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幻妖
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新天皇は陰陽寮に〈氷の君〉の退治を命じた。
陰陽頭、安倍雅季はまだ若い加茂親彬に、腕試しだと言いくるめてこの怪異の調査を任せた。
親彬は陰陽師に成り立てで、まだ経験は浅い。だが、その力は陰陽師の中でも一、二を争うほどだった。
噂を頼りに聞き込みを開始した。しかし、都で被害が出ていることは確かだが、誰が被害者かわからないので途方にくれる。そこで、雅季は被害がわかっている男の、その主人である太政大臣藤原兼道に聞くことにした。
雅季にとって、兼道とは昔から恋のライバルとして牽制しあい、表には出ない付き合いをしてきた。お互いが恋愛対象にはならないが、兼道からしてみれば、雅季は恋人を寝取られたこともある忌々しい男である。
「やあ」
そんな恋のライバルに声をかけると、宮中で帝に次ぐ権力を持っている男は目を眇めて睨みつける。
「そんな怖い顔をなさらずとも…」
「いや、昔の忌々しい記憶が、な」
「おや、未だに夏丸に執着しておいでで?」
扇で口元を隠し、耳元で囁くと苦虫を噛み潰したような表情を一瞬したが、それは権力者の威厳がある兼道である。直ぐにいつものポーカーフェイスを見せて、余裕ありげな顔をする。ちょっとやそっとのことでは、弱みを見せない。
「そんな昔のことを」
「おや、おや、やせ我慢を」
「それより、高雄とは疎遠になられたようで」
「なっ!」
「寂しがっていたよ、可哀想に。わたしが慰めてあげた…」
「そのような!どうして、兼道殿に…」
「何を無粋な…睦言は褥の中で聞くものでしょう?」
高雄は嫉妬深くて、少し距離をおいていた恋人である。ただ、身体の相性が良いのか、離れがたい。だから、忘れることはなく会っていた筈だった。だがしかし、〈氷の君〉に気を取られ、高雄の事を忘れていたのは事実である。でも!よりにもよってこの男に取られるなんて腹立たしい。
雅季は女には興味はなく結婚はしていないし、子もいない。それに引き換え兼道は両刀使い。立派な息子や多くの姫がいる。そのうちの一人は女御にまでなった。権力も思いのままに、最高位まで上り詰めて他に欲しい物などないだろう。
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「そのような!どうして、兼道殿に…」
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