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蒼穹

04

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ここはみなもとの冬助ふゆすけの屋敷。

安倍雅季と賀茂親彬、賀茂たけるの三人は事情聴取へとやって来た。

冬助を見た途端、雅季が「うっ…」と云ったが、エロ上司の言動をいちいち気にしてはいられない。それは親彬と尊にも理由がわかったからだ。

親彬は島田しまだの実視さねみも見ているが、それより華奢な冬助は、さらに憂いを帯びていた。男を誘う妖艶さ。物憂げに漏らす吐息に悩ましい雰囲気がある…と思うのは男を知ったからか、そうでないのかはわからない。

「話を聞かせてくれるかな?」

雅季が声を掛けるとビクッと身体を震わせ俯いていた顔を上げた。冬助の父君が息子と三人の陰陽師を心配気に見ている。変わってしまった息子が不憫でたまらないのだ。宮中での噂もさることながら、塞ぎ込む様子が悲壮でどうにかしてやりたかった。

「冬助」
「はい…」

父君に促され渋々と云った感じで返事をした。

「何を話せば良いのでしょうか?」
「そうだね…。当日…いや、前日からのことを話してもらおうか」
「はい」

被害に遭う前日も、普段と何ら変わらない一日だった。当然当日だって、あんなことがなければ日常に溶け込み、忘れ去られる一日だったに違いないが。

いつものように仕事へ行き、帰ってからは母方の叔母が暮らしている五条万理小路の屋敷へ届け物を持って行った。久しぶりに顔を出したので、なかなか帰ることができなかった。叔母は喜んでくれたが、とりの刻にはいとまを伝え屋敷に帰った。
被害当日も同じように仕事に出かけた。話したいことがあったため、いつもより少し早めに例の女の屋敷に行っただけだった。

「特に何もなかったんですよ」

冬助は物憂気にため息を吐く。雅季がゴクリと唾を飲み込んだ。

尊は冬助の残留思念を盗み見る。ぼんやりと映る男がいる。顔がはっきりとしない。これは冬助がこの男の顔をこんなふうにしか見なかった、いや、見られなかったと云うことなのだろう。

恐らくこのぼんやりとした男が〈氷の君〉だ。冬助からはこの妖怪に対する嫌悪や恨み、憤りは感じられない。実視も恨みなどはなかったそうだが、対面ではかなり取り乱したと聞いた。しかし、冬助にそんな様子はなく、淡々と三人の質問に応えた。
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