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素直じゃないは、正義じゃない
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「お~い、安村、直輝、中にいるんだろう?出てこいよ」
「あっ、はい。待って、直ぐに行くから」
その声と同時に暗幕のカーテンが開き、更衣室である狭い空間に財前が入ってきた。
「お前、何で入ってくるんだよ」
「直輝、声大きいよ」
「なんだ、ちゃんと着替えてるじゃん。なかなか出てこないから、中でイチャコラしてるのかと思った」
何とかキスを終わらせ、イタズラな直輝の手と戦いながら着替えを済ませた直後だった。
危なかった。
着替えの途中ならまだ誤魔化せても、キスしてるとこは見られたくない。キス直後のぼんやりとした顔も。それが例え僕たちの事を知っている財前にも。
「財前、何言って…」
何か、聞き捨てならないことを言ったよね?
「ヨシ、これくれるんだろう?」
これとは、今まで僕が来ていたメイド服。どうして直輝がこれを欲しがるのか?
「まあ、約束だからな。他の女子もそれぞれ自分のは持って帰るけど…」
「何だよ」
「いや、もともとそれ着るはずだった子が、欲しいって言ってきたからさ」
「そっちにやるのか?」
「いや、ちゃんと断ったって。それ、安村に着せて何する気?」
「へっ?」
「何でも良いだろ?ヨシには関係ない。それともお前は吉広直志に着せたいのか?」
「バッ!バッカじゃねぇの?」
「なに?吉広ならこれ、着られると思うけど…。財前と吉広って名前繋がりだけじゃないの?」
財前の名前は義弘〈よしひろ〉。そして、吉広〈よしひろ〉の名字と名前を繋げて、財前よしひろ直志と揶揄われている。だから直輝は吉広の事をフルネームで呼ぶし、財前の事はヨシと呼ぶ。これは中学から呼んでたみたいだけど、今では決して義弘とは呼ばない。それは、財前が呼ばせないのかもしれないけれど。
「何でもない。安村、気にすんな。それより、仲直り?したんだろう?」
「おう、心配かけたな。でも、お前のせいだし」
「何言ってるんだよ。お前らがちゃんと話し合わないからだろ?まあ、な。でも、良かったんじゃないか?前より自然な感じだし」
「あの…声大きいよ?二人とも」
何度も同じこと言わせないでよ。話の内容が内容なので、あまり大きな声は歓迎できない。直接的な話はしていないけど、感の鋭い子はわかってしまうのではないかな。
「緒方先輩から伝言頼まれた。…今から一時間やるから二人で回ってこいって。但し、一時間が終われば部活の方に顔出せってさ。安村が一緒でも構わないって言ってたぞ」
「ああ、サンキュー。じゃあ、睦己、行こうか?」
「ええっ?」
「俺と回るの嫌か?」
「やっ、嫌じゃ、ない、けど……」
「安村、諦めろ」
「財前まで…」
「二人がごちゃごちゃしてた時、直輝は部活で使い物にならなかった。それだけお前が気になるんだ。クラスでは普通にしてたけど…いや、あれは普通じゃなかったけどさ。今日くらいは目の届くとこに居てやれよ。昨日も大変だったんだぞ?」
「えっ?」
「ヨシ!睦己、何でもないから!」
「いやさ~心ここに在らずで…」
「ヨシ!」
「わかったよ。だから、な?安村」
「う、うん。…わかった」
そこまで言われて断ることもできない。ここで嫌だと言えば、また繰り返しになってしまう。今度は二度と修復できない別れが待っているかもしれないと思うと、今までの僕の態度を改めなくてはならないのはわかっているんだ。
それに、直樹の顔を見ると、情けなさそうな、懇願するような目で僕を見る。これは心配されているんだろう。トイレで聞いたことが真実なのだ。大好きな人のそんな顔を見たら、嫌だなんて言えるわけない。
簡易更衣室を出て、『使用中』の札を外す。一応、女子にも声をかけて、終わったことを知らせる。もうここを使うことはない。
今までならあり得ない近さでしゃべる僕たちを、周囲はそんなに気にしてはいなかった。
僕が意識し過ぎてたのかな?まさか付き合ってるとは思ってないからの対応なのだろう。やはり、警戒はしないといけない。でも、今までと同じではダメなのだろう。直輝が許してくれそうもないし、僕も嫌だ。
学校で直輝と過ごす楽しさを知ってしまった。体育で一緒に柔軟したり、直樹の作った弁当を食べるのは嬉しかった。今度は一緒に帰ったり、部活の見学もしてみたい。…陰から見るのではなく、もうちょと近くで。
「あっ、はい。待って、直ぐに行くから」
その声と同時に暗幕のカーテンが開き、更衣室である狭い空間に財前が入ってきた。
「お前、何で入ってくるんだよ」
「直輝、声大きいよ」
「なんだ、ちゃんと着替えてるじゃん。なかなか出てこないから、中でイチャコラしてるのかと思った」
何とかキスを終わらせ、イタズラな直輝の手と戦いながら着替えを済ませた直後だった。
危なかった。
着替えの途中ならまだ誤魔化せても、キスしてるとこは見られたくない。キス直後のぼんやりとした顔も。それが例え僕たちの事を知っている財前にも。
「財前、何言って…」
何か、聞き捨てならないことを言ったよね?
