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蒼穹

08

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(それは初耳だ。手紙にも書かれていなかった。お父さんもそんなことは云ってなかった。知っていたならこちらに来るのに、あんなに心配することもなかっただろうな…。これにも何か理由があるのだろうか?……いつでも帰れると思うと準備が疎かになるし、覚悟もクソもない。だから、書いてなかったのかな?)

「あの杉の若木、あっただろ?」
「うん」
「御神木と聞いて納得がいった。あれが尊の世界と俺の世界を繋ぐものだ」

尊は仁に引き取られてから、何度となくあの御神木に凭れて時間を過ごした。引き取られた直後だけではなく、中学生になっても高校生になってもあそこ御神木は尊を癒す力でもあるかのように落ち着いた。

寂しい気持ちを包み込み、焦った心を穏やかにした。ただ身体を預け、目を瞑るだけ。それだけで力を与えられた。尊が笛を吹くとそれに応えるように枝を揺らし、うとうととうたた寝すると見守るように空気が暖かくなる。尊にとって本当に居心地の良い場所だった。

「明日、行ってみて良い?」
「なっ!許さない!…帰らないだろ?」
「えっ?」

親彬のあまりの慌てように若干引きながら頷く。

「えっと、〈氷の君〉を退治するまでは絶対帰らない……って云うか、どうしたら良いかわからないから。…お爺ちゃんに聞いたらわかるの?」
「どうして翁なんだよ?」

何故か怒っている親彬を、今日はコロコロと表情をよく変えるなと思いながら見た。いつもは冷静沈着で、あんなことやこんなことをした時だって、動揺することなくスマートだった。

「だって、お爺ちゃんが僕を呼んでくれたんでしょう?」
「違う!翁は尊の事を予言しただけだ。俺が、…俺が尊を呼んだから、俺が許さなかったら尊は帰れない。…尊、帰りたいのか?」
「だから、終わるまでは帰らないよ?」
「そうか…」
「でも、良かった」
「な、何が?」
「親が僕を呼んでくれたのが嬉しくって。へへっ」

召喚者が翁ではなく親彬だった事実は、尊を安心させた。この屋敷に住まう理由が得られたような気がした。それ以上に親彬と自分を繋ぐ何かがあったことが嬉しく、例えあの触れ合いが仕事だったとしても、それだけではないのだと思えた。顔を覆い、何かに堪えるようにふるふると腕を揺らしていた親彬がグッと顔を上げた。

「今直ぐは無理だが、近いうちに必ず連れてってやる」
「本当?」
「ああ」
「嬉しい。親、ありがと!」
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