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第七章
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急いで出口に向かう。
「隆、どした?ちょと待ってて、夏樹さん」
夏樹さん…慈しむように優しげに口にする名前に胸が締め付けられる。
オーナーに会うと言うのは口実だったのかな?昨日あんなに甘えてくれたのは僕との別れを決めて、最後くらいは優しくしてやろうと言う豊の優しさなのかな。
どこに行こう。
マンションには帰れない。また逃げてしまった。逃げても何も解決しないとわかっているのに…。でも、今回はもう追いかけては来てくれないだろう。
豊の用事は終わったはずだ。
だから公園もダメ。追いかけて来てくれるの待ってるみたいだから自分で自分を傷つけちゃうよね…。太田くんいるかな?デートで出かけてないといいけど…。
涙は出なかった。
こんなにはっきり見せつけられたら諦めもつくよ。
やっぱり女には敵わない。女であるってだけで僕より
……わかってたはずなのに。
腕を組んで親しげにしていた女の人。あれから二ヶ月経つ。今、あの人の横を通った時に一日出掛けた時に豊にまとわりついていた甘い匂いがした。
ああ、あの日もこの人に会ってたのか…。ちゃんと連絡取って会ってたんだな…。やっぱり僕が浮気相手だったのかな。あんなふうに会わせなくてもいいのに…。
心の準備はまだできてなかったけど、どこかで期限付きの恋だとわかってた。随分早くなったけど、仕方ないよね。
「隆!待って!」
「どして…?」
どうして追いかけて来たのだろう?
「戻ってあげなよ。誤解されるよ?大丈夫、ちゃんと別れてあげ…」
涙が出てその続きは言えなかった。
最後くらいは笑顔で別れたかったな。そうだ、今からマンション帰って、荷物まとめよう。豊がいない時の方がいいだろう。今日出て行くことはできないけど会わないようにするのは得意だよ。不動産屋にも行かなきゃ…。
辛いよ…。
大好きだったのに…。
今でも愛してる…。
でも、楽しかったな…最初で最後の恋人だよ。もうこんなに幸せな日々は来ないだろう…。
「ゆ……つ、土屋、ありがと…さよな…」
「ちょ、何言ってるの?」
抱きしめられて慌てる。
ここは公道で昼前の今はいくら住宅街の人通りが疎らな道でも誰に見られるかわからない。
「ちょっと、ここどこだと思ってるの?」
「じゃあ、俺から離れないで。なんで…別れるって、土屋ってなんだよ?さよならって…」
「えっ?だって…」
「だっててなんだよ!」
何か…何かが違う。
豊の腕は緩まない。
「あの人は誰?腕組んで歩いてたよね?」
「ああ、夏樹さんは叔母さんだよ。あのマンションのオーナー…違うな、オーナー夫人?今日、会って欲しいって言っただろ?」
「うん」
キョロキョロと周りを見て誰もいないのを確認するとチュッとキスをして、涙を拭いてくれた。
身体は離れたけどさっきまでの不安はない。
「いつ腕組んでるの見た?」
「二ヶ月くらい前…付き合う前の日だよ」
そうだ。あの人を見て、どうしておでこにキスするのか聞く決心をしたんだ。
「あのマンションの名前覚えてる?」
突然何を言うんだろう?
「『カーサ サマーツリー』だよね?」
「そう、サマーツリーを日本語で言うと、夏の樹。俺がさっき叔母さんのことなんて呼んだか覚えてる?」
「えっと…なつきさん…かな?…あっ!」
「そう、もうちょっと違う名前はなかったのかと思うけどな。今度二号館を建てるそうだよ。
…戻ろ?叔母さん、待ってるよ?きっとケーキいっぱい頼んでる。隆がケーキ好きだって言ってあるから。叔母さん隆に会うの楽しみにしてたんだ。それにこれは俺にとって大事なことなんだ」
「隆、どした?ちょと待ってて、夏樹さん」
夏樹さん…慈しむように優しげに口にする名前に胸が締め付けられる。
オーナーに会うと言うのは口実だったのかな?昨日あんなに甘えてくれたのは僕との別れを決めて、最後くらいは優しくしてやろうと言う豊の優しさなのかな。
どこに行こう。
マンションには帰れない。また逃げてしまった。逃げても何も解決しないとわかっているのに…。でも、今回はもう追いかけては来てくれないだろう。
豊の用事は終わったはずだ。
だから公園もダメ。追いかけて来てくれるの待ってるみたいだから自分で自分を傷つけちゃうよね…。太田くんいるかな?デートで出かけてないといいけど…。
涙は出なかった。
こんなにはっきり見せつけられたら諦めもつくよ。
やっぱり女には敵わない。女であるってだけで僕より
……わかってたはずなのに。
腕を組んで親しげにしていた女の人。あれから二ヶ月経つ。今、あの人の横を通った時に一日出掛けた時に豊にまとわりついていた甘い匂いがした。
ああ、あの日もこの人に会ってたのか…。ちゃんと連絡取って会ってたんだな…。やっぱり僕が浮気相手だったのかな。あんなふうに会わせなくてもいいのに…。
心の準備はまだできてなかったけど、どこかで期限付きの恋だとわかってた。随分早くなったけど、仕方ないよね。
「隆!待って!」
「どして…?」
どうして追いかけて来たのだろう?
「戻ってあげなよ。誤解されるよ?大丈夫、ちゃんと別れてあげ…」
涙が出てその続きは言えなかった。
最後くらいは笑顔で別れたかったな。そうだ、今からマンション帰って、荷物まとめよう。豊がいない時の方がいいだろう。今日出て行くことはできないけど会わないようにするのは得意だよ。不動産屋にも行かなきゃ…。
辛いよ…。
大好きだったのに…。
今でも愛してる…。
でも、楽しかったな…最初で最後の恋人だよ。もうこんなに幸せな日々は来ないだろう…。
「ゆ……つ、土屋、ありがと…さよな…」
「ちょ、何言ってるの?」
抱きしめられて慌てる。
ここは公道で昼前の今はいくら住宅街の人通りが疎らな道でも誰に見られるかわからない。
「ちょっと、ここどこだと思ってるの?」
「じゃあ、俺から離れないで。なんで…別れるって、土屋ってなんだよ?さよならって…」
「えっ?だって…」
「だっててなんだよ!」
何か…何かが違う。
豊の腕は緩まない。
「あの人は誰?腕組んで歩いてたよね?」
「ああ、夏樹さんは叔母さんだよ。あのマンションのオーナー…違うな、オーナー夫人?今日、会って欲しいって言っただろ?」
「うん」
キョロキョロと周りを見て誰もいないのを確認するとチュッとキスをして、涙を拭いてくれた。
身体は離れたけどさっきまでの不安はない。
「いつ腕組んでるの見た?」
「二ヶ月くらい前…付き合う前の日だよ」
そうだ。あの人を見て、どうしておでこにキスするのか聞く決心をしたんだ。
「あのマンションの名前覚えてる?」
突然何を言うんだろう?
「『カーサ サマーツリー』だよね?」
「そう、サマーツリーを日本語で言うと、夏の樹。俺がさっき叔母さんのことなんて呼んだか覚えてる?」
「えっと…なつきさん…かな?…あっ!」
「そう、もうちょっと違う名前はなかったのかと思うけどな。今度二号館を建てるそうだよ。
…戻ろ?叔母さん、待ってるよ?きっとケーキいっぱい頼んでる。隆がケーキ好きだって言ってあるから。叔母さん隆に会うの楽しみにしてたんだ。それにこれは俺にとって大事なことなんだ」
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