逢魔刻に氷菓を手折り

茉莉花 香乃

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蒼穹

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翌日の陰陽寮。
昨日に増して参内するのが億劫になる。同じようにセクハラ上司に迎えられ、なんとも云えない恥ずかしさが襲う。陰陽寮には他にも陰陽師や陰陽生が何人もいる。その人たちにも今回のことが知られやしないかとヒヤヒヤなのだ。

たけるの常識的には、そんなことは人様に言うことじゃない。派手なクラスメイトは童貞喪失の早さを競っていて、尊も自慢したい!と思ったが、今回のこれはちょっと違う。童貞ではなく処女喪失。尊はどっちもだったが。

「ほぉ…」

安倍あべの雅季まさきが見たのは賀茂かもの親彬ちかあきらだった。親彬は嫌そうだったが、『〈氷の君〉には絶対に襲われない』と妙にはっきりとお墨付きをもらい、複雑な顔をしていた。

そして、今日も強烈なセクハラを一つ。

「わたしも尊に抱いてもらおうかな…」

全力でお断りしたけれど、どう云うことなのだろうか?あれほど、歳だからと云っていたのに。

(あれをこのセクハラ上司と…)

尊は脳内に昨夜のあれこれを思い浮かべる。真っ赤な顔になりながら、ブンブンと首を振った。

(抱かれるなんて、考えなくても嫌だけど、抱くのも嫌。素肌を晒すのも、触るのも、触られるのも、絶対に嫌。それに…キスは好きな人としかしたくない)

例え親彬が仕事だと思っていても、尊の気持ちは尊だけのものだ。

「それより…」
「何だね?親彬」
「尊の事を聞きたいと思って。力はある。それも、俺たちの知らない、不思議な力。まるでこちらに来ることがわかっていたかのような言動。昨日…その…尊に抱かれて、思ったんです。昨日までと違うと」
「ほぉ、やはり、親彬も感じるか?」
「…はい。こっちに来てから今までは、バタバタとしてゆっくり話を聞くどころじゃなかったから。挨拶回りと、ほら、あんなこともあったし…、慣れないことばかりで疲れてるだろうけど…、そろそろ、良いかな?今後の対策もそれによって考えなくちゃならないし」
「はい。…えっと、何を話せば良いんだろ?」

尊は考えを巡らし、口を開いた。

「じゃあ、僕の住んでた時代の話からしますね?」

日常生活で、陰陽師が活躍する場面がないことから話は始まった。技術の進歩が著しく、この時代の生活とは随分違う。詳しく話しても理解が難しいと思い、大雑把な云い方になるけれど、平安時代と比べると、凄くせわしないと云うことはわかってもらえた。
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