逢魔刻に氷菓を手折り

茉莉花 香乃

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空蝉

03

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たけるの友だちは両親が置いていったぬいぐるみだけ。幸せであった時も、独りぼっちになった後も、それは変わらない。

誰もいない河原の土手でポケットからそのぬいぐるみを出して会話する。

「今日はね、体育で転んだんだ」
「そうなの?怪我はしてない?」
「うん。大丈夫」

親であり、兄弟であり、友だちであった。

十歳の誕生日。誕生日は自分でも忘れそうになるが、記憶にある限り誰にも祝ってもらったことはない。

いつものように寄り道して、一人で施設に帰ると大人の雰囲気が違う。いつもはどんなに遅く帰っても怒られることはなかった。尊とは口をきくのも嫌だったのだ。叱責すらもいとう。尊の事を知りもしないで。尋常ではない力を持っていても心は幼く、傷付きやすい。人一倍感受性の強い子どもであった。

それがその日は違った。

「こんな遅くまで、どこにいたんだ?」

二月四日は、陽はまだまだ短く、新月の今日はいつもより暗く感じる。

「心配するじゃないか」

白々しく響く言葉と、それでも視線は宙を舞う。職員と合わさることのない尊の目が捉えた人は、どこか安心する初対面の人だった。

「はじめまして」

(この人は僕の目を見て怖くないのだろうか?)

真っ直ぐに向けられる眼差しは、いったいいつから尊に注がれなかったか。

「は、はじめまして」
「わたしは加茂ひとしと言います」
「あっ、僕と同じ?」
「そう、同じだね。加茂尊くん、わたしと一緒に来ないか?」
「行って、良いの?」
「勿論」
「ホント?……でも、どうせ直ぐに返されるんだ……」

心無い仕打ちは幼い心を臆病にさせた。

「そんなことはしない」

仁は尊の前に跪き両手を持った。目線を合わせ、真正面から黒曜石の瞳を見つめる。こんなに近く、顔を覗き込まれたことはなかった。

(この人は嘘は言ってない。僕は、行きたい!)

ポケットの中の友だちも賛成してくれているみたいだ。初対面の人ではあるが、長年同じ建物に住んでいる人たちよりも、ずっと親しみを感じた。
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