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第五章

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「待ってよ!」

やっと止まってくれたから、多分これくらいで半額だろうと思う金額を財布から出して遠藤くんに渡した。

「いや、いいよ。奢らせてくれよ」
「そんなこと出来ないよ…」

なかなか受け取ってくれなかったけど、奢ってもらう理由がないと強く言うと、仕方ないなと渋々受け取ってくれた。

「じゃあまた一緒に食べに行ってくれる?」

断る理由もないけど、そんなに何回も食事に行く仲でもないと思う。四年も会わなければそんなに会話が続かないよ。

千明の話をしないようにしていると当然会話はぎこちなくなる。初対面の方がまだお互いのことを話したりできるからそれよりも話し辛い。

「豊と一緒なら」
「なあ、俺はいつまでも名字でしか呼んでくれないけど、土屋は半年で名前なんだな。それに…二人でいいじゃん…土屋は…」
「えっ…?」

どう言うことなのだろう?高校の時からずっと『遠藤』って呼んでた。それは自然なことだよね?千明は『陽平』って呼んでたけど、僕がそんなふうに呼ぶと自分の中で忘れることが難しくなりそうで呼べなかった。

「あの…」
「いや…じゃ、土屋と三人で」
「う、うん」

遠藤くんはまだ何か言いたげだったけどそれ以上何も言わず、ぎこちない感じで別れた。
マンションに帰って、先にお風呂に入り豊が帰るのを待つ。あまり飲んでないと良いけどな。豊はお酒に強いけど明日も仕事だし身体が心配。

ガチャと玄関の開く音が聞こえた。

「お帰り」

リビングから廊下の扉を開けると豊がいきなり抱きしめてきた。

「お帰り。ど、したの?」
「黙って」

お酒と煙草の臭いがする。豊は煙草を吸わないけどお店で服に染み付いたのかな。

キスをする豊はいつもと違ってちょっと怖い。

言葉少なく僕を抱いたままソファーへと移動して少し乱暴に降ろされた。

「豊?」

ネクタイを緩めてシュルっと抜いた。
かっこいい。

僕は似合わないけどネクタイを緩める仕草って大人の男って感じで見惚れてしまう。

そんな惚けた考えとは違って、僕の両手を頭の上で固定してそのネクタイで括り始めた。

「いや、どうしたの?」
「何で、遠藤のこと追っかけてたんだ?知らないんじゃないのか?俺が飲みに行くの待ってたのか?ん?楽しかった?遠藤のこと、好きなの?」
「んっ…あ、っ…」

歯が当たるくらい乱暴にキスされた。

いっぱい質問したのにその答えを言わせて貰えない。いつものように胸をトントンと叩くこともできない。

どうして遠藤くんと会っていたのを知ってるかはわからないけど、そのこと以外は全部誤解だ。早くその誤解を解きたいのに豊の手は忙しなく動き僕のTシャツとハーパンを脱がしていく。

豊にされることは嫌なことじゃない。抵抗はしたくないけど、誤解はきちんと解いておきたかった。

顔をずらして、喋ろうとすると顎を持たれて元に戻される。何度かそんなことをしていると…、

「嫌なのか?俺とはキスするのも嫌なのか?」

強い口調なのにその瞳は悲しげで堪らない。

「ち、違うよ。誤解を解きたいだけなんだ」
「誤解?」
「そうだよ」
「でも、遠藤のことよく知らないって言ってたじゃないか?何で追いかけるんだよ?」
「…?さっきも追いかけてたって言ってたよね?…ああ、駅で豊からの電話を切った時遠藤に会ったんだ。で、食事に誘われて…」
「だから、知らないんだろ?」

未だにネクタイを解いてくれないし、Tシャツはその括られた両手首に絡まってハーパンも脱がされほぼ全裸の僕は恥ずかしさよりも情けなくなってきた。

抵抗するつもりはない。
…ないけど、変な誤解をしてる豊は僕の話を聞こうとしていない。

「これ、解いて?」
「ダメだ」
「どうして?」
「……」
「豊、キスして?」
「……」
「…してよ…僕からできない」

やっとキスしてくれた。

いつものキス。
チュッチュッと触れる唇に涙がこぼれた。

「ごめん」

ギュッと抱きしめてくれるけど、裸の身体にボタンやベルトが擦れて痛い。

「愛してる。豊だけだよ」

宥めるように囁けば、じっと顔を見つめられた。

「誤解を解きたいんだ」
「うん」
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