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素直じゃないは、正義じゃない
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「あのさ、どうして彼女ができるまでとか思ってたの?」
ようやく涙が止まり、未だ直樹の膝の上。
「だって…出会って一週間で男に告るって、冗談だと思った」
「それは、一目惚れで…」
「うん。僕も、入学式の直前にやられた」
「なんだ…。自分はそうなのに俺の事は違うと思ったの?」
「そんなうまい話、そうそうないだろ?一目惚れした相手から好かれてるなんてさ。それも、男同士だし。でも、それでも良いと思ったから」
「そ、そっか…」
「それに、彼女は『今は』いないって言ったから」
「いや、それは正しいだろ?その時はいないって、二股は掛けてないってことだろ?」
「……ううっ。ごめんなさい。信じてなかったんだね。でも、多分モテるだろうって思ったし、周りの女子の視線は直輝に熱かったから。僕なんかの相手はつまらないだろうからさ、直ぐに飽きるだろうって…」
「最初はそうでも、ずっとそう思ってたの?」
「だって、丸岡さんとの事はずっと聞いてたし、違う子から何回も告白されてるのも噂で聞いてたから…。もう終わりかな、一週間後かなって考えるのは辛かった」
「それでも、俺にくれたんだ…」
…睦己の初めてと耳元で囁かれてブルッと震え、身体の芯が熱くなる。
「うん…。だって、僕の気持ちは直輝だけだから。ずっと優しくしてくれた。初めてのキスも。何もかも直輝が初めて。それでも僕が慣れるまでゆっくり、少しずつ教えてくれた。無理矢理スルこともできたのに…」
「無理矢理なんて、そんなことするわけないだろ?」
「う、うん。今なら、そう思うよ。でも、その時は、不安だったから…。僕なんかに興味を持ってくれるのは、少しの間だけだろうって」
「僕なんかなんて言わないで?睦己は凄く魅力的だよ。何人も睦己の事狙ってる。神崎にも気を付けて」
「神崎って、あの神崎?」
「そう、睦己の席の近くの」
「どうして?」
「あれは、睦己に気があるんじゃないかと思う」
「そんなことないよ。直輝の考え過ぎ」
「だと良いんだけどね」
「何か、直輝、キャラ違う。こんなだった?」
「俺はずっとこんななの。ホントは誰にも見せたくない。俺のだって言いふらしたい」
「ふふっ、嬉しい」
いつまでもトイレに籠っているわけにはいかない。先輩に連れ出されて、教室を離れた時間は交代間近だった。そのため、クラスメイトには然程迷惑はかけていないと思うけれど、交代の挨拶と、謝罪の言葉くらいは必要だろう。
「そんなの、要らない」
「でも…」
「じゃあ、ヨシに連絡するか?」
「財前に?」
「そう。今回のはあいつが全部悪い」
「そんなことないでしょ?」
「いいや!これは、嫌がらせだったんだ。俺が惚気るから…と思う。俺が睦己をちゃんと紹介しないから、嫌がることをして、ついでに睦己の可愛さを確かめるつもりだったんだよ」
「そうかな?でも、これでわかったよね。そんなふうに思ってくれるのは直輝だけ…」
「だから!…まあ、良いか。そう、俺だけ。こんな可愛い睦己は俺だけに見せてくれたら良いから」
財前に電話すれば良いと言われたけれど、着替えは教室に置いてある。このままでは、廊下を歩くのも人目を避けるように歩かなければならない。だから、着替えたいので教室に戻らなくてはならない。
でも、いっぱいのキスで心を復活させた僕は、直輝の隣でニコニコだ。さっきまでと同じ格好で廊下を歩いても、気持ちが違うからか、景色まで違って見える。
今まであった変な緊張や警戒がなくなり肩の力が抜ける。直輝との事をみんなに知られまいと、常に張っていたレーダーをオフにしてしまえば、なんて穏やかな気分でいられるのだろう。
「何でそんなに笑顔なの?」
「そりゃ、嬉しいから」
「何が?」
「何がって…、だって、別れなくてもいいん、で、しょ?」
何か、間違っただろうか?
