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第六章

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豊は僕の膝裏に腕を入れて横抱きにした。

何度こうして連れて行って貰っただろう。何気ない日常でも外で手を繋げない僕たちは、二人きりになれるこの部屋の中へ一歩入れば直ぐに触れ合いたくなる。

ほんの数歩でリビングにたどり着くけど、腕を首に回して甘えた。

首筋に鼻を付けて汗の臭いを嗅ぐ。キスをするのも忘れない。
ニオイフェチじゃないけど、豊の匂いは凄く落ち着く。

僕を抱いたままソファーに座ると強く抱きしめてくれる。

「お、重くないの?」
「重くない。ごめんな…嫌な気持ちにさせて」
「うん…あの男は誰?」
「高校の終わりから大学の時付き合ってたんだ。けど、直ぐに別れた。びっくりだよ、突然会社の前で待っててさ」
「何の用だったの?」
「うん…隆、俺は隆が好きだよ」

あの…返事になってない。

「実はさ…あの…」
「んっ?」

抱きしめる腕に勇気を貰い、不安な気持ちを伝える。

「マンションにも来てただろ?あの時も見たんだ」
「!…そうなのか?言ってくれればよかったのに…。じゃあ、ずっと不安だった?ごめん、気付かなくて」
「ううん、もう忘れたって言ってたから…その言葉を信じようって思ったんだ」
「ありがと」
「あの人は何をしに来たの?」
「泊まるとこないとか言ってたから今の恋人と喧嘩したんじゃないかな…よくわからないけど、付き合ってる時からいい加減な奴だったんだ。だから、隆はあいつのことなんか気にしないで。もしかしたら、またなんか言ってくるかもしれないけど無視するしかないよ。隆には嫌な思いをさせてしまうかもしれないけど、俺の気持ちは隆のものだよ」

その日は簡単に夕飯を済ませて、一緒にお風呂に入った。

豊の方が傷付いたかのように、片時も側から離れない。
お茶淹れよ?って言うと、一緒に付いてきてずっと腰を抱き、首筋にキスをした。


「隆、愛してる」

囁く声は何度でも僕を虜にする。

「僕も…豊、愛してる。あっ…もっと…いっぱい、愛し、て…あぁぁぁ」

僕の心の傷を修復するようにゆっくりと挿入ってくる。ベッドで豊の熱を感じながら幸せに浸った。




豊の会社の近くで男を見た日から、僕を離さなくなった。

食事の時も膝に乗せたがる。

「食べにくいだろ?」
「平気、だからここに居て?」

こんなやりとりも何回したかわからない。
朝のキスも火が付いてしまいそうなくらい激しくて困ってしまう。でも、お互いが安心するから拒むことはない。


今日も一緒に帰れない。

遅くなっても僕が作ったものを食べてくれる。そして、何を作っても美味しいって言ってくれて、さりげなく『…こうすればもっと美味しくなるよ』とか『少し薄味だけど美味しいよ』と教えてくれる。

何でも美味しい訳ないと思うけど、それをそのまま『今日は味が薄い』、『野菜が硬い』と毎日ダメ出しされるより褒められる方が明日も頑張ろうって思うよね。

飲み会で食べて帰ってくる日はきちんと教えてくれるから、今日も家で食べるんだろう。まだまだ簡単なものしか作れないけど、ちょっとずつ上手になってる…と自分では思ってる。

買い物を済ませ玄関の鍵を開けて中に入ると「?…あれ、電気が点いてる」朝はきちんと消したはず。

じゃあ、用事を済ませた豊が買い物をしていた僕を抜かして先に帰ったのだろう。

扉を開けて、
「ただいま。早かっ……誰ですか?」

全然不審者らしくない堂々とした態度で、椅子に座って僕のマグカップを片手にコーヒーを飲みながらテレビを見ている人を指差した。

「あ~お前、あの時の!もしかして、今お前に部屋貸してんの?つっちーは?まだ帰らないの?」

このマンションの前と豊の会社の近くで豊に絡んでた男…。

「僕はここに住んでいる者です。一体どうやってここに入り込んだんですか?」
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