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第六章

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「なんか冷た~い。そう言えば、まだ名前聞いてなかったな?」

別に教えなくてもいいだろう。黙っていればその内飽きるはずだ。だいたい料理超初心者の僕がおしゃべりしながら作れる訳がない。

「ちょっと、黙れよ!」

感情を抑えようと丁寧に話したいけどギリギリで爆発してしまう。

「またまた、冷た~い」
「いい加減にしろよ!」

怒ったからか、肩をすぼませる。

黙ったまま料理を作り続ける僕に仕方ないななんて言いながら再びテレビを見始めた。何が面白いのかギャハギャハ笑う声もかんに障る。

今日はカレーとサラダ。まだ市販のルーを入れるものしか作れないけど、そのうちスパイスとか入れた本格的なカレーも作ってみたいな。
カレーが出来た頃、豊が帰ってきた。

「お帰…」
「つっちー、お帰り!」

僕より大きな声で叫び、豊に抱きつこうとする。豊はその腕を叩き落とした。

「隆、ただいま。悪かったな」

僕の方を向いて一瞬笑顔を見せてくれたけど、直ぐに苦り切った表情で西村を睨んだ。

「何度も言ってるだろ?もう、お前の事は何とも思ってない。迷惑なんだ帰ってくれよ!よく俺の前に顔出せるな?」
「え~、だってさ~泊まるとこないんだよね~。つっちー、泊めて?寂しいだろ?いいよ…俺が相手したげる」

本当に自分勝手だな。

豊の話を聞こうともしない。自分の言いたいことを言ってまた、豊に擦り寄ろうとする。勿論豊が西村を抱き寄せることはない。

「お前、一緒に住もうってここに越して来て、ちゃんと寝泊まりしてたの最初の数ヶ月だけだろ?後はフラフラして、二、三ヶ月に一度戻ってきてまた出て行く。俺がお前の荷物捨てても気付いてるのか知らないけど、何も言わなかったじゃないか!それってさ…どうでも良いってことだったんだろ?何度も鍵返せって言ったら…そうだ、失くしたって…お前失くしたって言ってただろ?何で持ってるんだよ!」
「失くしたって思ったんだ。そしたら俺の大事なものを仕舞っとく箱の中に入っててさ。それって凄くない?つっちーの事忘れてないってことだろ?」

意味がわからない。

「とにかく…お前を泊める部屋はない。帰れ!」
「俺はつっちーの隣でいいよ!ゆっくり寝られるかな~。それはつっちー次第だよ!久しぶりだし、一晩中…」
「いい加減にしろ!豊は今、僕の恋人なんだ。お前と寝る訳ないじゃないか!」
「えっ?そ、そうなの?」

他の誰かなら二人の仲をこんなにはっきり公表しないだろうけど、やんわりとか遠回しとかは天然なんだかアホだかわかんないこの男には絶対伝わらないと思う。

「俺が健介の事好きだったのは最初だけだよ」
「え~、そんなこと…」
「健介が一緒に住むからって親丸め込んで勝手にこの部屋に来て…そりゃ、最初は嬉しかったさ。でも、俺は…信じ切ることが出来なかった。
お前だって、俺の事は家出る口実くらいの軽い気持ちだったんだろ?わかってたさ。それでも、俺の事ちゃんと見てくれるって信じたかった。最初はな…。けど!お前は…」
「…っ……つっちー…」

迷惑男は渋々鍵を置いて出て行った。

「隆、ごめん…。同居してたって黙ってて…。忘れたかったんだ。…玄関の鍵変えよう?失くしたって言葉信じた俺が悪いんだ。隆が越してくる前に変えときゃ良かったよ」
「いいよ…返してもらったからもう来ないでしょう?」
「もし、合鍵とか作ってたら大変だから…変えよう?」

そうだな…。
鍵作ってるとかないとは思うけど、常識ある人ならこんなことにならなかったんだ。

「わかった」

同居してたことを言ってくれなかったのは少し寂しかったけど、豊も傷付いてたんだ。…忘れたいって気持ちはわかるからこれ以上言わないことにした。

あんなに僕を離さなかったのは、傷付いた過去を思い出してたのかな?僕が慰めてあげる。

そんな悲しい想いはもう二度とさせないよ。
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