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第四章

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「隆、お待たせ」

今日もいつもの駅前で待ち合わせ。よほどのことがない限り毎日の日課。僕が本屋に寄ったりしてても、メールしとけばそちらに来てくれるから何も困らない。

待ち合わせって良いよね。

だってなんだよ?只々無駄な時間を潰してた僕としてはなんて甘い響きなんだろう…。

「あっ…ゆた、えっ?遠藤?」

豊の横を遠藤くんが歩いてきた。ベンチに座って、本を読んでたから直ぐ近くに来るまで、気付かなかった。

「郷ちゃん?」
「隆?遠藤のこと、知ってるの?」
「うん…高校の同級生…そう言えば、…」

今まで交わしてた朝の会話に『遠藤』って名前の同期がいるって言ってたな。まさか僕の元片想いの相手とは思ってなかった。
これは言わない方がいいだろう。別に元彼じゃないしやましいこともないけど、変な誤解はして欲しくない。

「郷ちゃん、久しぶり。…なんか雰囲気変わったな」
「そうかな…高校生と一緒にされたら困るけど…そんなに変わらないよ。遠藤は眼鏡掛けたんだな」
「何?お前ら知り合い?大学一緒だったのか?」

遠藤くんは僕と豊を交互に見て面白そうに言う。

「いや、ルームシェアしてるんだ。俺たち」
「へぇ~、なんか楽しそうだなぁ。俺も行って良い?」

えっ…ちょっと複雑。

大学どこに行ったかは知ってたけどわざと連絡しなかったし、遠藤くんからも何もなかった。それだけの関係。はっきり言って、千明のことがなければクラスが別れた時に話すらしなかっただろうただの同級生。

高校の時連絡先を交換したのも千明の我儘からだ。好きだったけど、見てるだけの片想いはこちらからアクションを起こすことはない。
連絡先を知った最初はそりゃ嬉しかったけど、自分の用事でそれが使われることはなかった。

遠藤くんのことは普通に何も知らない。今どこに住んでるのか。今も千明と付き合ってるのか。他にも何もわからない。
僕は変えてないけど、遠藤くんはメアドや電話番号を変えているかもしれない。確かめようと思ったこともない。忘れようとしたし、四年の間に自然と忘れた。

その気持ちを掘り起こすつもりはない。
豊に抱く気持ちと遠藤くんに向かってた気持ちは明らかに違う。高校生の片想いはどこか遊びの延長。

豊にも伝えるつもりはなかったけど、遠藤くんはほんとに見てただけの存在なんだ。それに千明の彼だったしね。
僕が困った顔をしていたからか、豊が言ってくれた。

「これから行くとこあるから。お前も誰かと待ち合わせとか言ってなかったか?」
「ああ、そうだった。郷ちゃん、またな」
「あっ、うん。また」

なんか、やだな…。

遠藤くんが今も千明と付き合ってることはないとは思うけど、確率はゼロじゃない。もう千明とは関わりたくない。

…豊を奪われたくないんだ。

遠藤くんと千明が付き合ってるなら豊を奪われることもないだろうけど…。

僕とよく似た千明…豊が千明と会った時に女の方が良いと思うかもしれない。

そんなことないと思う。思うけど…。小さい頃から散々虐められた。高校の時も…あれは虐めだよ。

遠藤くんと別れ、いつものように買い物してマンションに帰った。

「どうかした?遠藤と会うのやだ?」
「ううん…ただ、あまり知らないから」
「そう?まあ俺もここに誰も入れたくないからな。隆がもし懐かしいって思っても外で会えば良いよ」
「うん」

ちょっと違うけど、千明の名前を出すのも、それ以上にその理由を話すのもなんだか心の狭さを暴露しているようで嫌だったから、ただ頷いて返事した。
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