「そうだけど、そんな可愛い顔は俺の前だけで良いんだけど…」
「ええっ?どんな顔?」
「どんな顔でも…。でも、仕方ないよな。睦己が吉広直志や井尻としゃべってるのは腹立つけど、あんなふうにみんなの中で楽しそうな睦己を見るのも新鮮だった。睦己の世界は睦己のものだしな」
「そんな…、僕は直輝の側に居ればそれで…」
ようやく涙が止まり、未だ直樹の膝の上。
「だって…出会って一週間で男に告るって、冗談だと思った」
「それは、一目惚れで…」
「うん。僕も、入学式の直前にやられた」
「なんだ…。自分はそうなのに俺の事は違うと思ったの?」
「そんなうまい話、そうそうないだろ?一目惚れした相手から好かれてるなんてさ。それも、男同士だし。でも、それでも良いと思ったから」
「そ、そっか…」
「それに、彼女は『今は』いないって言ったから」
「いや、それは正しいだろ?その時はいないって、二股は掛けてないってことだろ?」
「……ううっ。ごめんなさい。信じてなかったんだね。でも、多分モテるだろうって思ったし、周りの女子の視線は直輝に熱かったから。僕なんかの相手はつまらないだろうからさ、直ぐに飽きるだろうって…」
「最初はそうでも、ずっとそう思ってたの?」
「だって、丸岡さんとの事はずっと聞いてたし、違う子から何回も告白されてるのも噂で聞いてたから…。もう終わりかな、一週間後かなって考えるのは辛かった」
「それでも、俺にくれたんだ…」
…睦己の初めてと耳元で囁かれてブルッと震え、身体の芯が熱くなる。
「うん…。だって、僕の気持ちは直輝だけだから。ずっと優しくしてくれた。初めてのキスも。何もかも直輝が初めて。それでも僕が慣れるまでゆっくり、少しずつ教えてくれた。無理矢理スルこともできたのに…」
「無理矢理なんて、そんなことするわけないだろ?」
「う、うん。今なら、そう思うよ。でも、その時は、不安だったから…。僕なんかに興味を持ってくれるのは、少しの間だけだろうって」
「僕なんかなんて言わないで?睦己は凄く魅力的だよ。何人も睦己の事狙ってる。神崎にも気を付けて」
「神崎って、あの神崎?」
「そう、睦己の席の近くの」
「どうして?」
「あれは、睦己に気があるんじゃないかと思う」
「そんなことないよ。直輝の考え過ぎ」
「だと良いんだけどね」
「何か、直輝、キャラ違う。こんなだった?」
「俺はずっとこんななの。ホントは誰にも見せたくない。俺のだって言いふらしたい」
「ふふっ、嬉しい」
いつまでもトイレに籠っているわけにはいかない。先輩に連れ出されて、教室を離れた時間は交代間近だった。そのため、クラスメイトには然程迷惑はかけていないと思うけれど、交代の挨拶と、謝罪の言葉くらいは必要だろう。
「そんなの、要らない」
「でも…」
「じゃあ、ヨシに連絡するか?」
「財前に?」
「そう。今回のはあいつが全部悪い」
「そんなことないでしょ?」
「いいや!これは、嫌がらせだったんだ。俺が惚気るから…と思う。俺が睦己をちゃんと紹介しないから、嫌がることをして、ついでに睦己の可愛さを確かめるつもりだったんだよ」
「そうかな?でも、これでわかったよね。そんなふうに思ってくれるのは直輝だけ…」
「だから!…まあ、良いか。そう、俺だけ。こんな可愛い睦己は俺だけに見せてくれたら良いから」
財前に電話すれば良いと言われたけれど、着替えは教室に置いてある。このままでは、廊下を歩くのも人目を避けるように歩かなければならない。だから、着替えたいので教室に戻らなくてはならない。
でも、いっぱいのキスで心を復活させた僕は、直輝の隣でニコニコだ。さっきまでと同じ格好で廊下を歩いても、気持ちが違うからか、景色まで違って見える。
今まであった変な緊張や警戒がなくなり肩の力が抜ける。直輝との事をみんなに知られまいと、常に張っていたレーダーをオフにしてしまえば、なんて穏やかな気分でいられるのだろう。
「何でそんなに笑顔なの?」
「そりゃ、嬉しいから」
「何が?」
「何がって…、だって、別れなくてもいいん、で、しょ?」
何か、間違っただろうか?
「そうだけど、そんな可愛い顔は俺の前だけで良いんだけど…」
「ええっ?どんな顔?」
「どんな顔でも…。でも、仕方ないよな。睦己が吉広直志や井尻としゃべってるのは腹立つけど、あんなふうにみんなの中で楽しそうな睦己を見るのも新鮮だった。睦己の世界は睦己のものだしな」
「そんな…、僕は直輝の側に居ればそれで…」
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