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蒼穹
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あれから、尊にどのように迫れば良いか、親彬は思案していた。
今までなら、駆け引きは会うまでに済んでいる。女の所に行って、スルことは一つ。それが目的で行くし、相手もそうだ。遊び相手は何人もいたけれど、特定の恋人を作ったことはない。
夜に部屋を覗けば、無邪気な笑顔で招き入れてくれる。無防備な未来の着物に親彬の単衣を肩にかけ、親彬にとってはまるで恋人に迎えられた気分だが、尊にそのつもりはない。
こちらが下心満載で行っても邪気のない笑顔を見せられては、毒気を抜かれてしまう。こんなことは初めてだ。何か用事でもあるのかと聞かれれば、なんと答えれば良いか戸惑うばかりだ。抱きに来たと素直に云えれば悩まないが、呆れられるかもしれないと大いに悩む。
嫌われたくはない。
エロ上司に渡された陶器の小瓶は、まだ中身が入っている。懐に潜ませたそれを意識してしまう。女のようにあっさり切りたくはない。例え、仕事に関係なくても嫌なのだ。離したくない。こんなことを思ったのは初めてだ。
(『あの時は仕方なく抱かれたんだ!不本意だった!』何て云われたら、立ち直れないしな…。俺だけ盛り上がってたら、みっともないだろ。俺は、まあ、そりゃ、不本意ではあったけど、尊ならと思ったのは事実だ。尊もそう思ってくれているのか?聞いてみるか?『もう二度と御免だ』なんて云われたらどうすりゃいい?文でも出すか?いや、何を書く?毎日会っているし、今も目の前にいる。歌でも詠むかな…。あの時、後朝の歌を送らなかったのがいけなかったのか?尊は歌の意味が難しいと云っていたしな…)
やはり、押し倒してしまおうか?と思い悩み、いやいや、ダメだろと理性が親彬の暴挙を押しとどめた。
ただ一言『好きだ』と云えば良いとは、思い至らない親彬であった。自分がこんなに恋愛に疎いとは思っていなかった。いつもは恋愛してなかったんだなと、愕然とした。
「あの人に相談するかな」
「えっ?何か云った?」
「いや、何も。それより尊は何か困ってるんだろ?安成殿の屋敷から帰ってから、様子が違うようだ」
「うん。でも、大丈夫」
「なんだよ。頼ってくれるんだろう?」
「ううん、ただちょっと、ホームシック…えっと、実家が恋し…違うな、元の世界が恋しいって感じ?」
「そうか…帰りたいか?」
「ううん…違うんだ。帰りたいとかじゃなくって、帰れないか…」
「この件が片付いたら、一度戻るか?」
「だから、帰れな…い…?えっ、えっ?」
「今は無理だが〈氷の君〉を退治できたら、帰るか?」
「帰れるの?」
「えっ?知らなかったのか?」
「うん……じゃあ、僕はこの一件が終われば、…ははっ、なんだ…そうか…」
親彬は自嘲気味に笑う尊を抱きしめた。
(帰したくない)
「何日か帰るだけで、再びこちらに来てくれるんだろう?」
「えっ?行き来できるってこと?」
今までなら、駆け引きは会うまでに済んでいる。女の所に行って、スルことは一つ。それが目的で行くし、相手もそうだ。遊び相手は何人もいたけれど、特定の恋人を作ったことはない。
夜に部屋を覗けば、無邪気な笑顔で招き入れてくれる。無防備な未来の着物に親彬の単衣を肩にかけ、親彬にとってはまるで恋人に迎えられた気分だが、尊にそのつもりはない。
こちらが下心満載で行っても邪気のない笑顔を見せられては、毒気を抜かれてしまう。こんなことは初めてだ。何か用事でもあるのかと聞かれれば、なんと答えれば良いか戸惑うばかりだ。抱きに来たと素直に云えれば悩まないが、呆れられるかもしれないと大いに悩む。
嫌われたくはない。
エロ上司に渡された陶器の小瓶は、まだ中身が入っている。懐に潜ませたそれを意識してしまう。女のようにあっさり切りたくはない。例え、仕事に関係なくても嫌なのだ。離したくない。こんなことを思ったのは初めてだ。
(『あの時は仕方なく抱かれたんだ!不本意だった!』何て云われたら、立ち直れないしな…。俺だけ盛り上がってたら、みっともないだろ。俺は、まあ、そりゃ、不本意ではあったけど、尊ならと思ったのは事実だ。尊もそう思ってくれているのか?聞いてみるか?『もう二度と御免だ』なんて云われたらどうすりゃいい?文でも出すか?いや、何を書く?毎日会っているし、今も目の前にいる。歌でも詠むかな…。あの時、後朝の歌を送らなかったのがいけなかったのか?尊は歌の意味が難しいと云っていたしな…)
やはり、押し倒してしまおうか?と思い悩み、いやいや、ダメだろと理性が親彬の暴挙を押しとどめた。
ただ一言『好きだ』と云えば良いとは、思い至らない親彬であった。自分がこんなに恋愛に疎いとは思っていなかった。いつもは恋愛してなかったんだなと、愕然とした。
「あの人に相談するかな」
「えっ?何か云った?」
「いや、何も。それより尊は何か困ってるんだろ?安成殿の屋敷から帰ってから、様子が違うようだ」
「うん。でも、大丈夫」
「なんだよ。頼ってくれるんだろう?」
「ううん、ただちょっと、ホームシック…えっと、実家が恋し…違うな、元の世界が恋しいって感じ?」
「そうか…帰りたいか?」
「ううん…違うんだ。帰りたいとかじゃなくって、帰れないか…」
「この件が片付いたら、一度戻るか?」
「だから、帰れな…い…?えっ、えっ?」
「今は無理だが〈氷の君〉を退治できたら、帰るか?」
「帰れるの?」
「えっ?知らなかったのか?」
「うん……じゃあ、僕はこの一件が終われば、…ははっ、なんだ…そうか…」
親彬は自嘲気味に笑う尊を抱きしめた。
(帰したくない)
「何日か帰るだけで、再びこちらに来てくれるんだろう?」
「えっ?行き来できるってこと?」
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