59 / 89
蒼穹
08
しおりを挟む
(それは初耳だ。手紙にも書かれていなかった。お父さんもそんなことは云ってなかった。知っていたならこちらに来るのに、あんなに心配することもなかっただろうな…。これにも何か理由があるのだろうか?……いつでも帰れると思うと準備が疎かになるし、覚悟もクソもない。だから、書いてなかったのかな?)
「あの杉の若木、あっただろ?」
「うん」
「御神木と聞いて納得がいった。あれが尊の世界と俺の世界を繋ぐものだ」
尊は仁に引き取られてから、何度となくあの御神木に凭れて時間を過ごした。引き取られた直後だけではなく、中学生になっても高校生になってもあそこは尊を癒す力でもあるかのように落ち着いた。
寂しい気持ちを包み込み、焦った心を穏やかにした。ただ身体を預け、目を瞑るだけ。それだけで力を与えられた。尊が笛を吹くとそれに応えるように枝を揺らし、うとうととうたた寝すると見守るように空気が暖かくなる。尊にとって本当に居心地の良い場所だった。
「明日、行ってみて良い?」
「なっ!許さない!…帰らないだろ?」
「えっ?」
親彬のあまりの慌てように若干引きながら頷く。
「えっと、〈氷の君〉を退治するまでは絶対帰らない……って云うか、どうしたら良いかわからないから。…お爺ちゃんに聞いたらわかるの?」
「どうして翁なんだよ?」
何故か怒っている親彬を、今日はコロコロと表情をよく変えるなと思いながら見た。いつもは冷静沈着で、あんなことやこんなことをした時だって、動揺することなくスマートだった。
「だって、お爺ちゃんが僕を呼んでくれたんでしょう?」
「違う!翁は尊の事を予言しただけだ。俺が、…俺が尊を呼んだから、俺が許さなかったら尊は帰れない。…尊、帰りたいのか?」
「だから、終わるまでは帰らないよ?」
「そうか…」
「でも、良かった」
「な、何が?」
「親が僕を呼んでくれたのが嬉しくって。へへっ」
召喚者が翁ではなく親彬だった事実は、尊を安心させた。この屋敷に住まう理由が得られたような気がした。それ以上に親彬と自分を繋ぐ何かがあったことが嬉しく、例えあの触れ合いが仕事だったとしても、それだけではないのだと思えた。顔を覆い、何かに堪えるようにふるふると腕を揺らしていた親彬がグッと顔を上げた。
「今直ぐは無理だが、近いうちに必ず連れてってやる」
「本当?」
「ああ」
「嬉しい。親、ありがと!」
「あの杉の若木、あっただろ?」
「うん」
「御神木と聞いて納得がいった。あれが尊の世界と俺の世界を繋ぐものだ」
尊は仁に引き取られてから、何度となくあの御神木に凭れて時間を過ごした。引き取られた直後だけではなく、中学生になっても高校生になってもあそこは尊を癒す力でもあるかのように落ち着いた。
寂しい気持ちを包み込み、焦った心を穏やかにした。ただ身体を預け、目を瞑るだけ。それだけで力を与えられた。尊が笛を吹くとそれに応えるように枝を揺らし、うとうととうたた寝すると見守るように空気が暖かくなる。尊にとって本当に居心地の良い場所だった。
「明日、行ってみて良い?」
「なっ!許さない!…帰らないだろ?」
「えっ?」
親彬のあまりの慌てように若干引きながら頷く。
「えっと、〈氷の君〉を退治するまでは絶対帰らない……って云うか、どうしたら良いかわからないから。…お爺ちゃんに聞いたらわかるの?」
「どうして翁なんだよ?」
何故か怒っている親彬を、今日はコロコロと表情をよく変えるなと思いながら見た。いつもは冷静沈着で、あんなことやこんなことをした時だって、動揺することなくスマートだった。
「だって、お爺ちゃんが僕を呼んでくれたんでしょう?」
「違う!翁は尊の事を予言しただけだ。俺が、…俺が尊を呼んだから、俺が許さなかったら尊は帰れない。…尊、帰りたいのか?」
「だから、終わるまでは帰らないよ?」
「そうか…」
「でも、良かった」
「な、何が?」
「親が僕を呼んでくれたのが嬉しくって。へへっ」
召喚者が翁ではなく親彬だった事実は、尊を安心させた。この屋敷に住まう理由が得られたような気がした。それ以上に親彬と自分を繋ぐ何かがあったことが嬉しく、例えあの触れ合いが仕事だったとしても、それだけではないのだと思えた。顔を覆い、何かに堪えるようにふるふると腕を揺らしていた親彬がグッと顔を上げた。
「今直ぐは無理だが、近いうちに必ず連れてってやる」
「本当?」
「ああ」
「嬉しい。親、ありがと!」
0
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした
なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。
「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」
高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。
そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに…
その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。
ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。
かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで…
ハッピーエンドです。
R18の場面には※をつけます。
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)
フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
少年売買契約
眠りん
BL
殺人現場を目撃した事により、誘拐されて闇市場で売られてしまった少年。
闇オークションで買われた先で「お前は道具だ」と言われてから自我をなくし、道具なのだと自分に言い聞かせた。
性の道具となり、人としての尊厳を奪われた少年に救いの手を差し伸べるのは──。
表紙:右京 梓様
※胸糞要素がありますがハッピーエンドです。
平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる