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第二章

03

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その日、最初は頬に触れていた指が額に動いた。今まで、おでこを触られたことはなかった。

指先で髪をクルクルともてあそび、しばらく遊んでいた指はそっと髪をかき上げた。

そして触れた唇。

目を開けそうになった。でも、驚きすぎて声は出なかった。身体がピクッと動いたけど、おでこに唇が触れてる時は僕の顔は見えていないだろうから表情筋の微かな動きは気付かないだろう。まさか最初から起きていたとは思っていないと思う。
普通に寝ていても寝返りを打ったりするから、少しぐらい動いても大丈夫だと思うけど、起きてしまったと思ったのか直ぐに離れた唇に残念に思った。

次の日も触れる唇。
何度も触れることもある。枕に肘をつき髪を梳きながら額に、頬にと動く。

直ぐそこにある顔に息をするのも辛い。お互いが息を凝らしているようで、土屋くんは僕から離れるとフゥっと息を吐く。

顔が見たい。
不公平だ。

でも、ここで目を開けてしまえばこの儀式が終わってしまうのがわかってるから目は開けられない。

どういうつもりだろうか?指で触れることだって理由がわからなかったのに益々混乱してくる。
ただ心配しているだけではないと思うけど、その理由はわからない。やっぱり期待しちゃうよ…。


この部屋を、土屋くんを紹介してくれた友だちに聞いてみることにした。

居酒屋でカウンターに座り、適当に太田くんが頼んだつまみと、酎ハイを飲んでる。お酒はあまり強くない。隣ではビールを美味しそうに飲んでる太田くん。

「隆ちゃんもか……お前ら、なんかあったのか?」
「えっ?どういうこと?」
「豊からも隆ちゃんのこと聞かれたからさ。彼女いるのかとか、友だちは多いかとか、俺とよく会ってるのかとか?」
「なんて答えたんだよ」
「彼女いたことないけど、今は知らない。友だちは少ない。俺とは最近あまり会ってないって答えたら…しばらく黙ってたな。何があったんだよ?」

面白そうにニヤニヤしてる。太田くんにもゲイであることは打ち明けてない。でも彼女が欲しいと一度も言わないし、合コンも数合わせだと頼まれなければ参加しない僕のことはどんなふうに見えたのか?

「それっていつ頃?」
「そうだな…6月の真ん中くらい?あと、それから一ヶ月ちょい後」
「えっ?それって最近?」
「うん、一昨日」

今日は日曜日…一昨日ってことは金曜日か…そう言えば遅かったな…お酒の匂いもしてた…。
その日は帰りが遅くて待ってることができなかった。寝てしまった僕は、『ガチャ』と玄関の開く音がして目を開けた。起きた時はそれが玄関の開く音で土屋くんが帰ってきたとは思ってなくて時間を確認すると日付けが変わって直ぐくらいだった。
もう土屋くんも寝てしまったかなと残念に思いながらトイレに行こうと部屋を出ると、リビングに電気が付いていた。土屋くんがミネラルウォーターを飲んでてびっくりした。「お、おかえり」思わず呟いた僕に上機嫌で「ああ、ただいま」って笑顔が返ってくると、デートだったのかなと悲しくなった。
でも、デートじゃなかったんだ。

「で、土屋は?」
「大学の時は彼女いたみたいだけど、見たことないな。あの部屋は高校の同級生と借りてたけど、就職であのマンションから通えないって、出てったって聞いた。今の彼女のことは知らないよ?隆ちゃんのが知ってるんじゃないの?」
「知らないよ。しゃべらないし…」

そか…彼女がいたんだな…それだけわかればいいか。

もやもやするんだよ。

どんな気持ちで男のおでこにキスするのかがわからないんだ。
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