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第三章

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僕の勤める会社は豊の会社と最寄駅が一緒。だから、待ち合わせ場所は駅の近く。

駅と駅前の商業施設の間が小さな公園のようになっていて、水が滝のように壁を流れ落ちてその先へと続き、川のような流れの間に飛び石がありその周りにベンチがあった。木陰を作る街路樹があり、花壇には四季に合わせた花が植わってる。

親子連れが足早に通り過ぎ、会社帰りのサラリーマンやOLの待ち合わせ場所になっている。僕たちもそこが待ち合わせ場所。

聞くか?聞くまいか?
まだ答えは出ていない。これ以上避けることはできない。多分豊は僕が避けていたことに傷付いているみたいだし…。
申し訳ないです。

「隆」

爽やか笑顔の豊が片手を上げて近づいて来る。抱きつきたい。今日一日中不安だったから、その不安を少しでも取り除きたい。…そんなことはしないけど。

「行こっか」

買い物はマンションの最寄駅の近くのスーパーに行くことに今朝決めた。マンションの近くの方が庶民的な感じのスーパーなんだ。

二人で買い物して帰る。手は繋げないけど、二人の間にある空気は仄かに甘い。豊が僕を見る目は優しくって、あの時の怖いモードの顔なんか別人じゃないかと思うほどで、今までの朝とも違う。

部屋に入ると荷物を置いて、いきなり豊が抱きしめてきた。

「ど、どうしたの?」
「もう、よその男に色目使わないで…」
「えっ…?」

どう言うことですか?

キスで唇を塞がれる。貪るようなキスは、まだ慣れない僕には辛い。それでも背中に腕を回して、どうしてか辛そうな顔をしていた豊を安心させるように抱きついた。
内頬を刺激して歯列をなぞられ、舌を根元から絡められて電流が流れたように痺れた。

胸をトントンと叩いて苦しいアピールをするとようやく離れてくれたけど、抱きしめる力はさっきより強い。

「あの…色目なんて使ってないよ?」
「じゃあ、なんであんなに店員と仲良いんだよ?」

ここに越してから食品の買い物はあのスーパーかコンビニだった。

惣菜のとこにはまだ若いバイトの男の子。鮮魚には年配の威勢の良いおじいちゃん。精肉の所にも、野菜の所にも行けばおしゃべりする店員さんがいる。あまり料理はしなかったけど食品売り場って活気があって、暇つぶしの良い場所だったんだ。
もちろんコンビニの店員さんも他に誰も客がいないと話し相手になってくれる。雑誌やマンガの新刊が届くと教えてくれたり、ずっと立ち読みしてても嫌な顔されたことなかった。
ファミレスでも長く時間を潰してたって、バイトの大学生が暇な時に話しかけてくれたから退屈しなかった。

「話てただけだよ?変かな?」
「おかしい!あんなにあっちこっちで声かけられて、危機感が足りない。あんなに店員と話してる客が他にいるか?」

う~ん…どうだろう?
主婦はみんな忙しいからさ。帰って晩御飯の準備とかしないといけないから暇じゃないんだよ。今まで僕はどっちかって言うと時間を潰したかったからちょうど良かったんだけどな…。

「身体触らせて…もう我慢できなかった…」

切なそうに、僕の肩に頭を置いて呟く。

身体触られたかな?
ああ!

「あれは、肩叩かれただけだよ」
「別のおっさんに尻触られてた」
「あれも…別に変な意味なんてないよ」
「隆…お願い。もうちょっと自分の見た目を考えて…」

スーツ着たちょっと華奢なリーマンですけど…。

「わかった。気をつけるよ」

理由はわからないけど、ここは従っておこう。

「はあ~…本当にわかってる?」

一応、頷く。
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