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第七章

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「わかった。…遠藤、お前隆が好きなんだよ」
「……あぁ…多分そうなんだ…」
「でも、悪かったな。自覚して直ぐに失恋なんて…。俺たち付き合ってるから」
「あっ!」

言っちゃったよ…。
僕の動揺を労わるように豊の手が頭を撫でる。

「やっぱりな…おかしいと思ったんだ。二人の雰囲気とか…俺を避けるように、最近全然郷ちゃんに会わなくなった。
土屋が会わせないようにしてたんだな」
「当たり前だろ?お前の目は隆を高校の同級生とは見てなかった。隆は…いや、とにかくもう誘うなよ!」

二人の話は落ち着いたようだ。

言ってしまったものは仕方ない。遠藤くんのことがあっても、なかっても、僕の気持ちは全て豊のものだからさ。
例え、遠藤くんが僕のことを好きでいてくれても何とも思わないんだ。

僕と豊が付き合ってるってことをすんなり受け入れてくれたみたい。

「あの…会社で言いふらさないでくれる?」
「ああ、わかってる。そんなことしないさ」

良かった。それが一番の心配だったから…。心配事がなくなったら急にお腹が空いてきた。

「豊、他にも頼んでいい?」

店員にうろちょろされると話が途中になったりするから、昨日からまずは直ぐに持って来れそうなつまみだけを頼もうと相談していた。

僕はもともとお酒はあまり飲まないから居酒屋に来てももっぱら食べる方が専門。

「ああ、隆は酎ハイにする?」
「あ、うん。ありがと」
「何だよ…俺、邪魔なのか?」
「まあ、仲良しなとこ見てさ、きっぱり諦めてくれたらそれでいいから。隆は俺のことしか見てないからな…入る余地はないよ」

あんなに心配!心配!って言ってたのに余裕を見せる豊に笑ってしまう。

「何笑ってるの?」

豊が僕を抱き寄せて頬にキスをする。

「ちょっ…」

ぶわっと頬が熱くなるのがわかる。

遠藤くんが驚いた顔をして何か言おうとするのが見えた。

「わかってる…でも、ちょっとだけ牽制させて?」

耳元で囁くように言われると、それ以上怒れなかった。
さっきはあんなに僕は自分しか見てないから入る余地ないって自信満々に言っていたのに…それってさ…それって、それでも心配で遠藤くんを成るだけ遠ざけようとしているってことだよね。

恥ずかしさと嬉しさで顔に熱が集まって、さっき少しだけ飲んだビールでちょっと酔ってしまっているから絶対顔が赤くなってるよ。

「郷ちゃん…俺、わかった。千明と郷ちゃんは全然似てないよ。千明はそんなに可愛くない。いや、顔はね…似てるし、可愛いけど…性格?そんな恥じらう感じはなかったな。
俺、失敗したんだな…高二の時、あの特別教室で郷ちゃんに告ってたら今は俺の隣に居た?俺は千明を好きになる前に郷ちゃんを好きになってたんだな…」
「ダメだ遠藤。その時、そんなことできやしなかったくせに今になって…」

豊が心配そうに僕の手を握って見つめられたらたまらない。そんな『タラレバ』な話はわからないけど今は豊だけ。

例え高二の時に告白されていても、今も付き合っているかはわからない。案外些細な言い争いで別れてるかもしれない。学校なんて結構閉鎖空間だし友だちにからかわれたりして自然に離れていたかもしれない。

遠藤くんにはラインをすべて見せてることを話した。それならもう二人で会いたいって言わないからたまには三人でこうして会ってくれと言われた。
不自然に避けられるのは嫌なんだそうだ。
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