「ヨシ、これくれるんだろう?」
これとは、今まで僕が来ていたメイド服。どうして直輝がこれを欲しがるのか?
「まあ、約束だからな。他の女子もそれぞれ自分のは持って帰るけど…」
「何だよ」
「いや、もともとそれ着るはずだった子が、欲しいって言ってきたからさ」
「そっちにやるのか?」
「いや、ちゃんと断ったって。それ、安村に着せて何する気?」
「へっ?」
「何でも良いだろ?ヨシには関係ない。それともお前は吉広直志に着せたいのか?」
「バッ!バッカじゃねぇの?」
「なに?吉広ならこれ、着られると思うけど…。財前と吉広って名前繋がりだけじゃないの?」
財前の名前は義弘〈よしひろ〉。そして、吉広〈よしひろ〉の名字と名前を繋げて、財前よしひろ直志と揶揄われている。だから直輝は吉広の事をフルネームで呼ぶし、財前の事はヨシと呼ぶ。これは中学から呼んでたみたいだけど、今では決して義弘とは呼ばない。それは、財前が呼ばせないのかもしれないけれど。
「何でもない。安村、気にすんな。それより、仲直り?したんだろう?」
「おう、心配かけたな。でも、お前のせいだし」
「何言ってるんだよ。お前らがちゃんと話し合わないからだろ?まあ、な。でも、良かったんじゃないか?前より自然な感じだし」
「あの…声大きいよ?二人とも」
何度も同じこと言わせないでよ。話の内容が内容なので、あまり大きな声は歓迎できない。直接的な話はしていないけど、感の鋭い子はわかってしまうのではないかな。
「緒方先輩から伝言頼まれた。…今から一時間やるから二人で回ってこいって。但し、一時間が終われば部活の方に顔出せってさ。安村が一緒でも構わないって言ってたぞ」
「ああ、サンキュー。じゃあ、睦己、行こうか?」
「ええっ?」
「俺と回るの嫌か?」
「やっ、嫌じゃ、ない、けど……」
「安村、諦めろ」
「財前まで…」
「二人がごちゃごちゃしてた時、直輝は部活で使い物にならなかった。それだけお前が気になるんだ。クラスでは普通にしてたけど…いや、あれは普通じゃなかったけどさ。今日くらいは目の届くとこに居てやれよ。昨日も大変だったんだぞ?」
「えっ?」
「ヨシ!睦己、何でもないから!」
「いやさ~心ここに在らずで…」
「ヨシ!」
「わかったよ。だから、な?安村」
「う、うん。…わかった」
そこまで言われて断ることもできない。ここで嫌だと言えば、また繰り返しになってしまう。今度は二度と修復できない別れが待っているかもしれないと思うと、今までの僕の態度を改めなくてはならないのはわかっているんだ。
それに、直樹の顔を見ると、情けなさそうな、懇願するような目で僕を見る。これは心配されているんだろう。トイレで聞いたことが真実なのだ。大好きな人のそんな顔を見たら、嫌だなんて言えるわけない。
簡易更衣室を出て、『使用中』の札を外す。一応、女子にも声をかけて、終わったことを知らせる。もうここを使うことはない。
今までならあり得ない近さでしゃべる僕たちを、周囲はそんなに気にしてはいなかった。
僕が意識し過ぎてたのかな?まさか付き合ってるとは思ってないからの対応なのだろう。やはり、警戒はしないといけない。でも、今までと同じではダメなのだろう。直輝が許してくれそうもないし、僕も嫌だ。
学校で直輝と過ごす楽しさを知ってしまった。体育で一緒に柔軟したり、直樹の作った弁当を食べるのは嬉しかった。今度は一緒に帰ったり、部活の見学もしてみたい。…陰から見るのではなく、もうちょと近くで。
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