おはようの挨拶はキスで

茉莉花 香乃

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第一章

01

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四ヶ月くらい前から土屋豊とルームシェアしている。

大学時代の友人の太田哲夫が紹介してくれた。土屋くんは太田くんの高校の同級生で、三年生の時に同じクラスだったそうだ。

ゲイである僕が男とルームシェアはどうかと思ったけど…女とルームシェアの方が普通にダメかもしれないけど…、通勤にも便利だし家賃が一人で借りるよりはるかに安くて、有り難く借りることにした。
築年数も新しく僕の部屋も今までのワンルームと変わらない広さがあって、共用スペースもソファーが置けるほど広い。ルームシェアをすることを大家にも了解を得ているそうで僕には最高の部屋だった。

今春、就職して今まで親がお金を出してくれてたアパートは通勤にはちょっと遠い。
通えない訳じゃないけど、そこにこだわるほど愛着がある訳じゃない。単身者向けのそのアパートには独身の人も単身赴任の人も居たみたいだけど割合的に大学生が多く、自分がその中にいる時は何も不満はないけれど、社会人としてそこに住み続けることを想像すると…やっぱ、ないなと思った。

土屋くんには僕がゲイだとは言ってない。
言った途端に契約破棄になると流石に困る。

別に色恋ごとにならなければ、世間では普通に男女の友だちもいるようだし大丈夫だと思う。

今は恋人はいない。
…と言うか恋人は未だにいたことはない。いわゆる『彼氏いない歴=年齢』ってこと。

好きな人はいたけど、多分男に告られて『良いよ』とはならない。

ちなみに告ったこともないけどね。



僕の名前は郷田ごうだ隆之助りゅうのすけ
随分男らしい名前だと思う。

でもみんなには『郷ちゃん』や『隆ちゃん』と呼ばれる。

一度友だちに『郷ちゃんだから「ひろみちゃん」?駄目だ。似合いすぎて怖い』と言われ、なんだったんだ?と思う間もなくその話は終わった。
後から考えて『ああ、あの歌手の…』と思い至ったけれど…似合いすぎての意味は未だにわからない。
だって僕はあんなに男らしい顔じゃない。どっちかって言うと、童顔だから一人では飲みにも行けない。大学の時にとった運転免許証が僕の年齢を証明してくれるけど、そこまでして一人で飲みに行きたいとは思わない。

そんな僕の様子を土屋くんはえらく気にしてくれる。それは同居を初めた直後からだ。
それこそ『朝ご飯はちゃんと食べろ』とか『髪の毛はねてるぞ』とか…母親より細かいことを言ってくる。嫌味なところは一つもなくさらりとした気遣いにドキドキしながら言うことを聞く。同い年なのになんでもそつ無くこなす土屋くんはとっても頼りになる。

あまり二人きりでいると気を使うので、同居当初は寝るギリギリまで外で過ごしてから帰宅していた。

朝に会うのは仕方ない。

ちゃんと家賃を払っているんだからそんなに気を使わなくても良かったんだけど…、すっごい好みだったんだ。

思わず避けたくなるくらい。

太田くんと初めてにこの部屋に来て土屋くんに会った時、一目見て『良いな』って思ったんだ。

第一印象は大事だ。

一目見て『こいつとルームシェアとか無理』って思うと続かないだろうからその時は丁寧にお断りすればいい。

その『良いな』は友だちとしてではなく、限りなく好きになりそうな『良い』だったからヤバいんだ。
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