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第二章

01

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それからは早く帰った。

こんなに早く帰ったら今までの、ファミレスや公園で潰して避けていた時間の長さを土屋くんが気にするかと思ったけど、土屋くんはそんなに早く帰らないので、それは問題ないだろう。

土屋くんが帰ってくるまでにお風呂に入り食事をして自室に籠る。キッチンには土屋くんの大きな冷蔵庫があったから大学の時使ってた小さな冷蔵庫は自分の部屋に置いていた。引っ越して来た時に「この冷蔵庫、使ってくれて構わない」と言われたけど小さな冷蔵庫を捨てるのも勿体無くて部屋に置いていた。だから全然問題なかった。最悪、シャワーだけ済ませることができれば後は、トイレの心配だけ。それは仕方ない。

ここで気付く。
最初から早く帰れば良かったのではないかと。

でも、駄目だ。
朝、出勤したくないと思うあたりおかしいだろ。歯止めが効かなくなれば好きな相手と一緒に居たいと素直な気持ちに従ってしまいそうだった。晩御飯を一緒に食べる楽しさを、テレビを見て笑い合う喜びを知ってしまえば…それを失った時の寂しさは…計りしれない。

土曜も日曜も土屋くんの予定をさりげなく聞いて用事がない時は『あっ、そうなんだ。僕は友だちと映画観るから』と嘘をついて外出する。
逆に土屋くんが外出する時は家にいた。

結局、一緒にいられないと思わなければ、一緒にいたい。
だから無理して離れようとしたんだ。

そして、あの公園事件からこっち土屋くんが僕の部屋を覗くようになった。

その行為がいつから始まったのかは知らない。気付いたら…って感じで始まりはわからない。もしかしたら次の日からかもしれない。

でも、毎日なんだ、
気付けば毎日の日課のように僕の部屋を覗く。

あの日より前はそんなことしなかったから…心配してくれているのか?

基本各自の部屋には立ち入らないとルームシェアを始める時に決めた。

だから『止めて』と言うこともできたけど、土屋くんの安心したようなため息を聞いてると、心配されているのだとわかりそのまま甘受することにした。

僕の部屋に電気が付いていれば扉を開けることはない。けど、電気が消えてると…多分土屋くんが寝る前なんだと思うけど、僕の部屋を覗くんだ。好きになった人にこんなふうに気にされたら嬉しくないわけない。
安心してくれるんなら、心配かけた僕としては申し訳なさでいっぱいで、文句を言うなんて出来ない。
でもさ…僕が帰ってるのは知ってるはずなんだ。靴も玄関に置いてあるし、浴室も濡れている。土屋くんが帰ってきた時は大抵僕の部屋の電気も付いてる。玄関を開けて暗いリビングに入ったら漏れる明かりでそれは確認するなんて意識しないでもわかることなんだ。それでも僕を見て、ちゃんとベッドで寝ているのを確かめたいと言うことなのかな?


ある日、うとうとしていたら頬にさわさわと触れるものがある。優しく動くそれは気持ちよくて、いつまでも触れていて欲しいと思った。それは何かはわからないけど夢の中の出来事のようでそのまま寝てしまい、翌日には忘れていた。
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