見つけてよ。

茉莉花 香乃

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「なあ、美都瑠は?」
「ん?ああ、ほら、転入生のとこ。それより、ここ違うよ」
「えっ?マジか?」

森山は土日の午後から勉強道具を持って来ることになった。放課後も部活動の後、課題でわからないところがあれば聞きに来る。今もそうだ。現在は二人で共用スペースのテーブルにノートなどを広げ、ソファーとテーブルの間にドカリと座っている。毛足の長いラグが敷いてあるので、お尻が痛くなることはない。それに僕のお尻は、今は健全な状態なので多少硬くても大丈夫!そんなことは森山には言わないけれど…。

明日は新入生の歓迎会がある。

「文世は、十人捕まえられそう?」
「ん?俺は、無理だな」
「えー、でも、足も速いし、持久力もあるじゃん」

森山はサッカー部だ。

「今年は伊月のお守り」
「ぼ、僕の?」
「そう。なんか、危なっかしいんだよ。高校に入ってから妙に艶っぽいしさ。二年になってからは、…やっぱ、辛い?B組になったの。塞ぎ込んでる時もあるし、無理に笑ったりしてるの見てるとさ…ほっとけない」
「そ、そんなことない!…えっと…B組になったのは納得してると言うか…」

自分から進んで選んだんだから、決して辛いことはない。

「そうか?」

不審そうにつぶらな瞳を向けられると、居心地が悪い。親も先生も、そして、この優しいクラスメイトも騙してるんだ。森山はイケメン率の高いこの学校では、あまり目立たない。けれど、世間一般では、おそらくモテる。背も高いし、顔も整っている。B組だって、この学校は偏差値が高いため、全国的に見れば上位に位置している。部活動をしながらその成績を維持してるんだ。凄いと思う。そんな彼に気を使ってもらって、申し訳ない。

「ありがと…」
「いやいや、家庭教師代として、当然!護衛させていただきます、姫さま」
「ひ、姫さまって!それに!パフェは?」
「ははっ…慌てるなって。ちゃんとパフェも献上いたしますとも」
「よ、よろしい。でも、姫は禁止だからね!」
「ムキになってる伊月、可愛い。正にツンデレ?じゃあ、お嬢さまかな?」
「ダ、ダメだよ!それもダメ」
「あははっ」







「じゃあ、そろそろ行きますか!」

生徒会長の八城さまの美声を聞きながら森山と体育館から出るために歩き出だした。チラリと見えた美都瑠の隣には例の転入生がいた。美都瑠のお節介がまだ続いているようだ。性格がメチャ良くて、なんか頼りない、ついつい構いたくなると言っていた。

「あの…岩佐くん」
「ん?」
「一緒に行きませんか?」
「へぇ?な、何」

同じクラスの池住がおずおずと、お伺いをたてるような丁寧な言葉遣いで話しかけてきた。中学から同じ学校だけど、今年初めて一緒のクラスになった。別にそれを馬鹿にするつもりはない。

「悪いな、池住。伊月は俺と一緒に回ることになってるんだ」
「なんだよ…」
「じゃ、じゃあ、三人で」

そりゃ、森山と行くことにはなってるけど、別にいいでしょ?

「それより、僕、池住くんと一緒にいてもらうから、文世は一年捕まえてくる?」

僕の事を心配しての今回の申し出はありがたいけど、森山なら、十人捕まえられる。森山を見ると少し不機嫌だ。

「えっと…いや、遠慮しとくよ」

池住は目の横を人差し指で掻きながら、困ったような笑顔でそう言った。

「そう?僕は別に…」
「行こうぜ、伊月。ほら、生徒会が困ってる」

僕の腕を掴んで、少々乱暴に連れ出される。この体育館は一度全員を出して、捕まった一年生を集めるために再び開かれる。

体育館を出る時、視線を感じた。田丸だ。こちらを睨むように立っている。自分から終わりにした関係。もうお互いを繋ぐものはない。セフレと言う穢れた繋がりでも、僕にとっては大切な糸だった。それがなくなり、足元から崩れる感覚が常に背後にある。スマホのデータはそのままだけど、当然ながら田丸からの連絡はない。女々しいし、未練タラタラで情けないけど、こればっかりはまだ消せない。僕の立場がクラスメイトからセフレに成り下がってからは、僕から連絡を入れたことはほとんどない。

睨まないでよ…。
僕、ちゃんと田丸の事、忘れるから。
お願いだから、睨まないで…
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