上 下
63 / 89
蒼穹

12

しおりを挟む
「何かあるのか?もっと西の、右京の方ならわからんでもないが、あそこは貴族が多く住んでいるんだそ?」
「そうだよね…。でも、二人とも確かにそこを通ってたよね?」
「んー、もう一度確かめるか?」
「うん」

調書を出して確認する。やはりそう書いてある。親彬が書いた簡易地図に辿った足取りも、やはりそれ以上の情報は得られない。それは前日と当日の行動を聞いただけのことで、聞いている間は疑問にも思わなかった。どの通りを通って、どこそこの屋敷に向かった。そんな記録。辿った通りではなく、どちらかと云えばどこに行ったかが重要であると思っていたくらいだ。

たまたま雅季の屋敷のある通りを通り過ぎただけ。しかし、本当に通り過ぎただけなのだろうか?

昨日も通ったけれど、特別おかしなことはなかった。きっと尊以外は気付いていない。一緒に回った親彬が疑問に思わなかったこともそうだし、雅季は毎日その屋敷に帰っているのだ。当然五条大路は毎日通る。それなのに何も感じないと云うことは気付いていないのだ。

他に手がかりはない。不思議に思うことは解決しておきたかった。別室で調べ物をしている雅季の元に親彬と一緒に行った。雅季は二人が入ってきたことに気付き、筆を置いた。

「何か手がかりでも見つけたのかね?」

今日も美貌の式神は雅季の後ろに控えている。いつもの親彬と尊の式神とは大違いの落ち着きだ。

「えっと、まだ…。あの、一つお聞きしたいことがあります」
「何だね?」

どう云えば良いか、悩む。しかし、いくら貴族社会が狭いとは云え、ただの偶然と無視することはできない。
それに、…あの気配。

「あの…、えっと…」
「尊、わたしを抱く気に…」
「真面目な話です」
「うぉっほん…、すまない…」
「今回、被害にあった三人と安倍さまはお知り合いですよね?」
「何だね?わたしが疑われているのかな?いくらわたしが男色家だとしても…」
「勿論、疑っているわけじゃないです。これは妖怪の仕業。安倍さまが妖怪であるわけない。そんなことは、陰陽寮にいる誰もが疑う余地のないことです」
「いや、すまない。そうだね…」

雅季は咳払いを一つして、気持ちを切り替えた。誰も雅季を疑うなんてことはないと、雅季自身がよくわかっていた。しかし、遅々として進まない捜査にいささかの焦りがあった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした

なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。 「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」 高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。 そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに… その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。 ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。 かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで… ハッピーエンドです。 R18の場面には※をつけます。

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

俺をおもちゃにするなって!

丹砂 (あかさ)
BL
オレはチートクラスの大魔法使い! ……の弟子。 天は二物を与えずとは言うけど、才能と一緒にモラルを授かり損ねた師匠に振り回されて、毎日散々な目に遭わされている。 そんな師匠の最近のお気に入りは、性的玩具(玩具と言いつつ、もうそれ玩具の域じゃないよね!?)を開発する事、っていう才能のムダ使いだ。 オレ専用に開発されたそんな道具の実験から必死に逃げつつ捕まりつつ、お仕置きされつつ立ち直りつつ。いつか逃げ出してやる!と密かに企みながら必死に今日を暮らしている。 そんな毎日をちょっと抜粋した異世界BLのお話です。 ******************* 人格破綻系のチート × ちょろい苦労人 誰得?と思うぐらい特殊嗜好の塊です。 メインはエロでスパイス程度にストーリー(?)、いやそれよりも少ないかもしれません。 軽いノリで書いてるので、中身もいつもよりアホっぽいです。ぜひお気軽にお読み下さい。 ※一旦完結にしました。 ******************* S彼/SM/玩具/カテーテル/調教/言葉責め/尿道責め/膀胱責め/小スカ なおこちらは、上記傾向やプレイが含まれます。 ご注意をお願いします。

何故か正妻になった男の僕。

selen
BL
『側妻になった男の僕。』の続きです(⌒▽⌒) blさいこう✩.*˚主従らぶさいこう✩.*˚✩.*˚

少年売買契約

眠りん
BL
 殺人現場を目撃した事により、誘拐されて闇市場で売られてしまった少年。  闇オークションで買われた先で「お前は道具だ」と言われてから自我をなくし、道具なのだと自分に言い聞かせた。  性の道具となり、人としての尊厳を奪われた少年に救いの手を差し伸べるのは──。 表紙:右京 梓様 ※胸糞要素がありますがハッピーエンドです。

処理中です...