逢魔刻に氷菓を手折り

茉莉花 香乃

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黎明

06

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「取り敢えず、俺の屋敷に行こうか?」
「えっと、よろしくお願いします」

(ここで放り出されたら、僕、死ぬ!こっちに連れてくるだけ連れてきて、放置とかないからね!)

縋るように見たら、笑われた。そしてまた、頬を染める。

「本来なら、主上や上皇さま、太政大臣さまに会ってもらうとこなんだけど、今、新年の行事で忙しいからさ。それと、そのカッコ…未来の服、着替える?」
「やっぱり、マズイですか?」
「流石に目立つよ」
「そうですか…。では、お願いします」

勿論、狩衣を着ることも考えた。でも、普段着でこっちに来ることを選んだ。せめて自分らしく。運命に流されるだけじゃなく、少しだけの悪足掻き。

「それに、もとどりを結って、冠、被ろうか。見ているこっちが恥ずかしい」
「はい?」

髪は肩より少し長めに伸ばしていた。後ろで一つにまとめている。男子に揶揄われても、女子に間違えられても、髻を結えないとダメだと書いてあったから。それはあの神社に引き取られた時からずっと変わらない。髪を洗ったり乾かすのが邪魔臭いだけで、そこまで困ったこともなかった。
女子に間違われる以外は。

それよりも、見ていて恥ずかしい?自分の容姿にどこかおかしなところがあるのだろうか?仁にも福田くんや学校の同級生にも云われたことはなかった。男子の平均以下の小さな身体。いくら鍛えても筋肉のつかない華奢な身体。

(ううっ…。こればっかりはいくら努力してもどうしようもないって。でも、細マッチョってことだよね!)

やわやわ、ぷにぷにの柔らかいだけの身体ではないと思ってる。誰かに確かめたことはないけれど。顔や腕、髪を撫でる。首をかしげると、イケメンが苦笑いした。鏡で見た方が良いのだろうか?ここで荷物を開いてもダメなような気がして、尊は思いとどまった。よくわからないまま、頷いて従うことにした。

「俺にも敬語はいらないよ」
「でも…」
「じゃあ、俺も尊殿って呼ぼうかな?」
「やっ、それは、嫌だな…」
「じゃあ、よろしく」
「わかり…わかった。よろしく、ちっ、ちか、親彬くん!」

(噛んだ。思いっきり、噛んだ!だから!言いにくいんだって!)
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