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第一章

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あれこれ考えながらシャワーを浴びても答えは出ない。いつものように身体と髪を洗い、何回か出てきたため息のせいで空気が重く感じる浴室の壁に手を付いて項垂れる。

あまり時間稼ぎしても怖い土屋くんがますます怖くなるのが嫌で素早く身体を拭いて浴室を出た。

「こっち来て」

まだ怖いモードなので素直に従う。

何故かタオルを持っていて「ここ、座って」と促され椅子に座った。
わしゃわしゃと頭をタオルで拭かれてびっくりする。顔は怖いままだけど、僕の髪を拭く手は優しく動きずっとこのまま拭かれてたいとか思っちゃう…ダメだな…。

「じ、自分で、で、出来るから」

噛みまくって恥ずかしい。

「出来てないから濡れてるんだろ」

怖いモードのまま言われたら『だって土屋が怖いから急いだのに…』とは言えない。

「ごもっともです…すみません」と何故か謝ることになった。
ドライヤーまで出てこなくてホッとする。

髪を拭き終わり、共用スペースに置いてあるテーブルに向かい合って座る。シャワーを浴びている間に淹れたのか二つのマグカップにコーヒーが入ってた。僕のにはちゃんと砂糖が入ってるんだろう。いい具合に温くなったコーヒーを一口口に含み土屋くんをチラリと見ると、怒った顔のまま顔を背けた。顔を見るのも嫌なのか?
いつもの朝は穏やかな時間が出勤を拒むのに、今日は早く自分の部屋に行きたい。

「…で?」

って聞かれても何を質問されているかわからない。

「なんで公園に?」

ああ、そう聞いてくれよ。でも公園はみんなのものだし、僕がいても良いよね?

「何か問題でも?」
「特に問題はない」

良かった、と安堵の表情をしたのが気に入らなかったのか、

「…で?」

とまた同じ質問をされた。

「問題ないよね?」
「問題はないけど、理由を聞いている」

理由…『土屋くんに会わずに過ごすため』なんて言えないし…そもそもの『好きにならないため』なんてもっと言えない。
言ってしまっては今までの苦労が水の泡だ。気になるのだろうか?迷惑はかけていないはずだけど…。

黙ってしまった僕に焦れて、違う質問がされた。

「いつから?」

怖いモードの土屋くんは言葉数が異様に少ない。
端的で威圧的。

「えっと、何が?」

一応聞いてみたけど公園にいた時間だろうか?顎をしゃくって早く答えろと促される。今日は7時くらいだったかな。

「8時くらいかな」

正直に…正直じゃなかったけど…答えたのにますます表情が険しくなる。

「俺、7時半くらいにあの公園の近く通った。その時もあそこに座ってる奴がいた。あれは誰だったんだ?」

はぁ~…嘘はつくもんじゃないな。

「ごめんなさい7時です」
「…で?」

またですか?
なんだか土屋くんが辛そうな顔なのが気になる。怒ってる理由もわからないし。

「今度は…?…」
…何?

もう怖くて次の言葉が続かない。

「いつから?」

またですか?

「昨日もいただろ?公園に」

何日前から公園で時間潰しをしていたか?
いつぐらいかな?
二週間位前かな?
ここは正直に言おう。

「だいたい二週間です」

だっていつからかなんて覚えてないし…嘘は言ってない。
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