15 / 89
幻妖
02
しおりを挟む
数年前から噂はあった。太宰府あたりのことで、京の都には関係ないと面白おかしく尾ひれがついたのだろう。
怪しいまでに整った顔立ち。六尺は優に超える背丈。脱いだところを見たものがいるのか逞しい身体つきだと聞いた。女房(侍女)は現実味がない分、興味津々だ。
なにせ被害にあうのは男ばかり。中には女が、わたしも抱かれたと自慢するらしいがその信憑性はない。
〈氷の君〉
言葉を発せず、触れる手は夏でも氷のように冷たい。それはその妖怪に付いた名だった。
(だいたい、男が男を抱く?そんなのは主人だけにして欲しい)
実視の主人は北の方の他に、男の恋人がいるのだ。
実視は眉根を寄せ、〈氷の君〉の話を聞いていた。
だかしかし、遠い太宰府の話では噂は単なる噂である。人伝に、人伝に伝わるうちに話は膨らむのであろう。男を抱く壮絶に美しい妖怪。
実際誰が被害にあったのかわからない。名乗り出る者はいなかった。男の沽券にかかわるのか、家の恥と家人が声をひそめるのか。はたまた、噂は噂で、実際そんなことはないのか?
それでも実しやかに囁かれる噂は消えることはなかった。
恐ろしいことに、徐々にその噂が東に進み都に近付いていると云う。
そして、その話には続きがある。
〈氷の君〉に抱かれた男は女を抱けなくなると云う。女を見ても、性的に興奮しない。例え皇女さまが褥に入ってきても、だ。
実視は〈氷の君〉に恋をした。
顔が見えず、声も聞いていないのに恋をした。いや、恋をしたような錯覚を覚えた。
(もっと奥まで…。ああっ、そこをぐりぐりしてくれ…。もっと、もっと……)
せめてもの救いは声に出さずに願ったこと。羞恥に頬を染め、身を捩る。こんなに狂おしいまでに求めたことがあっただろうか?
「ああっ…んっ、やっ」
『嫌なのか?』
「ぃゃっ、…ゃ、じゃない…もっと、シテくれ…」
『わかった。そなたの願い叶えてやろう』
何を口走っているのか最早わからなかった。
ただ、この快楽に溺れたい。〈氷の君〉に身体の隅々まで愛されたい。
明け方、従者が実視の寝ている部屋の異変を感じ中に入ると、生気が抜け、寝乱れた男が一人いた。従者により三条邸に連れ帰られ、しばらく起き上がることもできなかった。
怪しいまでに整った顔立ち。六尺は優に超える背丈。脱いだところを見たものがいるのか逞しい身体つきだと聞いた。女房(侍女)は現実味がない分、興味津々だ。
なにせ被害にあうのは男ばかり。中には女が、わたしも抱かれたと自慢するらしいがその信憑性はない。
〈氷の君〉
言葉を発せず、触れる手は夏でも氷のように冷たい。それはその妖怪に付いた名だった。
(だいたい、男が男を抱く?そんなのは主人だけにして欲しい)
実視の主人は北の方の他に、男の恋人がいるのだ。
実視は眉根を寄せ、〈氷の君〉の話を聞いていた。
だかしかし、遠い太宰府の話では噂は単なる噂である。人伝に、人伝に伝わるうちに話は膨らむのであろう。男を抱く壮絶に美しい妖怪。
実際誰が被害にあったのかわからない。名乗り出る者はいなかった。男の沽券にかかわるのか、家の恥と家人が声をひそめるのか。はたまた、噂は噂で、実際そんなことはないのか?
それでも実しやかに囁かれる噂は消えることはなかった。
恐ろしいことに、徐々にその噂が東に進み都に近付いていると云う。
そして、その話には続きがある。
〈氷の君〉に抱かれた男は女を抱けなくなると云う。女を見ても、性的に興奮しない。例え皇女さまが褥に入ってきても、だ。
実視は〈氷の君〉に恋をした。
顔が見えず、声も聞いていないのに恋をした。いや、恋をしたような錯覚を覚えた。
(もっと奥まで…。ああっ、そこをぐりぐりしてくれ…。もっと、もっと……)
せめてもの救いは声に出さずに願ったこと。羞恥に頬を染め、身を捩る。こんなに狂おしいまでに求めたことがあっただろうか?
「ああっ…んっ、やっ」
『嫌なのか?』
「ぃゃっ、…ゃ、じゃない…もっと、シテくれ…」
『わかった。そなたの願い叶えてやろう』
何を口走っているのか最早わからなかった。
ただ、この快楽に溺れたい。〈氷の君〉に身体の隅々まで愛されたい。
明け方、従者が実視の寝ている部屋の異変を感じ中に入ると、生気が抜け、寝乱れた男が一人いた。従者により三条邸に連れ帰られ、しばらく起き上がることもできなかった。
2
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした
なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。
「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」
高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。
そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに…
その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。
ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。
かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで…
ハッピーエンドです。
R18の場面には※をつけます。
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)
フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
少年売買契約
眠りん
BL
殺人現場を目撃した事により、誘拐されて闇市場で売られてしまった少年。
闇オークションで買われた先で「お前は道具だ」と言われてから自我をなくし、道具なのだと自分に言い聞かせた。
性の道具となり、人としての尊厳を奪われた少年に救いの手を差し伸べるのは──。
表紙:右京 梓様
※胸糞要素がありますがハッピーエンドです。
平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる