…」

尊は別に構わないと思った。操を立てなければならない恋人はいない。親彬の事は好きだけど、どう頑張っても親彬の恋人にはなれないだろうと思うと、どうでも良かった。

別に、投げやりになっているわけではない。襲われたって、死ぬわけじゃない。被害者三人にも会ったけれど、身体に不調がある人はいなかった。まだ健康な心を取り戻してはいなかったけれど、時間が解決するだろう。
もう彼女ができないと思うと残念な気もするけれど、親彬を好きになった時点でノーマルな恋愛はできないかもしれない。

かと云って、おとなしく襲われるつもりはない。失敗してしまったらその時は…と云うことだ。

「僕はこちらには知り合いもいないし、もし、襲われてしまっても、誰も悲しまないよ。だから、僕…」
「ダメだ!俺が、嫌だ!」
「親?どうして?」

(そんな独占欲のようなものを見せないでよ…残酷だよ、親)

「例え誰であろうと、相手が妖怪だろうと、尊には指一本触れさせない。尊、好きだ。だから、な?そんな危ないことしないでくれ」
「えっ?今、何て云っ、た、の?」

尊の目からは涙が溢れた。それを見て、親彬はオロオロする。

「どうして、泣くんだ?た、尊?」
「うぅ…ち、親…、親が…」
「俺?俺がどうした?俺なんか云ったか?」
「うぅ……っ…うん、んっ」
「尊?尊、落ち着けって」
「う、うん…も、一回、親、もう一回、云って?」
「な、何を?」
「好きって、好きって云った!」
「お、おう」
「うぅ…ち、違うの?…やっぱり…そ、だよね…」

更に涙を流し、顔を真っ赤にして首を振る。好きの種類は様々だ。もし、今の言葉が聞き間違いでなくても、親愛の情かもしれない。少し浮いた気分も、急下降する。

「違うって、いや、違わない!ああっ、もう!好きだ!尊、尊の事が好きなんだ」

雰囲気も何もない、愛の告白。今までの親彬なら、褥の中で耳元に囁く、微かな吐息交じりの睦言だった。それが、本気の気持ちはこんなに大きな声で、まるで怒鳴るような、愛の告白。百メートル先でも聞こえるような大きな声に、尊の動きが止まる。

「ホ、ホント?」
「ああ、尊、好きだよ」
「そ、それって…」
「愛してる…尊」
「ぼ、僕も!僕も親が好き!」
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