38 / 45
第七章
03
しおりを挟む
「大事なことって?」
「実はさ…俺、小さい頃から叔母さんのお願いが上手く断れないんだ」
「うん…わかる」
「えっ?…わかるのか?」
「だって…」
さっき、名前を呼ぶ声は優しかった。叔母さんには弱いんだろう。
「一ヶ月に一度デートしてって頼まれたらさ…断れなくて。家賃安くしてあげるって言われたけど、流石にそれは出来ないから太田に誰かルームシェアしてくれる人を探してくれないかって頼んだんだ。
今日は隆に会いたいって言うからさ。会わせたら、デート二ヶ月に一度で許してくれるって言うから…」
「そうなんだ…」
なんか、すごい展開です。
「叔母さんなんだ…すごく若いね?彼女かと思った」
「やっぱり勘違いした?夏樹さんは父さんの年の離れた妹なんだ。さっきは焦ったよ。さよならなんて隆の口から聞きたくないよ」
「うん、ごめん」
「謝らないで。謝るのは俺の方だ。俺が悪かったんだ。ちゃんと隆に言っておいたら、あそこから出て行かなかっただろ?」
そうかもしれない。けど、昨日あんなに憂鬱そうにしてたのは何でか会わせたくないと思ったんだろ?だから僕に言えなかったんだ。
「戻ろっか?」
謝らなくっちゃ。失礼なことしてしまった。
よく考えれば直前の豊はいつもと同じで僕の表情一つで店員に嫉妬しなくていいと言ってくれてたじゃないか。別れ話をする人間がそんな態度はおかしいだろ…。それが本当なら、どれだけ嘘つきなんだと、すごい演技力だなと逆に感心してしまう。
「あっ、叔母さんなんて呼んだら怒られるからな。夏樹さんって呼んで。オーナーもダメ。きっと、よそよそしいって嫌がると思う」
豊はなんだかんだ言っても叔母さんのことが大切なんだ。
だから僕が出て行く時に『夏樹さん』って優しい声で呼ぶのを聞いて苦しくなった。
「夏樹さん、お待たせ」
「あっ、豊ちゃん。ちゃんと話はしとかないとダメでしょう?びっくりさせちゃってごめんなさいね。隆之介くんだったわよね?初めまして高倉夏樹と言います。飲み物、何にする?ケーキは一通り頼んだから。ほら、見て!ここのはどれでも美味しいのよ。わたし待ちきれなくって、お先に頂いてるの。ふふっ」
切れ目なくそう言って、綺麗に微笑んだ夏樹さんはやっぱり叔母さんには見えなかった。
「初めまして、郷田隆之介です。挨拶が遅れて大変申し訳有りません。また、今日はわざわざお越し頂いたにも関わらず失礼な…」
「もう、堅苦しい挨拶はいいから。こちらこそごめんなさいね。豊ちゃんが迷惑をかけちゃって。この子、いい子なのよ。これからもよろしくお願いね」
「夏樹さん、隆の前で『ちゃん』は止めて」
「あら、恥ずかしいの豊ちゃん?…仕方ないわね。豊、大切なのね?」
「そうだよ」
「えっ?」
「ねえ、紅茶でいいのかしら?」
誤魔化されたような気もしたけど、それぞれ飲み物を注文して、ケーキを食べた。夏樹さんが言う通りとても美味しかった。僕が選んだのはスポンジとクリームとババロアがバランスよく層になってて、切り口がとても綺麗。甘過ぎないからいくらでも食べられそう。
豊のティラミスもお行儀が悪いけど横から少し貰う。美味しい。ニヘッて顔が崩れた所を夏樹さんに見つめられてて焦った。
「実はさ…俺、小さい頃から叔母さんのお願いが上手く断れないんだ」
「うん…わかる」
「えっ?…わかるのか?」
「だって…」
さっき、名前を呼ぶ声は優しかった。叔母さんには弱いんだろう。
「一ヶ月に一度デートしてって頼まれたらさ…断れなくて。家賃安くしてあげるって言われたけど、流石にそれは出来ないから太田に誰かルームシェアしてくれる人を探してくれないかって頼んだんだ。
今日は隆に会いたいって言うからさ。会わせたら、デート二ヶ月に一度で許してくれるって言うから…」
「そうなんだ…」
なんか、すごい展開です。
「叔母さんなんだ…すごく若いね?彼女かと思った」
「やっぱり勘違いした?夏樹さんは父さんの年の離れた妹なんだ。さっきは焦ったよ。さよならなんて隆の口から聞きたくないよ」
「うん、ごめん」
「謝らないで。謝るのは俺の方だ。俺が悪かったんだ。ちゃんと隆に言っておいたら、あそこから出て行かなかっただろ?」
そうかもしれない。けど、昨日あんなに憂鬱そうにしてたのは何でか会わせたくないと思ったんだろ?だから僕に言えなかったんだ。
「戻ろっか?」
謝らなくっちゃ。失礼なことしてしまった。
よく考えれば直前の豊はいつもと同じで僕の表情一つで店員に嫉妬しなくていいと言ってくれてたじゃないか。別れ話をする人間がそんな態度はおかしいだろ…。それが本当なら、どれだけ嘘つきなんだと、すごい演技力だなと逆に感心してしまう。
「あっ、叔母さんなんて呼んだら怒られるからな。夏樹さんって呼んで。オーナーもダメ。きっと、よそよそしいって嫌がると思う」
豊はなんだかんだ言っても叔母さんのことが大切なんだ。
