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第七章

03

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「大事なことって?」
「実はさ…俺、小さい頃から叔母さんのお願いが上手く断れないんだ」
「うん…わかる」
「えっ?…わかるのか?」
「だって…」

さっき、名前を呼ぶ声は優しかった。叔母さんには弱いんだろう。

「一ヶ月に一度デートしてって頼まれたらさ…断れなくて。家賃安くしてあげるって言われたけど、流石にそれは出来ないから太田に誰かルームシェアしてくれる人を探してくれないかって頼んだんだ。
今日は隆に会いたいって言うからさ。会わせたら、デート二ヶ月に一度で許してくれるって言うから…」
「そうなんだ…」

なんか、すごい展開です。

「叔母さんなんだ…すごく若いね?彼女かと思った」
「やっぱり勘違いした?夏樹さんは父さんの年の離れた妹なんだ。さっきは焦ったよ。さよならなんて隆の口から聞きたくないよ」
「うん、ごめん」
「謝らないで。謝るのは俺の方だ。俺が悪かったんだ。ちゃんと隆に言っておいたら、あそこから出て行かなかっただろ?」

そうかもしれない。けど、昨日あんなに憂鬱そうにしてたのは何でか会わせたくないと思ったんだろ?だから僕に言えなかったんだ。

「戻ろっか?」

謝らなくっちゃ。失礼なことしてしまった。
よく考えれば直前の豊はいつもと同じで僕の表情一つで店員に嫉妬しなくていいと言ってくれてたじゃないか。別れ話をする人間がそんな態度はおかしいだろ…。それが本当なら、どれだけ嘘つきなんだと、すごい演技力だなと逆に感心してしまう。

「あっ、叔母さんなんて呼んだら怒られるからな。夏樹さんって呼んで。オーナーもダメ。きっと、よそよそしいって嫌がると思う」

豊はなんだかんだ言っても叔母さんのことが大切なんだ。
だから僕が出て行く時に『夏樹さん』って優しい声で呼ぶのを聞いて苦しくなった。

「夏樹さん、お待たせ」
「あっ、豊ちゃん。ちゃんと話はしとかないとダメでしょう?びっくりさせちゃってごめんなさいね。隆之介くんだったわよね?初めまして高倉夏樹と言います。飲み物、何にする?ケーキは一通り頼んだから。ほら、見て!ここのはどれでも美味しいのよ。わたし待ちきれなくって、お先に頂いてるの。ふふっ」

切れ目なくそう言って、綺麗に微笑んだ夏樹さんはやっぱり叔母さんには見えなかった。

「初めまして、郷田隆之介です。挨拶が遅れて大変申し訳有りません。また、今日はわざわざお越し頂いたにも関わらず失礼な…」
「もう、堅苦しい挨拶はいいから。こちらこそごめんなさいね。豊ちゃんが迷惑をかけちゃって。この子、いい子なのよ。これからもよろしくお願いね」
「夏樹さん、隆の前で『ちゃん』は止めて」
「あら、恥ずかしいの豊ちゃん?…仕方ないわね。豊、大切なのね?」
「そうだよ」
「えっ?」
「ねえ、紅茶でいいのかしら?」

誤魔化されたような気もしたけど、それぞれ飲み物を注文して、ケーキを食べた。夏樹さんが言う通りとても美味しかった。僕が選んだのはスポンジとクリームとババロアがバランスよく層になってて、切り口がとても綺麗。甘過ぎないからいくらでも食べられそう。
豊のティラミスもお行儀が悪いけど横から少し貰う。美味しい。ニヘッて顔が崩れた所を夏樹さんに見つめられてて焦った。
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