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第六章
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『今日は少し遅くなるけど待っててくれる?』
僕の退社時間に合わせて電話をかけてきて、懇願するように頼まれれば喜んで待つよ。
『そんなに遅くならないからさ…駅で待ってて?』
僕がどれだけ無意味な時間を潰していたか知ってるだろ?豊を待つなんて、簡単なこと。駅前のいつものベンチに座って、待っていたけどそろそろ来るだろうかと立ち上がり豊の会社の方に歩いて行く。
豊の会社は駅から伸びる真っ直ぐな道路沿いにあるから行き違いにはならないだろう。
「お前、また・・良い加減に・・・」
「いいじゃ・・まだ・・・」
「そんな・・・」
聞き覚えのある声は大好きな人とこの前マンションの前で聞いた声。真っ直ぐな道を逸れた所だったから声が聞こえなかったら通り過ぎてしまうところだった。
怒ってる?ちょっと痴話喧嘩のように聞こえてこちらに背中を向けている豊に声をかけられない。
『おかえり』何事もなかったかのようにそんなふうに…おかえりが可笑しいなら『よお…』って『何してんの?』って直ぐに声をかければ良かった。
あの時のように咄嗟に声が出なかった。
豊の前にいる男はやっぱり先日、マンションの前で見た奴だった。
目があうとニヤッと笑い、見せつけるように豊の腕を取り体勢を崩した豊にキスをした。一瞬顔が近づいて直ぐに離れたけど…。人通りが少ない裏通りで、辺りは暗く街灯も近くにはない。でも誰が通るかわからないこんなところで…。
それよりも僕を驚愕させたのは豊の口から漏れた一言だった。
「お前、止めろよ!こんなとこで!会社直ぐそこなんだぞ!」
場所が問題なのか?
相手の男は僕の事をただの通行人と思っているのかわからないけど、驚いた顔をしてるのを楽しそうに見て「ああ、悪い。場所は選ばなきゃな」ってもう一度キスしようとした。
もう見てられない。
二度目のキスを豊が受け入れたかは見られなかった。…抱き寄せたのだろうか?よりを戻すとか……?
どうしよう……。
取り敢えずマンションの近くまで戻ってきた。
あのまま駅で待てばよかったのかな?何も知らないフリをして一緒に買い物して、一緒にご飯食べて、一緒に…豊の腕に腕を絡ませてたあの女の人や香水のニオイのように知らないフリができるかな?
クルリとマンションを後にした。駅までの道を歩けば豊に会うかもしれないと久しぶりに公園に来た。
さっきからポケットの中の携帯がブルブルと何度も振動してる。長い振動の後、短い振動が何度もあった。そしてまた長い振動。
豊はキスしてるのを見たとは思ってない。こんなのは男同士の恋愛では普通のことなのかな?
このまま付き合ったところで結婚なんてできない。豊は女とも付き合ったことあるって言ってたから…僕のことは『どうせルームシェアなら楽しくしようぜ』ってノリなのかな。
でも、遠藤くんのことでは凄く嫉妬してた。あんな激しい豊を初めて見た。僕のことで取り乱して、ちょっと乱暴なくらい…離さない、渡さないって感じられて嬉しかった。
僕も豊を独占したいって思っちゃいけないのかな?重いって、ウザいって思われるのかな?いろんな思いが混ざって涙が込み上げる。
こんなとこでスーツ着た男が泣いてたら滑稽だな…。
いつの間にかポケットは静かになってた。愛想尽かされたんだ。そんなキスシーン見ただけでなんだよって言われるんだろう。
これからどうしよう…。太田くんの所でも泊めてもらおうかな…。でも、ゲイだってカミングアウトしちゃったから気持ち悪がられたら嫌だな…。
あの場では自然な態度だったけど、落ち着いて考えたらやっぱりもう会うのは止そうって思ってるかもしれないし…。
僕の退社時間に合わせて電話をかけてきて、懇願するように頼まれれば喜んで待つよ。
『そんなに遅くならないからさ…駅で待ってて?』
僕がどれだけ無意味な時間を潰していたか知ってるだろ?豊を待つなんて、簡単なこと。駅前のいつものベンチに座って、待っていたけどそろそろ来るだろうかと立ち上がり豊の会社の方に歩いて行く。
豊の会社は駅から伸びる真っ直ぐな道路沿いにあるから行き違いにはならないだろう。
「お前、また・・良い加減に・・・」
「いいじゃ・・まだ・・・」
「そんな・・・」
聞き覚えのある声は大好きな人とこの前マンションの前で聞いた声。真っ直ぐな道を逸れた所だったから声が聞こえなかったら通り過ぎてしまうところだった。
怒ってる?ちょっと痴話喧嘩のように聞こえてこちらに背中を向けている豊に声をかけられない。
『おかえり』何事もなかったかのようにそんなふうに…おかえりが可笑しいなら『よお…』って『何してんの?』って直ぐに声をかければ良かった。
あの時のように咄嗟に声が出なかった。
豊の前にいる男はやっぱり先日、マンションの前で見た奴だった。
目があうとニヤッと笑い、見せつけるように豊の腕を取り体勢を崩した豊にキスをした。一瞬顔が近づいて直ぐに離れたけど…。人通りが少ない裏通りで、辺りは暗く街灯も近くにはない。でも誰が通るかわからないこんなところで…。
それよりも僕を驚愕させたのは豊の口から漏れた一言だった。
「お前、止めろよ!こんなとこで!会社直ぐそこなんだぞ!」
場所が問題なのか?
相手の男は僕の事をただの通行人と思っているのかわからないけど、驚いた顔をしてるのを楽しそうに見て「ああ、悪い。場所は選ばなきゃな」ってもう一度キスしようとした。
もう見てられない。
二度目のキスを豊が受け入れたかは見られなかった。…抱き寄せたのだろうか?よりを戻すとか……?
どうしよう……。
取り敢えずマンションの近くまで戻ってきた。
あのまま駅で待てばよかったのかな?何も知らないフリをして一緒に買い物して、一緒にご飯食べて、一緒に…豊の腕に腕を絡ませてたあの女の人や香水のニオイのように知らないフリができるかな?
クルリとマンションを後にした。駅までの道を歩けば豊に会うかもしれないと久しぶりに公園に来た。
さっきからポケットの中の携帯がブルブルと何度も振動してる。長い振動の後、短い振動が何度もあった。そしてまた長い振動。
豊はキスしてるのを見たとは思ってない。こんなのは男同士の恋愛では普通のことなのかな?
このまま付き合ったところで結婚なんてできない。豊は女とも付き合ったことあるって言ってたから…僕のことは『どうせルームシェアなら楽しくしようぜ』ってノリなのかな。
でも、遠藤くんのことでは凄く嫉妬してた。あんな激しい豊を初めて見た。僕のことで取り乱して、ちょっと乱暴なくらい…離さない、渡さないって感じられて嬉しかった。
僕も豊を独占したいって思っちゃいけないのかな?重いって、ウザいって思われるのかな?いろんな思いが混ざって涙が込み上げる。
こんなとこでスーツ着た男が泣いてたら滑稽だな…。
いつの間にかポケットは静かになってた。愛想尽かされたんだ。そんなキスシーン見ただけでなんだよって言われるんだろう。
これからどうしよう…。太田くんの所でも泊めてもらおうかな…。でも、ゲイだってカミングアウトしちゃったから気持ち悪がられたら嫌だな…。
あの場では自然な態度だったけど、落ち着いて考えたらやっぱりもう会うのは止そうって思ってるかもしれないし…。
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