逢魔刻に氷菓を手折り

茉莉花 香乃

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黎明

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翁の所から親彬の屋敷に戻り、翌日のこと。

まずは大内裏に参内して、陰陽頭おんようのかみに挨拶した。安倍あべの雅季まさきと名乗った男は、仁よりも年上で、ニヤリと笑った顔は男臭い。でも、背中にゾゾっと悪寒が走った。あまり近寄ってはならない!本能が叫んだ。

二人に大内裏の中を案内してもらった。塀と建物がどこまででも続いているように感じ、迷子になりそうだ。その後、清涼殿にて帝に拝謁する。親彬は内裏に入る前に止まっていた。急に不安になったが、一緒に来てとわがままが云える雰囲気ではない。

それから、凝華舎ぎょうかしゃにゾロゾロと渡る。何が何だかわからない。帝は少し不機嫌そうだし、渡殿を歩くだけで、十二単の女の人がわさわさ溢れるし、それこそ映画のセットのような豪華さで目眩がする。飛香舎ひぎょうしゃを通り、キョロキョロしながら進む。凝華舎の一室に帝と先導していた女房の三人だけが入る。中にいた女房たちがささっと几帳を移動して、外からの視線を完全に遮断すると、上座から綺麗な女の人が下りてきた。

「梅壺と申します。主上に無理を云って、こちらに来てもらいました」

コロコロと鈴が転がるような可愛い声で無邪気に笑う女御にょうごさま。後から聞いた話では、女御さま(他の姫さまもであるが)のお声とご尊顔を拝謁できたのは異例のことらしい。手まで握られた。

どうやら、僕より二つ上の十八歳。同級生の女子と二つ違いとは思えない。何と云うか…艶がある?さすが人妻。お子様もいらっしゃる。東宮のご母堂さま。正真正銘、この国の女性のトップだ。

早々に凝華舎を退出して、二条堀川邸に行く。ここには上皇さまと土御門の宮が待っていてくれた。

親彬の屋敷が豪華だと思ったけれど、桁が違う。それなのに『狭い所で申し訳ない』と云われ、恐縮した。しかし、先ほどの内裏と比べれば、然もありなん。少し前に退位されたと聞いた。まだこちらに慣れておられないのだろう。力を込めて云いたい。

『十分大きな屋敷です。上皇さま!』
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