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第四章

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高校の時、あんなに二人きりで会いたかった。今、願いは叶ったけど、喜ぶ観点が違う。

『千明が来なくて良かった!』
ただそれだけ。

遠藤くんはただの友だち。太田くんと会うのと一緒。飲みに…と誘われて断ったのは、僕がお酒に弱いと知らない誰かと飲みに行くと無理に飲ませようとしたりするから嫌なんだ。

弱いって言っておいても、自分がいい感じに酔ってくると、お前も飲めと強いお酒を勝手に注文されたりするから困る。

ほんと、酔っぱらいって周りの事考えないよね。誰もがお酒が大好きって思ってる。僕もお酒は嫌いじゃないけど酔っぱらいは嫌い。酔うほどに人のこと聞きたがったりベタベタ身体触ったり…女を誘えって。

いくら僕がゲイだって誰でも良い訳じゃない。かっこいい人にそんなふうにされたら…そりゃ嬉しいけど「お前女みたいだな」なんて言う奴は願い下げだ。

「じゃあ、行こう」

何が食べたい?と聞かれて、一番返してはいけない答えを返してしまった。『何でも良いよ』本当に何でも良かったんだけど。

晩ご飯のことなんて考えてる余裕なかったから。今は早く豊に会いたい。どんなに豊のことで悩んでも、あの腕の中に閉じ込められたい。

そこが一番安心するんだ。

でも、今は無理なのはわかってる。ソワソワとしながら遠藤くんの後をついて行く。

作った料理を一緒に食べるのもいいけど、たまには外で食べるのもいいな。今日帰ったら早速お願いしてみよ…。休日に外で食べることはあっても、会社の帰りに外食することはほとんどなかった。ふふっ、甘えて言えばきっと『いいよ』って答えてくれる。豊と二人ならどこに食べに行こうかな…。

「郷ちゃん、なんか印象が全然違うんだけど。俺と会ってて、楽しい?さっきから顔がにやけてるように見える」
「えっ?あっ…違うから」

いけない。
豊のことを考えると思わず顔が崩壊してしまってたか?

千明が来ないなら怖いことはないと、豊のことばかり考えてた。

遠藤くんと千明の仲が今どうなっていようと僕には関係ないし。…あっ、結婚とかするんなら親戚になるのか?それはちょっと複雑だけど問題ないよ。

「そんな即答で否定しなくても…いいじゃん」
「えっ?あっ…そうかな」

なんだか不思議なことばかり言う遠藤くんはここだよとパスタとピザのお店に案内してくれた。
店内は明るく腰まで板張りで、天井までの白い壁は波打った感じに仕上げてある。その先に大きな窯が見えた。

茄子とベーコンのトマトソースのパスタは生パスタでもっちりとした食感が美味しかった。うどんも少し柔らかいくらいのが好きだから、固めのパスタよりはこっちの方が好き。

ピザもシェアして食べた。僕はマルゲリータとかシンプルなものが好きだけど、遠藤くんが注文したのはシーフードときのこがいっぱいのったピザだった。
こうして人の好きなものを食べると、新しい味が結構美味しかったりするから楽しいよね。食べず嫌いって訳じゃないけど、いつも自分が好きなものばかり頼んじゃう。

今日、遠藤くんから千明の話は出なかった。僕から話を振る事はしたくないから今の二人の関係はわからない。興味もないけど。

二人の共通の話題は千明と豊。

何故か不自然なくらい千明の話をしないから当然、豊の話ばかりする。

会社での豊のことを聞けて、凄く得した気分。頬が緩まないように引き締めるのに困った。

食事が終わり、帰ろうかという時「俺が誘ったから」と伝票を持ってさっさとレジに行ってしまい慌てた。

「待ってよ」
「いいから、奢らせて」

そのまま歩いて行ってしまうから追いかけるしかできなかった。

駅へ戻るまで止まってくれなくて、身長差により歩幅に明らかな違いがあるから小走りになってしまう。

その後ろ姿を豊が見ていたなんてその時は全然気付かなかった。
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