上 下
8 / 45
第二章

03

しおりを挟む
その日、最初は頬に触れていた指が額に動いた。今まで、おでこを触られたことはなかった。

指先で髪をクルクルともてあそび、しばらく遊んでいた指はそっと髪をかき上げた。

そして触れた唇。

目を開けそうになった。でも、驚きすぎて声は出なかった。身体がピクッと動いたけど、おでこに唇が触れてる時は僕の顔は見えていないだろうから表情筋の微かな動きは気付かないだろう。まさか最初から起きていたとは思っていないと思う。
普通に寝ていても寝返りを打ったりするから、少しぐらい動いても大丈夫だと思うけど、起きてしまったと思ったのか直ぐに離れた唇に残念に思った。

次の日も触れる唇。
何度も触れることもある。枕に肘をつき髪を梳きながら額に、頬にと動く。

直ぐそこにある顔に息をするのも辛い。お互いが息を凝らしているようで、土屋くんは僕から離れるとフゥっと息を吐く。

顔が見たい。
不公平だ。

でも、ここで目を開けてしまえばこの儀式が終わってしまうのがわかってるから目は開けられない。

どういうつもりだろうか?指で触れることだって理由がわからなかったのに益々混乱してくる。
ただ心配しているだけではないと思うけど、その理由はわからない。やっぱり期待しちゃうよ…。


この部屋を、土屋くんを紹介してくれた友だちに聞いてみることにした。

居酒屋でカウンターに座り、適当に太田くんが頼んだつまみと、酎ハイを飲んでる。お酒はあまり強くない。隣ではビールを美味しそうに飲んでる太田くん。

「隆ちゃんもか……お前ら、なんかあったのか?」
「えっ?どういうこと?」
「豊からも隆ちゃんのこと聞かれたからさ。彼女いるのかとか、友だちは多いかとか、俺とよく会ってるのかとか?」
「なんて答えたんだよ」
「彼女いたことないけど、今は知らない。友だちは少ない。俺とは最近あまり会ってないって答えたら…しばらく黙ってたな。何があったんだよ?」

面白そうにニヤニヤしてる。太田くんにもゲイであることは打ち明けてない。でも彼女が欲しいと一度も言わないし、合コンも数合わせだと頼まれなければ参加しない僕のことはどんなふうに見えたのか?

「それっていつ頃?」
「そうだな…6月の真ん中くらい?あと、それから一ヶ月ちょい後」
「えっ?それって最近?」
「うん、一昨日」

今日は日曜日…一昨日ってことは金曜日か…そう言えば遅かったな…お酒の匂いもしてた…。
その日は帰りが遅くて待ってることができなかった。寝てしまった僕は、『ガチャ』と玄関の開く音がして目を開けた。起きた時はそれが玄関の開く音で土屋くんが帰ってきたとは思ってなくて時間を確認すると日付けが変わって直ぐくらいだった。
もう土屋くんも寝てしまったかなと残念に思いながらトイレに行こうと部屋を出ると、リビングに電気が付いていた。土屋くんがミネラルウォーターを飲んでてびっくりした。「お、おかえり」思わず呟いた僕に上機嫌で「ああ、ただいま」って笑顔が返ってくると、デートだったのかなと悲しくなった。
でも、デートじゃなかったんだ。

「で、土屋は?」
「大学の時は彼女いたみたいだけど、見たことないな。あの部屋は高校の同級生と借りてたけど、就職であのマンションから通えないって、出てったって聞いた。今の彼女のことは知らないよ?隆ちゃんのが知ってるんじゃないの?」
「知らないよ。しゃべらないし…」

そか…彼女がいたんだな…それだけわかればいいか。

もやもやするんだよ。

どんな気持ちで男のおでこにキスするのかがわからないんだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

塚野真百合
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

台風の目はどこだ

あこ
BL
とある学園で生徒会会長を務める本多政輝は、数年に一度起きる原因不明の体調不良により入院をする事に。 政輝の恋人が入院先に居座るのもいつものこと。 そんな入院生活中、二人がいない学園では嵐が吹き荒れていた。 ✔︎ いわゆる全寮制王道学園が舞台 ✔︎ 私の見果てぬ夢である『王道脇』を書こうとしたら、こうなりました(2019/05/11に書きました) ✔︎ 風紀委員会委員長×生徒会会長様 ✔︎ 恋人がいないと充電切れする委員長様 ✔︎ 時々原因不明の体調不良で入院する会長様 ✔︎ 会長様を見守るオカン気味な副会長様 ✔︎ アンチくんや他の役員はかけらほども出てきません。 ✔︎ ギャクになるといいなと思って書きました(目標にしましたが、叶いませんでした)

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

告白ゲーム

茉莉花 香乃
BL
自転車にまたがり校門を抜け帰路に着く。最初の交差点で止まった時、教室の自分の机にぶら下がる空の弁当箱のイメージが頭に浮かぶ。「やばい。明日、弁当作ってもらえない」自転車を反転して、もう一度教室をめざす。教室の中には五人の男子がいた。入り辛い。扉の前で中を窺っていると、何やら悪巧みをしているのを聞いてしまった 他サイトにも公開しています

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

【クズ攻寡黙受】なにひとつ残らない

りつ
BL
恋人にもっとあからさまに求めてほしくて浮気を繰り返すクズ攻めと上手に想いを返せなかった受けの薄暗い小話です。「#別れ終わり最後最期バイバイさよならを使わずに別れを表現する」タグで書いたお話でした。少しだけ喘いでいるのでご注意ください。

雪は静かに降りつもる

レエ
BL
満は小学生の時、同じクラスの純に恋した。あまり接点がなかったうえに、純の転校で会えなくなったが、高校で戻ってきてくれた。純は同じ小学校の誰かを探しているようだった。

処理中です...