逢魔刻に氷菓を手折り

黎明

03

さて、どちらにこの札を渡すか？

翠みどりと梔子くちなしは論外だ。翠は落ち着きがなく、梔子は甘えん坊。式神としては個性が出過ぎていて、失敗だ。
蒼あお…朱あか…蒼…朱…しばらく悩み、親彬は二体を呼び出した。

「朱、これを、頼む」

詳しいことを云わずとも、全てを理解している。

「では。平成へ行って参ります」
「よろしく頼む」





ーーーーー平成

尊たけるの誕生日前日の深夜二十三時。

準備は万端。リュックに詰めるだけのものを詰め、御神木の前に座る。

新月の今日は暗く、ランタンの灯りがないと歩くことも難しい。しかし、星たちは煌めいていてとても綺麗だ。先程から御神木が呼吸しているのかと思うほど、ドックンドックンと脈打つのがわかる。

仁ひとしが心配そうに隣に立つ。わかっていたことだ。そのために、ここに引き取り、育てた。だが、寂しく思うのは仕方のないことだ。心配と寂寥。一緒に付いて行けないことが、もどかしい。

お互い、既に別れの言葉は云い尽くした。それこそ後一年となった去年の誕生日くらいから。二人の目標が決まっているから、そこに、湿っぽさはなかった。

しかし、一ヶ月を切り、一週間を切るとやはり別れ難く思って、辛くなる。

「そんなに心配しないで、お父さん」
「ああ、そうだな」
「それより、お父さんの方が気になるよ」
「わたし？わたしの事は何も心配しなくても良いよ」
「本当？」

旅立つ者は不安もあるが、これからのことを思い希望もある。しかし、残された者は……、その思いだけが残る。連絡の取れない『過去』に行くのだ。尊は最近白髪が混じり始めた養父の顔を見た。

今からもう一度別れの言葉を云うつもりはない。六年を思い出しながら、それを口にした。ポツリポツリと二人で過ごした時間を振り返る。中でも初めてリンを紹介したことや福ちゃんを使役できたことは、尊にとって一番の思い出だ。
玉木くんの家族と一緒にキャンプに行ったり、祇園祭や五山の送り火を見に行った。笛や乗馬はいつしか仁も一緒に習うようになり、ライバルのように研鑽した。

どれもこれも楽しいことばかりだった。