だから僕が出て行く時に『夏樹さん』って優しい声で呼ぶのを聞いて苦しくなった。
「夏樹さん、お待たせ」
「あっ、豊ちゃん。ちゃんと話はしとかないとダメでしょう?びっくりさせちゃってごめんなさいね。隆之介くんだったわよね?初めまして高倉夏樹と言います。飲み物、何にする?ケーキは一通り頼んだから。ほら、見て!ここのはどれでも美味しいのよ。わたし待ちきれなくって、お先に頂いてるの。ふふっ」
切れ目なくそう言って、綺麗に微笑んだ夏樹さんはやっぱり叔母さんには見えなかった。
「初めまして、郷田隆之介です。挨拶が遅れて大変申し訳有りません。また、今日はわざわざお越し頂いたにも関わらず失礼な…」
「もう、堅苦しい挨拶はいいから。こちらこそごめんなさいね。豊ちゃんが迷惑をかけちゃって。この子、いい子なのよ。これからもよろしくお願いね」
「夏樹さん、隆の前で『ちゃん』は止めて」
「あら、恥ずかしいの豊ちゃん?…仕方ないわね。豊、大切なのね?」
「そうだよ」
「えっ?」
「ねえ、紅茶でいいのかしら?」
誤魔化されたような気もしたけど、それぞれ飲み物を注文して、ケーキを食べた。夏樹さんが言う通りとても美味しかった。僕が選んだのはスポンジとクリームとババロアがバランスよく層になってて、切り口がとても綺麗。甘過ぎないからいくらでも食べられそう。
豊のティラミスもお行儀が悪いけど横から少し貰う。美味しい。ニヘッて顔が崩れた所を夏樹さんに見つめられてて焦った。
2
お気に入りに追加
46
あなたにおすすめの小説
後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…
塚野真百合
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。
5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。
相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。
一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。
唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。
それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。
そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。
そこへ社会人となっていた澄と再会する。
果たして5年越しの恋は、動き出すのか?
表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)
フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
台風の目はどこだ
あこ
BL
とある学園で生徒会会長を務める本多政輝は、数年に一度起きる原因不明の体調不良により入院をする事に。
政輝の恋人が入院先に居座るのもいつものこと。
そんな入院生活中、二人がいない学園では嵐が吹き荒れていた。
✔︎ いわゆる全寮制王道学園が舞台
✔︎ 私の見果てぬ夢である『王道脇』を書こうとしたら、こうなりました(2019/05/11に書きました)
✔︎ 風紀委員会委員長×生徒会会長様
✔︎ 恋人がいないと充電切れする委員長様
✔︎ 時々原因不明の体調不良で入院する会長様
✔︎ 会長様を見守るオカン気味な副会長様
✔︎ アンチくんや他の役員はかけらほども出てきません。
✔︎ ギャクになるといいなと思って書きました(目標にしましたが、叶いませんでした)
告白ゲーム
茉莉花 香乃
BL
自転車にまたがり校門を抜け帰路に着く。最初の交差点で止まった時、教室の自分の机にぶら下がる空の弁当箱のイメージが頭に浮かぶ。「やばい。明日、弁当作ってもらえない」自転車を反転して、もう一度教室をめざす。教室の中には五人の男子がいた。入り辛い。扉の前で中を窺っていると、何やら悪巧みをしているのを聞いてしまった
他サイトにも公開しています
見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
【クズ攻寡黙受】なにひとつ残らない
りつ
BL
恋人にもっとあからさまに求めてほしくて浮気を繰り返すクズ攻めと上手に想いを返せなかった受けの薄暗い小話です。「#別れ終わり最後最期バイバイさよならを使わずに別れを表現する」タグで書いたお話でした。少しだけ喘いでいるのでご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる